自治体とヘルスケアスタートアップの連携気運を高め、マッチングを支援する――。そんな趣旨のセミナーが、「クロスヘルスEXPO 2019」(2019年10月9~11日に開催)内で実施された。ヘルスケアスタートアップなどのソリューションを活用した地域課題の解決に取り組んでいる経済産業省 関東経済産業局が企画したセミナーだ。

 同局 局長の角野然生氏は、狙いについて次のように語る。「自治体やヘルスケアスタートアップを訪問した際、自治体からは住民サービス向上のために民間企業の力を借りたいという声があった。一方、スタートアップからは、事業展開していく中で自治体と連携したいという声を聞いた。ところが両者とも、具体的にどう踏み出せばいいのか分からない実状が浮かび上がった。今回のセミナーを機に、一緒に課題解決につなげていければと期待している」。

経済産業省 関東経済産業局 局長の角野 然生氏(写真:加藤 康、以下同)

 登壇したのは、既に連携して課題解決に取り組んでいる「自治体×スタートアップ」の組み合わせ2組と、自治体向けのソリューションを持つヘスタートアップ5社である。本記事ではこのうち、前者の2組の取り組み事例について見ていこう。

【藤枝市×IoTBASE】認知症者見守り事業

 第1の事例は、静岡県藤枝市とIoTBASEの連携だ。

 藤枝市では今、「ICTで人の流れを呼び込む町づくりに取り組んでいる」(藤枝市 企画創生部ICT推進室の齋藤栄一郎氏)。その一環として、LPWAと呼ばれる低消費電力の遠距離通信環境を全国に先駆けて整備した。そこで、この通信環境を生かし、地域課題解決に向けた実証実験を公募。その一つとして取り組むことになったのが、認知症者の見守り事業だ。

 活用したのは、IoTBASEが提供するIoTプラットフォームである「SmartMap」。GPS端末によって、見守る高齢者の位置情報をマップ上に展開できる。これを、徘徊などによる行方不明者の早期発見に生かす実証実験を実施した。

藤枝市 企画創生部ICT推進室の齋藤 栄一郎氏

 ただし、認知症高齢者は携帯型のGPS端末を常に携行することが難しい。そこで、シューズ型やベルト型、キーホルダー型など様々なセンサー内蔵端末を用意。利用者の生活様式に合わせて選べるようにした。

 こうした高齢者の見守りサービスでは、自治体が有効に継続運用できるかが大きな課題となる。その点については、「民生委員をはじめとする地域の見守り体制を壊すことなく、そこにどう取り入れられるかという視点で取り組んだ」(齋藤氏)とする。

IoTBASE 代表取締役の澤和 寛昌氏

 IoTBASEは、SmartMapによって収集した認知症高齢者の位置情報をまとめ、色や濃淡で表現できるヒートマップを作製した。「この情報を、許される範囲でケアマネジャーと共有し、見守り体制を構築した」(同社 代表取締役の澤和寛昌氏)。利用したプラットフォームは複数センサーを一括して管理できるため、今後は「独居高齢者の宅内と屋外での見守りサービスなど、発展的な活用が期待できる」(同氏)とした。

【豊中市×CureApp】禁煙支援事業

 第2の事例は、大阪府豊中市とCureAppの連携だ。

 豊中市が現在取り組んでいるのは、「とよなか卒煙プロジェクト」。実施期間は2019年6月末~2022年3月末まで。期間中に計900人の参加を目標とし、禁煙成功率50%見込む(関連記事)。

 ここで活用したのが、CureAppの「ascure卒煙プログラム」だ。「この卒煙プログラムはスマホを用いるなど革新的で、その成果実績を高く評価した」と、豊中市健康政策課 課長の田上淳也氏は語る。

豊中市 健康政策課 課長の田上 淳也氏

 ascure卒煙プログラムは、喫煙に対する心理的依存をアプリや専門家でサポートする仕組みを用いる。医学知見を組み込んだアプリで、利用者それぞれに合った内容とタイミングで卒煙支援を行う。具体的には、6カ月間のサポート期間に6回のオンラインによる面談を行い、面談と面談の間にアプリやチャットによるサポートを実施している。「医療機関の禁煙外来での治療と比べ、倍以上の禁煙継続率にすることが可能」(CureApp 事業開発リーダーの我妻誠一氏)という。

CureApp 事業開発リーダーの我妻 誠一氏

 我妻氏は、自治体と連携した今後の事業展開について、「アウトカムを出し続けることにこだわりたい」と意気込む。自治体との新たな連携事業として、特定保健指導のプログラムも開発していく計画であることを明らかにした。

 なお、豊中市とCureAppの連携では、SIB(ソーシャルインパクトボンド)のスキームを採用している。民間から調達した資金で事業者が行政サービスを市民へ提供し、その成果に応じて行政が委託料を支払う成果連動型の官民連携手法だ。行政が中間支援組織と契約してSIBを組成し、サービス提供者を調達するのが一般的だが、今回のケースでは「豊中市とCureAppが直接委託契約を結んでおり、中間支援組織は支援関係の基本合意書レベルでの提携という形をとった点が特徴だ」(田上氏)とした。

(タイトル部のImage:加藤 康)