サービスの現状と課題

介護業界を変えるために“出る杭”になる

大久保 先ほども話したように介護業界は閉じた世界なので挑戦の連続。ましてやデイサービスは典型的なピラミッド構造で、100事業所を超える大規模事業者は全体の5%ほどしかなく、ほとんどが中小規模になる。そうした事業所に対して大手の開発ベンダーとは違う志を伝えながら、科学的かつ定量的なデータを武器に入り込むようにしている。

 導入済みの事業所からは「たった5分で機能訓練計画書ができた」「専門職がいなくてもリハビリの質が変わった」と好評を得ている。2020年10月時点での累計導入数は556事業所になった。

池上 現場を大事にしながらも、弊社のリソースを考えると全国の顧客を飛び回るのは不可能。そこで新型コロナ以前からオンラインの営業ツールやコミュニケーションツールを活用してカスタマーサクセスをサポートしてきた。介護スタッフもLINEやZoom、Facebookなどを日常的に使いこなしている。むしろ「オンラインでもここまでできるのはありがたい」と喜んでいただくことが多い。

大久保 だが、新型コロナの影響でデイサービスの通い控えが新たな課題として浮上した。1週間デイサービスに行かないだけでも高齢者は身体に違和感を感じ、1カ月行かないと下手したら歩けなくなる。一方の事業所では、高齢者が来ないため経営が厳しくなる。収入の9割を介護保険から得ているため、売上の激減に直面した。

 この状況に対して何か貢献できないかと考え、最初は我々が持っているリハビリログラムをPDFで配る形で提供した。ただそれでは、実際に高齢者が家で運動しているかどうかがわからない。そこでオンラインコミュニケーションによる「リハブオンライン(RehabOnline)プロジェクト」を2020年6月に立ち上げた。事業所を通じてiPadを配布し、デイサービススタッフと高齢者がWeb会議システムで体調を確認したり、運動指導を行なったりする仕組みだ。

 第1弾、第2弾の形で実証実験を重ね、2020年8月には経済産業省の「ヘルスケアサービス社会実装支援事業」に採択された。この11月からは第3弾がスタートし、第2弾の7倍強となる22事業所、約100名が参加している。

 その一環として、2020年12月には神戸市との実証実験がスタートした。高齢者のフレイル(運動機能・認知機能の低下)リスク軽減が目的だ。神戸市は先進的な取り組みに関して積極的な自治体。私自身、神戸市に直接足を運んで真摯になって取り組んでいることを実感した。そして我々と同じく、高齢者の市民の方々をより元気にしていきたいとの思いを持っている。

 独自に進めてきた実証実験は事業所単位だが、神戸市は自治体そのものが対象。しかも政令市であり影響力が大きい。神戸市の実証で培ったノウハウをほかの自治体へ横展開することも十分に考えられる。今はデイサービスに特化しているが、介護事業所には小規模多機能型居宅介護など数多くの形態がある。そうしたところでも試してみたい。

池上 今回の試みは会社にとっても成長エンジンとなった。リハブオンラインのコミュニケーションツールである「リハブコール」は、高齢者でも簡単に使えるZoomのようなツールとして開発した。開発期間はわずか1〜2カ月で、本業の傍らエンジニアのリソースをやりくりして作成したものだ。

 苦労はしたが、高齢者が画面越しに笑顔で運動している姿を見たとき、本当の意味で世の中の役に立っていることを実感した。顔がはっきり映るため、ある女性はわざわざ化粧をして参加した。また、高齢者の家族が「親がこんなにいきいきと会話しているのを久しぶりに見た」と話してくれたこともある。つまり新しいツール1つでQoL(生活の質)がぐんと向上したと言える。

 サービスに対するモチベーションが上がり、組織コンディションが良くなるというおまけもついた。リハブオンラインの製品化はこれからであり、マネタイズが確立されているわけではない。だが、介護マーケット全体を変革するオンラインツールを生み出すきっかけとなった。介護保険のルール下でどのように展開していくかという課題は残るものの、我々が“出る杭”となって先陣を切っていく。