2020年3月に「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を発表し、DX(デジタルトランスフォーメーション)への加速を明言した中外製薬。デジタルやAIを活用した革命的新薬の創出、バリューチェーン効率化、デジタル基盤の強化を3本柱に掲げ、2030年を1つのマイルストーンとしてDXに注力している。

 2021年11月18日、同社は「CHUGAI DIGITAL DAY 2021」をオンラインで開催した。「『ヘルスケア×デジタル』が貢献する、未来のWell-being」と題したセッションでは、インテグリティ・ヘルスケア、キャンサースキャン、中外製薬が登壇した。

 インテグリティ・ヘルスケアは、オンライン診療・疾患管理システム「YaDoC(ヤードック)」の提供で知られる。コロナ禍の特例措置も後押しし、ヤードックは3000を超える臨床現場・研究機関に導入されている。

インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役社長 園田愛氏(出所:オンラインイベントのスクリーンショット)
インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役社長 園田愛氏(出所:オンラインイベントのスクリーンショット)
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 オンライン診療のみならず、ePRO(電子的な患者報告アウトカム)を活用したオンラインの疾患管理にも力を入れており、武田薬品とはApple Watchによるパーキンソン病患者の在宅モニタリングの臨床研究を進める。また、ヤードックは国内最大規模を誇る長崎県の地域医療ネットワーク「あじさいネット」に統合され、EHR(デジタルの個人医療記録)と患者生成データを連携して地域医療のアウトカム向上に挑む。同社代表取締役社長の園田愛氏は、その狙いを次のように語る。

 「患者と医師の間にヤードックを置き、患者が生成するデータを相互に共有する。このデータを疾患ごとに収集すれば、これまでの治療の間にあった課題が上手く解決できるようになり、生成したデータそのものが価値になる。それが製薬企業のペイシェント・セントリック(患者中心)推進や医薬品の価値最大化、医療そのものへの貢献につながる」(園田氏)

 キャンサースキャンはレセプトデータ/健診データの分析、ナッジを中心とした予防医療・保健事業を展開する。ナッジとは「より良い選択をするためにそっと後押しする」ことで、もともと行動経済学の概念として提唱されたものだ。同社では、行動変容のドライバーとしてナッジを活用。東京都八王子市における大腸がん検診では、検診案内ハガキの内容を数行変えただけで受診率を向上させた実績を持つ。

 キャンサースキャン代表取締役社長の福吉潤氏は、「やればいいということがわかっているにもかかわらず、やらないことが非常に多い。その中で行動変容は必須の要素。ここには、行動をいかに変えていくかのブレークスルーが必要になる」と説く。その上で、自治体が持つヘルスビッグデータ利活用が課題解決の鍵となることを示した。

キャンサースキャン 代表取締役社長 福吉潤氏(出所:オンラインイベントのスクリーンショット)
キャンサースキャン 代表取締役社長 福吉潤氏(出所:オンラインイベントのスクリーンショット)
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 「従来は自治体が地域にいる高齢者の健康を管理する時代だったが、データ分析や効果検証などの専門領域までカバーするマンパワーは不足している。これからは健康のオープンイノベーションを目指してさまざまなプレーヤーが加わる、“コモンズによる健康づくりの時代”に突入するだろう」(福吉氏)

 大阪市、アムジェンと組んだ二次予防骨折を目的とした骨粗鬆症疾患啓発事業、奈良県広陵町、アストラゼネカと組んだCOPD(慢性閉塞性肺疾患)啓発事業は、そのコンセプトを具現化したものだ。福吉氏は「自治体のビッグデータは良質であり宝の山。住民の健康に資するという目的を自治体と民間企業とアカデミアが共有し、共同で事業を展開するスキームを構築したい」と語った。

 中外製薬の石井暢也氏は、「製薬企業が目指す個別化医療」について講演した。冒頭に記した通り、中外製薬では積極的なデジタルやAI活用を掲げており、「個々の患者に対する医薬品プラスアルファの最適なソリューション提供」(石井氏)を目標としている。

中外製薬 プロジェクト・ライフサイクルマネジメントユニット 科学技術情報部長 石井暢也氏(出所:オンラインイベントのスクリーンショット)
中外製薬 プロジェクト・ライフサイクルマネジメントユニット 科学技術情報部長 石井暢也氏(出所:オンラインイベントのスクリーンショット)
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 石井氏は、統合分析可能なコホート研究の増加、日常的な臨床ゲノムのオミクス(網羅的)解析の進展、電子カルテデータ利活用の拡大、ビッグデータのAI解析基盤の進化などにより、「2030年に向け、個別化医療はさらに拡大していくだろう」と指摘。これを踏まえ、「医療のデジタル化のあるべき姿は、医療データをいかに患者のメリットに変えていくかということ。これを還元できるエコシステムの確立により、高度な医療を効率的かつ持続的に提供していきたい」とした。

 実現に向けた策として、MDASと呼ぶデータの収集に努める。MDASとはMeaningful Data at Scaleの略で、科学的なエビデンスを持ち、分析結果を一般化できるビッグデータを指す。石井氏は「MDASを高度に分析して、インサイト抽出を経て個別化医療に生かしていく」と今後の展望を述べた。