一言で言えば「動」。とにかく参加者のアクションが大きいピッチイベントだった。年も押し迫った2019年12月16日、神戸市で開催された「500 KOBE ACCELERATOR Demo Day(デモデイ)」でのことだ。

終演後の記念撮影(写真:小口 正貴、以下同)

 500 KOBE ACCELERATORとは、2016年から神戸市が米シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)である500 Startupsとともに開催してきたIT系のスタートアップ育成プログラム。これまではジャンルレスとしてきたが、4年目を迎えた2019年はヘルステック中心へと方向転換した。

 背景には、1997年から展開する「神戸医療産業都市」との相乗効果がある。神戸医療産業都市はポートアイランドに位置する日本随一のメディカルクラスターであり、2019年11月末現在で366社/団体が集積している。500 KOBE ACCELERATORの仕掛け人である神戸市医療・新産業本部新産業部新産業課長の多名部重則氏は「ヘルステックのスタートアップが融合することで新たな価値が生まれる」と期待を寄せる。

 会場である元町のイベントスタジオには150人を超える人が詰めかけた。ロック系やダンス系のチューンに乗せて起業家が登場するたびに歓声と拍手があがり、音楽ライブさながらの熱狂ぶりだ。

会場となった神戸・元町の「ハーバースタジオ」

 与えられたピッチの時間は約2分。より詳細な事業内容を知りたい場合は会場に併設した各社のブースを訪れ、じっくりと話を聞くというスタイルを採った。

ピッチ会場に併設した各社のブース

これがデモデイの舞台に登場した15チーム

 500 KOBE ACCELERATORの最大の特徴は、6週間にも及ぶプログラムにある。選出されたスタートアップは、休止期間を除く4週間を神戸市で過ごし、フル参加することが基本。500 Startupsのメンターが神戸を訪れ、セールス、グロースマーケティング、資金調達戦略、ピッチトレーニングをしっかりと叩き込まれる。投資家や企業、自治体の前でプレゼンを行うデモデイは、その集大成である。

 2019年の応募総数は174チーム。日本が58チーム、海外が116チームとの内訳からわかるように、国際色豊かなプログラムであることもポイントだ。オセアニアを含むアジアが中心だが、とりわけインドは37チームと海外の単独国では圧倒的に応募数が多い。その中から日本7チーム、海外8チーム、あわせて15チームが選出された。海外チームの顔ぶれはインド、マレーシア、米国、台湾、シンガポールなど多岐にわたる。うち、ヘルステックは過半数の8社となった。

デモデイに出場した15チームの概要(図:神戸市の発表をもとに著者が作成)

 過去3回のデモデイは東京で実施してきたが、「神戸から世界へ」をより鮮明にするため、今回は初めて神戸で開催した。冒頭、500 Starups マネージングディレクターのベディ・ヤン氏が「今年は神戸市のリーダーシップのもと、医療関連のスタートアップを重点的に選んだ。将来的に、神戸市が医療ハブとなるようにとの願いを込めている」と挨拶。海外8カ国からの参加、37.5%が女性起業家もしくは共同創業者であることに触れ、「多様性がイノベーションを加速する。優秀な起業家はシリコンバレーだけではなく世界中にいる。神戸市は世界中からスタートアップを受け入れ、大きな変革を遂げることを支えてくれた」(ヤン氏)と称賛した。

500 Starups マネージングディレクターのベディ・ヤン氏(写真:小口 正貴、以下同)

 進行役は500 Starupsのマーカス・サンドバーグ氏が務めた。サンドバーグ氏は6週間のプログラムを乗り越えたスタートアップをねぎらいながら、「メンターはシリコンバレーを軸に、英国、スウェーデン、ドイツ、ヨルダンなど各国からやってきた。共通点はメンター自身が起業経験を持っていること。だからこそ起業家の困難を理解できる」と語った。

進行役の500 Starupsマーカス・サンドバーグ氏

 久元喜造神戸市長は、英語でスピーチを行った。「世界各国から参加してくれたのは神戸市の取り組みが認知され、評価が高まっている証だ。ぜひ神戸から世界に羽ばたいてもらいたい」(久元氏)。また、今回目指したのは神戸医療産業都市との連携であることを改めて強調。参加チームの中から、HERBIO(熱中症および低体温症の予防を目的としたモニタリング)、シャンティ(MR[複合現実]技術を活用したリハビリシステム)の実証を神戸医療産業都市と連携して行う予定であることを市のリリースで発表した。

全編を英語でスピーチした久元喜造神戸市長

狙い通り、ヘルステックは充実の陣容に

 まずはヘルステックのスタートアップから紹介していく。

 神戸医療産業都市との連携を発表したHERBIOは、へそ部周辺に装着するウエアラブルデバイス「picot」を開発し、これまで計測が難しかった深部体温の継続的なモニタリングを実現。その特性を生かした熱中症対策のソリューションをアピールした。同社CEOの田中彩諭理氏は熱中症による労働損害が莫大であるとした上で、「我々は一人ひとりにパーソナライズした熱中症対策システムを考えている。リスク分析、熱中症になりやすい人向けの訓練、個別の対策支援まで行う。これを月額800円で提供したい」と語った。

HERBIO CEO 田中彩諭理氏

 同じく神戸市と協力体制を敷いたシャンティは、ロボットと連携した問診システム、患者への説明システムを通じて医療現場における人材不足をサポートする。同社取締役の山下咲良氏は「すでに21の病院で導入されている。先月、ロボットは1日平均6時間の説明業務を行った。初期導入費用は50万円。月額が1万5千円で医療施設で導入しやすいモデル」と具体的に説明。アクセラレータープログラムの期間中に10施設の導入が新たに決まるなど、順調に成長を続けている。神戸医療産業都市とはMR技術を採用するとのことなので、また異なった展開を考えているようだ。

シャンティ取締役 山下咲良氏

 キママニは、スマホアプリの「KibunLog」を提供する。精神疾患に効果が認められている認知行動療法とExpressive Writingのテクニックを用いたメンタルヘルスサポートのアプリで、5万人以上のユーザー数を獲得済みだ。2019年12月からは東京大学、北里大学とも慢性疼痛の分野で共同研究を開始。帝人ファーマとは、精神疾患の分野での新規事業創出を視野に入れる。

キママニ代表 村上 遥氏

 自らがADHD(注意欠陥・多動障害)を抱えるHoloAshの岸慶紀氏は、気軽に低コストでメンタルヘルスの相談ができるオンラインの音声チャットサポートを手がける。AIエンジンにはMotivational Interviewingと呼ばれる会話手法を用いて、「誰にも共有できない悩みがあったとき、いつでもどこでもAIに話しかけ、適切な応答を返すことができる」(岸氏)。元アマゾンの言語処理エンジニアがバックアップし、米国を中心に事業を開始している。

HoloAsh CEO 岸慶紀氏

 エピストラは今回の中で、最も学術的要素が強いスタートアップ。膨大なコストと時間がかかるライフサイエンスの実験過程をAIソフトウエアで大幅に圧縮し、すでにある企業と年間4000万円の契約を結んでいる。同社代表取締役 CEOの小澤陽介氏によれば、かつてiPS細胞の分化効率向上に適用した際には23%の効率向上に成功したという。

エピストラ代表取締役 CEO 小澤陽介氏

 スプリンクは認知症の早期診断支援サービスを開発している。具体的にはMRIの画像とAIを用いた客観的指標による検査サービスである。認知症研究の第一人者である医師の朝田隆氏の協力を仰ぎながら、今後は医療機器の承認申請を進めていく。

スプリンク 代表取締役 青山裕紀氏

 I Online Doctorは医療が行き届かない人たちに向けたオンラインの医師相談サービス。創業者のMeghna Patel氏は、インドやアフリカ、中東などの地方都市や僻地では医療が分断されている現実を訴え、ITによって解決したいとの思いを熱く語った。スマホのカメラを用いた簡単操作で、医師が参加できるプラットフォームとしているのも特徴だ。「過去1年間で1万2000件以上の相談が寄せられ、2000人以上の医師が参加した。3つの病院がこのプラットフォームを利用し、15の病院とセールスパイプラインがある。遠隔医療の市場は巨大で、今後5年間でインドだけでも29億ドル。これは始まりに過ぎない」(Patel氏)。

I Online Doctor創業者 Meghna Patel氏

 シンガポールのNephTechは、透析患者の血管狭窄を監視する非侵襲デバイスを開発した。独自のAIとセンサー技術を併用し、患者に負担がかからずに血管の状態をモニタリング可能だとする。同社CEOのToh Yanling氏は「ファイザーと共同研究を行っている。現在、シンガポール、マレーシア、ベトナムで700人の患者に機器テストを実施し、安全性と正確性を実証した」と話す。そして日本の高い技術力を見込み、機器製造のパートナーシップを熱望した。

NephTech CEO Toh Yanling氏

ヘルステック以外もバラエティに富んだラインアップに

 ヘルステック以外もバラエティに富んだ。米シアトルのNative English Instituteは、AIが約1000種類以上のコースから生徒に適した教材を示し、ネイティブスピーカーとオンライン英会話レッスンが受けられるサービスを提供。エンジェル投資家集団のKeiretsu Forum Japanを筆頭とした資金調達に成功し、神戸市に日本本社を設立する予定だ。企業との契約にも注力しており、同社創業者のFrith Ann Maier氏は、満足度が高く1つも解約がないことをアピール。日本人のビジネス英語上達に寄与したいと語った。

Native English Institute創業者 Frith Ann Maier氏

 台湾のPokeguide、インドのWTF - Where's The Food、タイのQueQは、それぞれBtoC向けのサービス。PokeguideはAR技術を用いて、国外旅行先でのスマートな地下鉄ガイドを表示する。WTF - Where's The FoodはDigital Waiterを掲げ、飲食店の従業員を介さずにスマホからメニューを注文できる仕組みを構築した。QueQは長い行列に並ばずに整理券を取得できるスマホアプリで、すでに日本でもサービスを開始している。

Pokeguide共同創業者 Brian Hui氏
WTF - Where's The Food 共同創業者 Harshendar Reddy氏
QueQ CFO Jim Huang氏

 マレーシアが拠点のMobiversaは、ネット間取引の1つであるドロップシッピングの決済サービスをキャッシュレス支払いで簡略化する。少し毛色が異なるのが日本のケイスリーで、SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)の仲介など、行政向けのいわゆる「GovTech」を推進。今回のピッチでは自治体の公的通知を自動で市民に告知するクラウドサービスを紹介した。がん検診の告知では沖縄県浦添市などで受診者数増加に貢献している。

Mobiversa CEO S. Baskar氏
ケイスリー取締役 CFO兼CSO 森山 健氏

 元気よくトリを務めたのは、地元・神戸市出身のプラットイン。物流業界の求職者と企業をマッチングするプラットフォームの「ロジデリ」を運営し、小規模な企業向けに無料ホームページ作成機能を付加するなどして成果をあげている。同社代表取締役社長の高田隼渡氏は「私は運送、人材、ウェブの3分野で役員経験がある。だからこそ、私がやる意味があるサービス。日本の物流人口は250万人。不足分を副業人材の740万人でカバーしたい」と意気込みを見せた。

プラットイン代表取締役社長 高田隼渡氏

 到底2分間ですべてを伝えられるわけもなく、事業の核となる部分をコンパクトに伝え、なおかつインパクトを与えなくてはならない。たとえるなら、長めの生CMを見ているかのようだった。ほかのピッチイベントで見たことのある日本のスタートアップが何社かいたが、それらのプレゼンもがらりと表現、表情が変わっていた。冒頭で触れた大げさとも思える身振り手振り、腹の底から出される大きな声──これが“500 Startups流”なのだろう。

活気あるネットワーキングの様子

(タイトル部のImage:小口 正貴)