英製薬大手の日本法人であるアストラゼネカは、スタートアップの連携拠点となる「i2.JP」を発足した。日本のスタートアップと、行政やアカデミアなどとの連携を進め、医療分野での新たな事業創出を目指す。

 発足に当たり、同社は2020年11月11日にオンラインメディアセミナーを開催。社長のステファン・ヴォックスストラム氏のほか、i2.JPに参加する代表者らが展望を話した。なお、i2の名称には「innovation(革新)」と「infusion(鼓舞、注入)」の意味が込めらているという。

 最初に登壇したヴォックスストラム氏は、医療分野において大きく3つの変化があると指摘した。まずは、超高齢社会や医療費の増大、新型コロナウイルス感染症など「社会」の変化。次に「患者」の変化。治療への関わりの変化、データやデジタル利用の拡大、 ソーシャルメディアが背景にあるとした。最後は「データ&テクノロジー」の変化である。

アストラゼネカ社長のステファン・ヴォックスストラム氏

 ヴォックスストラム氏は、従来の製薬企業は革新的な医薬品を世に送り出すことがすべてだったのに対して、今のフォーカス領域は、治療ばかりにとどまらず、疾患の気づきから診断、治療後、健康維持まで広がっていると説明した。

 そうした幅広い医療領域でのニーズに応えるために同社が国際的に進めているのが、スタートアップ企業との連携拡大だ。欧米ばかりではなく、中国、インド、イスラエル、南米などに拠点があり、このたびここに日本が加わった格好である。

 2014年に開始し、先行しているスウェーデンでは、30社以上のスタートアップや学術団体との協業のほか、10万平米の敷地に建設した施設での連携も進める。この施設では、2021年までに350企業、7000人を集めるという。「アストラゼネカの中でヘルスイノベーションシティーを作る」(ヴォックスストラム氏)考えだ。

 日本でのi2.JPでは、発足時点ではアストラゼネカのほか6つの企業や団体加わる。オムロンヘルスケアやスギ薬局といった一部上場企業の関連会社に加え、ヘルスケア情報を扱うマザーズ上場のWelby、オンライン診療システムなどを手掛けるMICIN、各種の測定器を手掛ける木幡計器製作所、既に300を超える団体やアカデミアなどを組織化している公益財団法人大阪産業局の大阪イノベーションハブだ。

 ヴォックスストラム氏は、日本での連携による相乗効果として期待する要素として4つを挙げている。すなわち、診断(Diagnosis)、機器(Device)、デジタル(Digital)、医薬品(Drug)、エクスペリエンスデザイン(Experience design)である。つまり、医薬品は対象の一つでしかないというわけだ。

「囲い込みを超えたオープンイノベーションの機会を」

 メディアセミナーでは、i2.JPに参加する企業や団体も登壇した。

 その1社であるWelbyは、例えば、肺がんの領域で「Tダイアリー」という症状記録や緊急連絡、情報提供を行えるサービスを運営している。同社 社長の比木武氏は、「PHRサービスは、医師が患者に紹介し、患者が利用して、医療機関とデータを共有し、医師による療養指導を効率的、効果的に行う。そうしたエコシステムにおいてアストラゼネカにカタリスト(触媒)になっていただくとありがたい」と話す。

Welby社長の比木武氏

 連携を深めていく上では、相互理解も重要になる。木幡計器製作所社長の木幡巌氏は、「大企業とやりとりする中ではノウハウも飲み込まれるのではと不安感もある。初期の段階で払拭するのが重要だと考えている。連携は密に行うのがいいのではないか」と述べた。大阪産業局 イノベーション推進部グローバル推進担当の石飛恵美氏は、「組織だけではなく、人が重要だと感じている。適切な人物につなぐのが課題」と言う。

 さらにゲストとして、慶応義塾大学医学部教授の宮田裕章氏が登壇した。同氏は、「多様性の中でこそイノベーションやインクルージョン(一体性)が生まれる。日本の企業が日本の国民だけにサービスを展開する時代ではなくなっている。海外展開を考えたときにグローバルなネットワークも必要で、一企業で完結しない。また公共データを活用できてこそバリューも伸ばせる。囲い込みを超えたオープンイノベーションの機会を広げるのが大切」と指摘した。

慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏

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