「遠隔集中治療(Tele-ICU)」をご存じだろうか。複数の病院の集中治療室(ICU)をICTネットワークで結び、1カ所のサポートセンターで24時間体制で支援するシステムである。

 日本でのTele-ICUシステムの構築に積極的に取り組んでいるグループは幾つかあるが、そのうちの一つが横浜市立大学だ。2020年度には同大学附属病院を中心に4病院で一元的にICUを監視サポートする実証事業を計画している。

 実は、この実証事業には、横浜市が参画して事業支援している。なぜ行政が遠隔集中治療という分野に一般財源を投じて事業補助しているのか――。その理由を、横浜市会議員の鈴木太郎氏が「第23回 日本遠隔医療学会学術大会」(2019年10月に盛岡市で開催)で語った。

横浜市会議員の鈴木氏(写真:Beyond Healthが撮影)

「メリットを享受」

 市が事業支援する背景にあるのは、集中治療専門医の不足による市立病院の現場の負担増大という課題だ。

 現在、横浜市内には、市が直接関与する病院が3施設ある。横浜市立市民病院、横浜市立脳卒中・神経脊椎センター、横浜市立みなと赤十字病院(日本赤十字社が指定管理者として運営)だ。3病院のICUは合計で約60床。「これら3病院の集中治療体制は、決して多くない専門医によって24時間体制で対応できているかと言えば、対応しきれていないのが現状」(鈴木氏)だという。

 そこで横浜市は、所管する病院における医療の質向上や現場の働き方改革に向けて、新たな手を打つことにした。それが、横浜市立みなと赤十字病院を除く市立病院2施設に、市と関係の近い横浜市立大学附属病院および附属市民総合医療センターを加えた4施設をICTネットワークで結ぶこと。「横浜市立大学の事業を支援することで、メリットを享受できないかと考えた」(鈴木氏)。

予算を確保できた根拠とは…

 もっとも、集中治療専門医の不足による現場の負担増は、横浜市のみならず日本全体での課題となっている。国内のICUの病床数約7000床に対し、集中治療専門医は約1500人程度とされる。そこで厚生労働省は医療現場の働き方改革の一環として、2019年度に「Tele-ICU体制整備事業」に5億5000万円の予算を付けている。

 横浜市立大学の実証事業では、この予算からシステム構築費の50%が補助されている。そして、残りの50%のうち約半額弱を負担しているのが横浜市だ。鈴木氏は、「Tele-ICUの意義は理解できるものの、市として一般財源で補助するには医療の文脈だけでは難しい。市民へのメリットを考えた行政的な文脈が必要だった」と話す。

 その際に役立ったのが、市の「官民データ活用推進計画」だったという。2016年12月に施行された官民データ活用推進基本法を受け、鈴木氏らが議員提案で制定した条例に基づく計画だ。

 同計画は、情報を根拠とした効率的な市政運営や市内経済の活性化、市民が安全で安心して暮らせる生活環境の実現を目指すもの。「先端技術やデータを活用した取り組み、データ活用に関する調査研究を協働・共創によって推進すること、横浜市立大学をはじめとした大学・研究機関と連携することなどがポイントとして掲げられている」(鈴木氏)という。これを行政的な文脈の根拠とすることで、極めて短期間に横浜市立大学の実証事業への補助決定ができたと振り返る。

 横浜市では現在、同計画に基づいた公民連携プロジェクトとしてTele-ICUの実証事業のほかに、小児科医による小児科オンライン相談の実証事業にも取り組んでいる。専門医によるオンライン相談で未就学児の過度の受診を削減できるか、母親の不安解消が可能か、などを検証しているという。

(タイトル部のImage:Beyond Healthが作成)