柏の葉に医療機器開発のエコシステムを構築することを目指して2021年10月26日にオンライン開催された「第5回メディカルデバイスイノベーション in 柏の葉」。「経営者、起業家、投資家、医師、それぞれの立場から語るイノベーションの融合」と題したパネルディスカッションが実施された。パネリストとして、シニフィアン 共同代表の朝倉祐介氏、MedVenture Partners代表取締役社長の大下創氏、国立がん研究センター東病院 大腸外科長/手術機器開発室長の伊藤雅昭氏、国立がん研究センター東病院 機器開発推進室/スタートアップ支援室長の竹下修由氏が登壇。スタンフォード大学 主任研究員の池野文昭氏がモデレータを務め、主にスタートアップに関する議論が繰り広げられた。

 最初にモデレータの池野氏は、投資などでスタートアップを支援する立場にあるシニフィアンの朝倉氏とMedVenture Partnersの大下氏に、「スタートアップにチャレンジすることのリスク」や「スタートアップを増やすために必要なこと」などについて聞いた。

スタンフォード大学 主任研究員の池野文昭氏
スタンフォード大学 主任研究員の池野文昭氏
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 朝倉氏はまず「リスクの捉え方は人それぞれ」と前置きしつつ、自身の経験から「最近はむしろ、スタートアップにからんでいない方がリスクではないか」と指摘。近年ではスタートアップに関連の高いDXやデジタル系の求人倍率が高騰していることから、例えば大学を卒業したばかりの若いビジネスパーソンなどが「スタートアップにまったく目を向けないというのは、大きなリスクになるはず」との考えを示した。

 スタートアップを増やす方法としては、すべての業界のすべての人に起業マインドを植え付けるようなやり方は「あまり得策ではない」とする。どちらかといえば、小さなコミュニティーでたくさんのスタートアップの成功事例が生まれるような環境を作って「起業に対するハードルを下げることが重要だ」と説いた。

シニフィアン 共同代表の朝倉祐介氏
シニフィアン 共同代表の朝倉祐介氏
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 大下氏も、朝倉氏の意見に同調した。特に、同氏が多く取り扱う医療分野のスタートアップでは、他の分野よりも成功事例が圧倒的に少ないことから、現実的な成功を描けるくらいの「成功事例を積み重ねる必要がある」と述べた。その点で、国立がん研究センター東病院の伊藤氏が設立したA-TractionがM&Aまでたどり着いたことはとても意味がある事例だとし、「起業しようと考える人も増えるだろう」とした(関連記事:外科医が開発したがん手術支援ロボ、スタートアップ立ち上げから買収までの全貌)。

MedVenture Partners代表取締役社長の大下創氏
MedVenture Partners代表取締役社長の大下創氏
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 国立がん研究センター東病院の伊藤氏と竹下氏に対して池野氏は、「医師でありながら起業した理由」を聞いた。伊藤氏は「新しい医療を生み出すことに夢を感じたから」と回答。新しい医療を生み出すことは基本的に「患者を元気にする」ためにやっていることだが、それが結果として富を生んだり経済を回したりしていくことで「日本も元気できる」ということに気づいたとした。1人の患者と対面で向き合う医師とは違い、新しい医療は「1つで多くの人を救える可能性を秘めている」ことから、今後も「2回目、さらには3回目の起業にチャレンジしていきたい」と力強く語った。

国立がん研究センター東病院 大腸外科長/手術機器開発室長の伊藤雅昭氏
国立がん研究センター東病院 大腸外科長/手術機器開発室長の伊藤雅昭氏
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 竹下氏は、「臨床現場に貢献したい」という考え方がベースにあったことから、一般的な基礎研究よりも機器開発の方が「実臨床に直結しやすい」というのが、起業のポイントになったとする。革新的な技術を生み出すにあたっては、自分でニーズを見つけて現場で作り出していく方が「自分の強みにもなるし、スピード感も出せるのでメリットになる」と説明した。

国立がん研究センター東病院 機器開発推進室/スタートアップ支援室長の竹下修由氏
国立がん研究センター東病院 機器開発推進室/スタートアップ支援室長の竹下修由氏
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「“買収側の成功体験”も増やしていく必要がある」

 次に池野氏は、朝倉氏と大下氏に投資家の観点から「投資対象となるスタートアップの判断基準やチェックポイントは何か」を質問した。

 朝倉氏は、グロースキャピタルであるシニフィアンの特徴から「シードやアーリーといった初期のスタートアップを対象とする投資家の基準とはやや異なる」と断りつつ、「経営チーム」「事業の本質的価値」「上場の蓋然性」「財務体質」「投資条件」という5つの基準を挙げた。さらに、この中でもっとも重要なポイントとして「経営チーム」をピックアップし、この点は「シードやアーリー、あるいは上場前のスタートアップであっても、高次元で満たしていることが求められる」とした。

 アーリーステージのスタートアップも対象とする大下氏も、まずは「チーム」の重要性を強調。特に、医療機器の開発では「医工連携」が必要となることから、「医師と技術者のコミュニケーションが取れていないと難しい」と指摘した。アーリーの場合は「プロダクト」「マーケット」「チーム」といった要素がすべて高水準でそろっている必要はなく、「どれか1つが際立って良ければ、他は目をつぶる」という感覚が必要になるとのこと。イメージとしては「減点方式ではなく、完全に加点方式で判断する」とし、実際にA-Tractionのケースでも「製品の完成形や市場ははっきりしていなかったが、伊藤氏のチームは際立って良かった」ことから投資を決めたと振り返った。

 最後に池野氏は、「今後の日本の経済成長を担うスタートアップを生み出すエコシステムを作っていくためには、何が必要か」をたずねた。

 大下氏は、ベンチャーキャピタルに求められる点として「きっちりとリターンを出し、資金調達ができる状態を継続していく」ことを挙げた。「M&Aの後でも成長していくことが重要」という点にも触れ、M&Aした企業が「買収して良かったと思えないと、買収自体が増えない」と指摘。医療機器であればその製品が医師や患者に届き、それを使った医師が「自分も新しい医療機器を作ってみようか」と思えるようなムードを醸成することの必要性も説いた。

 朝倉氏は、入口側での「起業の絶対数の増加」と、出口側での「M&Aの成功」「IPOの成功」という3点を挙げた。大下氏が語った「M&A後の成長」にも賛同し、買収したスタートアップが買収後も自社の事業に大きな貢献を果たしたという「“買収側の成功体験”も増やしていく必要がある」と補足した。

(タイトル部のImage:monsitj -stock.adobe.com)