致死率の高い悪性脳腫瘍の代表格である膠芽腫に対し、「スーパー分子ナノマシン」という新しい技術を利用した薬物療法が有望な治療手段になる可能性がありそうだ。川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)のサビーナ・カデール氏らが2020年11月12日にバイオ専門誌『Biomaterials』において、動物実験での生存期間を大幅に延長することができたと発表。オンラインでその詳細を解説した。

電磁パルス治療からヒント得る

 悪性脳腫瘍は生存率の改善が滞っているがんの代表で、複数のタイプが存在している。最も一般的なのが膠芽腫だ。がんによる死亡率は低下傾向にある一方、膠芽腫の生存率は低水準にとどまる。

 膠芽腫の治療も含めて、脳の病気を治療する上でのハードルは「血液脳関門(BBB)」である。これが血液と脳実質の間を隔てる薬剤の移行を阻むバリアになり、思うように薬剤を届けることを困難にしている。

 カデール氏が膠芽腫の治療法を開発する上で注目したのが、「TTF治療(Tumor Treating Fields治療)」である。生存期間延長の効果が2010年代から報告されている電磁パルスを使った治療法だ。このTTF治療では、毎日、頭の外から電磁パルスを当てることで、抗がん剤の効果を高められることが示されている。電磁パルスによって、細胞分裂のときに細胞内に現れる「微小管」という管を破壊することができ、分裂が活発ながん細胞を死滅させるからだ。

 カデール氏は「同じメカニズムで効果を示す抗がん剤、ビンブラスチンを脳内に届けることで、同様に膠芽腫の治療に有効」と想定した。そこで、ビンブラスチンを送り込むために開発したのが「スーパー分子ナノマシン」である。