「大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所」。そんな研究所が大阪大学吹田キャンパス内に登場した。幸せな健康長寿の実現を目的とし、疾病のリスク予測や機能性食品の評価・改良につながる基盤技術や製品の開発を目指す研究所だ。

左が大阪大学 総長の西尾章治郎氏、右が島津製作所 代表取締役社長の上田輝久氏(写真:伊藤 瑳恵、以下同)
左が大阪大学 総長の西尾章治郎氏、右が島津製作所 代表取締役社長の上田輝久氏(写真:伊藤 瑳恵、以下同)
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 同研究所では、代謝物を網羅的に解析するメタボロミクス(メタボローム解析)を核として研究開発に挑む(関連記事)。メタボロミクスに着目したのは、「代謝物が“今”の健康状態を反映するから」。2019年12月19日に行われた開所式に登壇した大阪大学 大学院工学研究科 教授 兼 大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所 副所長の福﨑英一郎氏は、そう説明する。

大阪大学 大学院工学研究科 教授 兼 大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所 副所長の福﨑英一郎氏
大阪大学 大学院工学研究科 教授 兼 大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所 副所長の福﨑英一郎氏
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 ゲノミクスで扱うゲノムは、生まれたときから変わらない生得的な情報である。これに対し、代謝物はたんぱく質の働きによって生体内で日々つくられている。そのため、代謝物を解析するメタボロミクスを活用すれば、刻一刻と変化する体の状態を観察できるというわけだ。

体に良い上に美味しい機能性食品の開発を

 福﨑氏によると、既に過去の研究からさまざまな疾病の種類や重症度とメタボロミクスに何らかの関係があることが分かっているという。同研究所では大阪大学の情報科学研究科や医学研究科、他企業、外部の研究機関の参画を図ることで「疾病マーカーを用いたリスク判定システムなどの製品開発を目指したい」と島津製作所 分析計測事業部 ライフサイエンス事業統括部部長 兼 大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所 所長の飯田順子氏は意気込む。

島津製作所 分析計測事業部 ライフサイエンス事業統括部部長 兼 大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所 所長の飯田順子氏
島津製作所 分析計測事業部 ライフサイエンス事業統括部部長 兼 大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所 所長の飯田順子氏
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 さらに、代謝物は栄養や味とも密接に関与しているという。そこで同研究所では、食品の美味しさや機能性の解明にもメタボロミクスを応用する考え。例えば、食品の成分と食品を食べた人の代謝を解析することで、機能性食品の複雑な機能を解明するといった具合だ。

 健康と食には密接な関係がある。ただし、「いくら体に良いものを食べなさいと言われても美味しくないものは食べたくない」(福﨑氏)。つまり、美味しさが伴わなければ“幸せ”な健康長寿は実現できない。同研究所では、メタボロミクスを使って体に良い上に美味しい機能性食品の開発にも役立つような研究を進めていきたいとしている。

前身の研究講座では既に製品開発の実績も

 実は、大阪大学と島津製作所による共同研究は2008年から始動しており、2015年4月~2019年7月にかけては「大阪大学・島津分析イノベーション共同研究講座」を運営してきた。共同研究講座では、メタボロミクスの分析技術の確立やアプリケーション開発を行っており、「疾病の診断や機能性食品の機能性成分の分析などについて成果が出始めていた」(島津製作所 代表取締役社長の上田輝久氏)という。

 2019年3月にはメタボロミクスのデータ解析用ソフトウエア「マルチオミクス解析パッケージ」を発売するなど、製品開発の実績がある。マルチオミクス解析パッケージは質量分析計で得られる膨大なデータを自動で処理できるもので、アミノ酸や有機酸、核酸系の代謝物の解析に対応しており、食品や血液の分析に活用できるという。

大阪大学吹田キャンパス内にある「大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所」の様子。島津製作所のガスクロマトグラフ質量分析計や液体クロマトグラフ質量分析計が設置されている
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大阪大学吹田キャンパス内にある「大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所」の様子。島津製作所のガスクロマトグラフ質量分析計や液体クロマトグラフ質量分析計が設置されている
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大阪大学吹田キャンパス内にある「大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所」の様子。島津製作所のガスクロマトグラフ質量分析計や液体クロマトグラフ質量分析計が設置されている

 今回、共同研究講座から協働研究所へと組織が発展したことで、大阪大学 大学院工学研究科と島津製作所だけでなく、他の研究科や企業、外部の研究機関の参画が可能になった。これにより、「人の健康に役立つ成果を社会実装していきたい」と上田氏は語った。

(タイトル部のImage:伊藤 瑳恵)