東芝は、血液1滴から13種類のがんを99%の精度で2時間以内に検出する技術を開発した。この中にはステージ0の検体も含まれるという。本技術の詳細は、「第42回日本分子生物学会年会」(2019年12月3~8日に福岡で開催)で発表する予定だ。

 血液中に含まれる「マイクロRNA」と呼ぶ分子を調べることで、がんを検出する技術である。東京医科大学および国立がん研究センター研究所との共同研究によるものだ。国立がん研究センターが中核となり、2014~2018年に実施された開発プロジェクト「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」の成果をベースとしている(関連記事:「血液1滴で13種がん検出」、実用化が目前に)

 これに、東芝が新たに開発したマイクロRNA検出技術とそのためのデバイス「マイクロRNAチップ」(タイトル部の写真)を融合させた。今後、前出のプロジェクトを主導した東京医科大学の落谷孝広教授などと共同研究を進め、2020年から実証試験を実施する予定である。

東芝 研究開発センター 研究主幹の橋本幸二氏(写真:近藤 寿成)

 なお、現時点では13種類のがんを個別に識別できるわけではない。「健常者」か「13種類のがんのいずれかに罹患している可能性がある」かをスクリーニングする検査となっている。

価格は2万円以下を想定

 マイクロRNAは、20塩基程度の長さのRNA(リボ核酸)分子。ヒトでは配列の異なる約2500種類が報告されている。細胞の中でDNAやたんぱく質を制御する機能を持っているほか、特定のがんが特定のマイクロRNAを分泌し、それが血液中に流れ出ていることが近年分かってきた。

 このマイクロRNAを使ってがんを検出する方法としては、既に「マイクロアレイ」や「リアルタイムPCR」などが開発されている。マイクロアレイは、多くのマイクロRNAを網羅的に検出できる特徴があるが、精度があまり高くなく検査価格が約10万円という点が普及の上では課題になると東芝は見る。リアルタイムPCRは検出精度が比較的高いものの、対象とするがんの数があまり多くないため、「検診で網羅的に調べる用途を想定した場合にはやや不利」(同社 研究開発センター 研究主幹の橋本幸二氏)という。

 これに対して、東芝が今回開発した検査技術の価格は2万円以下を想定している。冒頭の「13種類のがんを99%の精度で2時間以内に」という点と合わせて、精度や価格、網羅性などの特徴を兼ね備えていると胸を張る。

 こうした特徴を生み出しているのが、独自の検出技術だ。通常のマイクロアレイやリアルタイムPCRの場合、マイクロRNAの検出に「蛍光色素」を使用するのに対して、東芝が開発した検出技術では「電気化学的」な方法を用いる。

 同社は、この電気化学的な検出技術の研究開発に長年取り組んできており、子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルスを判別する診断薬や、実験動物の感染症を検査する試薬などを実用化してきた経緯がある。これらをベースに今回の検出技術を開発した。「(電気化学的な方法を用いることで)検査時間の短縮や装置の小型化、システムの簡素化などに寄与している」(橋本氏)という。

 実際の検査の流れはこうだ。まず、採取した血液を血清化し、そこからマイクロRNAを抽出する。次に、マイクロRNAごとに異なる人工配列を付加することで特異性を高める。最終的にはマイクロRNAチップと検査装置を使って計測する。トータルでかかる時間が約2時間となる。

今回開発した検出技術による検査フロー(出所:東芝)


将来的には「個別の識別が可能になる段階まで」

 開発した技術を用いて13種類のがんの患者と健常者の血清中のマイクロRNA濃度を調べたところ、「健常者に対して、すべてのがん患者でマイクロRNA濃度が高いことが分かった」(橋本氏)。さらに、検査性能を示す指標「AUC」(1が最大)で解析した結果も0.99であったことから、「13種類のがん患者と健常者を高精度に識別できることを確認できた」(同氏)と説明する。

13種類のがん患者と健常者の血液中マイクロRNAの測定結果(出所:東芝)

 サンプル評価数は少ないものの、ステージ0を含む患者と健常者を比較した場合でもマイクロRNAの濃度が大きく異なっていた。将来的には「ステージ0の検出によって、がんの早期発見も可能になる」(橋本氏)と補足した。

 前述のように現時点では13種類のがんを個別に識別できるわけではない。これは、特定のがん(あるいは臓器)と特定のマイクロRNAの相関関係が現時点では学術的にまだ示されていないためだとし、将来的には「個別の識別が可能になる段階まで持っていきたい」(橋本氏)とした。


(タイトル部のImage:近藤 寿成)