「第2回メドテック・イノベーションシンポジウム&ピッチ」(主催:ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン<LINK-J>)が2019年11月5日、都内で開催された。その一つのプログラムとして「大学・企業・病院発 メドテック・イノベーションピッチ」を実施。同年7月からの選考を勝ち抜いたスタートアップが登壇した。

 登壇したのは、bitBiome、シンクアウト、Cross Sync、アドリアカイム、iMed Technologiesの5社。メドテックの名を冠した通り、5社とも医療領域に深く切り込んでいるのが特徴だ。3人が現役の医師であり、担当科も眼科、急性期医療、脳内手術の外科医とバラエティに富む。さながら現場の課題・ニーズを端緒としたメドテックの最前線事例の様相を呈していた。

審査員の面々。左から三菱UFJキャピタル 執行役員 ライフサイエンス部長 長谷川 宏之氏、US-Japan Medtech Frontiers, Board member Kirk Zeller氏、MedVenture Partners 代表取締役社長 大下 創氏、日本医療機器開発機構 代表取締役 CEO 内田 毅彦氏(写真:小口 正貴、以下同)

 5分間のピッチ+5分間の質疑応答の合計10分間の形式で、審査員は医療機器関連のベンチャーキャピタリストが担当した。審査の結果、優勝したのは、オリンパスからスピンアウトしたアドリアカイム。同社にはシリコンバレーへの海外派遣プログラムの渡航費、または最大1億円までの事業化費用の出資などが検討されるという。

 以降では、前述の5社を登壇順に紹介していく。

●bitBiome

 早稲田大学発のスタートアップであるbitBiome。同社 取締役COOの藤岡直氏は「微生物は我々の生活に密接に関わっている。しかし地球上の微生物のうち、1%しかゲノムが解析されておらず、残る99%は大きなポテンシャルがある。この応用を強く進めていきたい」と語る。

bitBiome 取締役COOの藤岡 直氏

 例えば昨今注目を集める腸内細菌叢は、認知症、がん、糖尿病、肥満などの疾患に影響を与えていると言われるが、従来のような微生物集合体のメタゲノム解析では全体像を把握することには長けていても、どのピースが重要なのかを解析することはできない。そこで同社は細胞1個単位を網羅的に実行するシングルセルゲノム解析を開発。これを用いて、より高精度な微生物情報を取得する。

 同社のシングルセルゲノム解析ではマイクロ流体技術を活用し、複雑な微生物のコミュニティから一つひとつを分離してゲルカプセルに閉じ込める。言うなれば微生物のピンポイント解析である。この処理を超並列化することで膨大な微生物ゲノムを一気に増幅する。藤岡氏は「これまで課題だったコンタミネーション(実験汚染)やバイオ条件の検討などを解決し、培養の必要もなく、ハイスループットかつ低コストでゲノム解析可能なプラットフォーム」と説明した。

 このプラットフォームを「bit-MAP」と名付け、マイクロバイオーム(細菌叢と生物の関わり)の解析によって次世代への医療応用を目指す。「さまざまなアカデミアや企業とコラボレーションを図っていきたい。マイクロバイオームを用いた創薬、診断薬、パネル検査を非常に低侵襲で実現できるようになれば、医療応用で大きなインパクトが出せると考えている」(藤岡氏)とした。

●シンクアウト

 シンクアウトは兵庫県姫路市にある「ツカザキ病院」の眼科からスピンアウトしたスタートアップ。眼科内のAIチームが元になっている。臨床医でもありAIエンジニアでもある同社 CTOの升本裕紀氏は「眼科医やメディカルスタッフ、プログラマーなど多職種から構成。病院とIT企業が同居しているような環境だ」と話す。

シンクアウト CTOの升本 裕紀氏

 同眼科は年間手術件数が約8000件と国内で最大規模であり、豊富な臨床データベースを構築している。このデータを生かし、AIによって点眼状況を把握する点眼瓶センサーを開発した。点眼瓶を支えるホルダーとモーションセンサーを組み合わせ、センサーがXYZ軸の波形を察知。Z軸方向の波形をもとに患者が点眼したかどうかをAIで判断する。また、点眼ではないパターンの波形を除去して精度を高めた。モーションセンサーでの点眼把握の特許は取得済みだ。

 きっかけは途中で点眼をやめてしまう緑内障患者が多いことだった。「緑内障は日本における中途失明原因の第1位。治療の中心が眼薬であり、放っておくと失明するリスクがあるにもかかわらず、30%の人は点眼をやめてしまう。そこで監視できるデバイスを開発した」(升本氏)。

 デバイスは30日間バッテリーが持続し、利用方法をアニメーションで見せる工夫も凝らした。将来的にはBluetoothでスマホのアプリと連動させ、在宅時に点眼回数を守っていないとAIが判断したらアラートを出す機能も付加する。

 緑内障患者は日本国内だけで約400万人と言われ、市場規模は小さくない。しかも高齢者になるほど罹患率が高まり、高齢化が進む社会情勢ともリンクしている。医療機器を目標としており、升本氏は「現場直結だけに臨床試験は圧倒的に速い。加えて過去のデータ量と質が我々の強み」と話した。

●Cross Sync

 急性期医療現場におけるミスや連携不足は、重大なインシデントにつながる。このリスクを回避するため、Cross SyncではAIをベースにしたソリューションを開発している。

Cross Sync 代表取締役の高木 俊介氏

 同社 代表取締役 高木俊介氏は横浜市立大学附属病院の集中治療部に在籍する急性期医療のスペシャリスト。高木氏によれば、ICU(集中治療室)でのインシデントは、確認不足、観察不足、連携不足などが実に事故原因の61%にも上るという。

 「ICUには多様な医療機器がスタンドアロンで存在し、それぞれの情報を医師が単独で判断している。集中治療医は患者の情報を集約し、どんな治療が必要かを瞬時に判断しなくてはならない。しかし事故が発生しやすい夜間は若い医師やスタッフが勤務することが多く、患者の変動に気づくタイミングをいくつか逃してしまう。これは現場でまだ起きている事実だ」(高木氏)。

 Cross Syncでは患者の画像をAIで解析して、重症度を自動的に判定するソリューションを提供する。「このソリューションは多職種、さまざまなレベルの医療経験者でも同様の重症度判定ができる点がメリット」(高木氏)。2019年6月には海外の学会で発表し、大きな注目を集めた。

 現在はモックアップを開発中で、近いうちにベータ版をリリース予定。横浜市立大学では2020年度から、横浜市と協力して複数病院のICUをネットワークで結ぶ「遠隔集中治療(Tele-ICU)」を実証予定であり、高木氏はその中心人物の1人でもある。そのため、本ソリューションのTele-ICUへの導入を見込む。「20年間、急性期医療の現場で勤務し、連携ミスによるインシデントを目の当たりにしてきた。この課題を解決したい。いつでもどこでも情報共有を加速することで、どの患者を優先的に治療すべきかに役立てていく」(高木氏)。

●アドリアカイム

 日本において、がんに次いで高い死亡原因となっている心疾患。アドリアカイムが提供するのは、急性心筋梗塞の治療デバイス「ARiS(アリス)」(開発コード名)である。

アドリアカイム 代表取締役の小林 正敏氏

 元々はオリンパスが手掛けていた循環器領域からスピンアウトしたメンバーが中心。研究の基本は国立循環器病研究センターとオリンパスが共同開発したもので、自律神経刺激技術の成果をはじめ、40件もの技術特許を買い取った。そのため、オリンパスとの資本関係はないとする。

 同社 代表取締役の小林正敏氏は「急性心筋梗塞は日本では毎年10万人、米国では毎年100万人発症。今は5%までに死亡率が減ったが、むしろ一命を取りとめても重篤な症状の患者が増えており、心筋梗塞由来の心不全発症が表面化してきた」と話す。慢性心不全の患者は2030年には日本では132万人、米国では849万人になると予測され、特に米国では莫大な治療費が問題視されている。

 アリスは世界初の副交感神経刺激デバイスであり、梗塞領域を10%以上改善することを目的とした。「我々のコンセプトは、副交感神経に電気刺激を与えて梗塞領域の拡大を止めるもの。国立循環器病研究センターとの非臨床試験、動物実験を通じて38%の改善が見られた」(小林氏)。

 国内で1.5万人の心不全発症を抑え、年間500億円以上の医療費削減に寄与するビジネスモデルを想定。新しい医療機器のため前例がないが、「そもそも心不全に至る患者をなくすことが狙いだが、完成すれば心筋梗塞を始め、脳梗塞、肝臓がん、糖尿病などにも適用できるのではないか」(小林氏)と期待を込めた。上市は2025年を予定する。

●iMed Technologies

 iMed Technologies代表取締役CEOの河野健一氏はこれまで16年間、脳内血管手術に携わってきた現役医師。脳内血管は1~2mmと非常に細く、カテーテルやガイドワイヤーの動きを血管撮影装置の画面をガイドにしながら手術を行う必要がある。

iMed Technologies 代表取締役CEOの河野 健一氏

 「カテーテルの先端を見落とすと血管を突き破って脳出血で死亡する。当然、我々が術中のチェックを怠ることはないが、実際に事故が起きてしまったこともある。そこで私はディープラーニングを用いた手術支援AI、神の目を作ることを考えた。AIで安全な治療を提供したい」(河野氏)。

 大学病院と連携して100万枚の画像データを入手し、AIに活用する。「ディープラーニングは専門医の私でさえも見つけにくい部分を発見した。そのとき、AIは世界一の脳血管内医師を超えるだろうと確信した」(河野氏)。現在はカテーテルの先端を判断してアラートを発するところまで開発しており、2023年には上市したい構えだ。さまざまなプログラムにも応募し、2019年度にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「研究開発型ベンチャー支援事業/NEDO Entrepreneurs Program(NEP)」にも採択された。

 医療におけるディープラーニング活用の分野は競合が多いが、ほとんどが診断領域にフォーカスしているため、手術領域では強みがあるとする。ピッチ翌日にも手術に立つと話した河野氏は「現場を常に見ながらやっている事業」であることを強調した。2025年における日本と海外での売上目標が合計33億円と、夢も大きい。


(タイトル部のImage:小口 正貴)