デイサービスの機能訓練業務を支援するSaaS(クラウド)型の機能ソフト「リハプラン」などを手掛けるRehab for JAPAN。「デイサービスは高齢者を元気にする一丁目一番地」と位置付ける同社。科学的なアプローチで介護業界にゲームチェンジを起こすべく、“出る杭”となり先陣を切っていく構えだ。同社を訪問し、代表取締役社長 CEOの大久保亮氏と、取締役副社長 COOの池上晋介氏に話を聞いた。

今回訪問したのは東京・五反田にあるオフィス。同社のミッション「介護を変え、老後を変え、世界を変える。」が掲げられていた(写真:川島 彩水、以下同)

起業のきっかけ

作業療法士の経験が生んだ「IT×リハビリ」のアイデア

大久保 私自身が作業療法士の出身。資格を取得してから最初にリハビリ特化型デイサービスで働いた。今では当たり前だが、10年以上前に私が働き始めた当時はデイサービスでリハビリを行なう事業所は比較的少なかった。

代表取締役社長 CEOの大久保亮氏

 指導教員には「通常は病院で経験を積んでから外部で働くものだ」と言われたが、どうしてもそのリハビリ特化型デイサービスで働きたかった。なぜなら代表が作業療法士をやりながら起業した先進的な人で、地元の九州ではとても珍しいキャリアだったからだ。

 デイサービスでは高齢者を元気にしたいという一心から、日々の業務に一生懸命取り組んだ。だがその分だけ夜間に書類作成業務が残ってしまい、スタッフの負担が増える。一方で世の中にはもっともっとたくさんの高齢者がいる。私自身、1日で担当できるリハビリは30〜40人が限界。効率的に現場を回していかないとパンクしてしまうと感じた。

Rehab for JAPANの概要(表:同社への聞き取りを基にBeyond Healthが作成)

 そこで、より広い視野で社会の構造を勉強したいと思い、お世話になったデイサービスを退職。上京して救急医療機関で働きながら、夜は社会人大学院(CSR専攻)に通う選択をした。大学院ではITに精通している人や、普段は大企業で役員をしている人などさまざまな人たちと出会うことができた。そうした学びの中から「IT×リハビリテーション」の発想が生まれた。これなら、たくさんの高齢者を元気にできるのではないかと。それが起業のきっかけだ。

 異色のキャリアとよく言われるが、あまり不安はない。「まずは飛び込んでみよう」という好奇心のほうが勝っていた。ベストタイミングで良い仲間に恵まれる幸運も続いている。社外取締役の木村さん(木村亮介氏、ライフタイムベンチャーズ代表パートナー)にしても、2019年10月にジョインした副社長の池上(晋介氏)にしても、一緒に前を向いてやってくれる人がいると頑張れるものだ。

サービスの概要

「リハビリは科学できるもの」

大久保 核となるのは、デイサービスの機能訓練業務を支援する「リハプラン」。SaaS(クラウド)型の機能ソフトで、スタッフが簡単に扱えることを心がけた。現在、デイサービスは全国に4万3000以上の事業所があるが、専門職は10%ぐらいしかおらず、看護師がほとんどリハビリを担当している。つまり効果的なリハビリができていない現状が大きな課題となっている。

 この課題を解決するためにリハプランを開発した。高齢者の自宅の状況や身体機能、認知機能、あるいはその高齢者がどのように過ごしたいかなどの情報を入力するだけで、最適なプログラムを自動で立案することができる。

 当然ながら現場スタッフの業務効率化にも貢献する。機能訓練計画書は作成に30分ほどかかるが、リハプランなら数分で作成可能になる。また、リハビリプログラムを立案できない事業所に対しては、弊社が保持する2500種類、500セットの目標・運動プログラムから最適な計画を自動で提案する。毎日の業務記録もSaaS上で管理できるなど、リハビリに必要な機能をすべてパッケージ化したものだ。

 基本的にリハビリは科学できるものと考えている。もちろん膨大な因子があるものの、解きほぐせば科学で裏付けられる。リハプランには自分たちが培ってきた経験や、論文で発表済みのエビデンスをしっかりとデータベースに取り込んでいるのが特徴。現時点ではAIを組み込んでいないが、リハビリのアルゴリズムを構築する形で開発しているので、いずれは機械学習を投入しながらより効果的なプラン作成を目指す。

池上 私は2019年10月に加わった。もともとはリクルートで美容サロン向け予約管理システムの「サロンボード」を率いて、遅れていた美容業界のIT化を促進してきた。リクルートを卒業後に1年ほど若い会社の独立支援を重ねる中で出合った1社がRehab for JAPAN。IT化が進まない介護業界を変えたいとの大久保の思いに共感して意気投合した。

取締役副社長 COOの池上晋介氏

 リハプランの手法は、現場の煩雑さを解決する点で美容業界と共通する。前職では、どれだけ丁寧に顧客伴走をするかが成否を分けることを学んだ。現場でサービスを使う人たちにフィットした提案から実際のサービスの使い勝手まで、きちんと考え抜いて提供していかなければならない。その点、作業療法士出身だけに大久保は現場の状況をしっかりと見ている。いずれにしろ、IT化に向けてテクノロジー系のコンサルが入るだけでは変わらない業界。我々も出自の差を理解し合いながら双方の力学を組み合わせ、少しずつドミノを倒していく。

サービスの現状と課題

介護業界を変えるために“出る杭”になる

大久保 先ほども話したように介護業界は閉じた世界なので挑戦の連続。ましてやデイサービスは典型的なピラミッド構造で、100事業所を超える大規模事業者は全体の5%ほどしかなく、ほとんどが中小規模になる。そうした事業所に対して大手の開発ベンダーとは違う志を伝えながら、科学的かつ定量的なデータを武器に入り込むようにしている。

 導入済みの事業所からは「たった5分で機能訓練計画書ができた」「専門職がいなくてもリハビリの質が変わった」と好評を得ている。2020年10月時点での累計導入数は556事業所になった。

池上 現場を大事にしながらも、弊社のリソースを考えると全国の顧客を飛び回るのは不可能。そこで新型コロナ以前からオンラインの営業ツールやコミュニケーションツールを活用してカスタマーサクセスをサポートしてきた。介護スタッフもLINEやZoom、Facebookなどを日常的に使いこなしている。むしろ「オンラインでもここまでできるのはありがたい」と喜んでいただくことが多い。

大久保 だが、新型コロナの影響でデイサービスの通い控えが新たな課題として浮上した。1週間デイサービスに行かないだけでも高齢者は身体に違和感を感じ、1カ月行かないと下手したら歩けなくなる。一方の事業所では、高齢者が来ないため経営が厳しくなる。収入の9割を介護保険から得ているため、売上の激減に直面した。

 この状況に対して何か貢献できないかと考え、最初は我々が持っているリハビリログラムをPDFで配る形で提供した。ただそれでは、実際に高齢者が家で運動しているかどうかがわからない。そこでオンラインコミュニケーションによる「リハブオンライン(RehabOnline)プロジェクト」を2020年6月に立ち上げた。事業所を通じてiPadを配布し、デイサービススタッフと高齢者がWeb会議システムで体調を確認したり、運動指導を行なったりする仕組みだ。

 第1弾、第2弾の形で実証実験を重ね、2020年8月には経済産業省の「ヘルスケアサービス社会実装支援事業」に採択された。この11月からは第3弾がスタートし、第2弾の7倍強となる22事業所、約100名が参加している。

 その一環として、2020年12月には神戸市との実証実験がスタートした。高齢者のフレイル(運動機能・認知機能の低下)リスク軽減が目的だ。神戸市は先進的な取り組みに関して積極的な自治体。私自身、神戸市に直接足を運んで真摯になって取り組んでいることを実感した。そして我々と同じく、高齢者の市民の方々をより元気にしていきたいとの思いを持っている。

 独自に進めてきた実証実験は事業所単位だが、神戸市は自治体そのものが対象。しかも政令市であり影響力が大きい。神戸市の実証で培ったノウハウをほかの自治体へ横展開することも十分に考えられる。今はデイサービスに特化しているが、介護事業所には小規模多機能型居宅介護など数多くの形態がある。そうしたところでも試してみたい。

池上 今回の試みは会社にとっても成長エンジンとなった。リハブオンラインのコミュニケーションツールである「リハブコール」は、高齢者でも簡単に使えるZoomのようなツールとして開発した。開発期間はわずか1〜2カ月で、本業の傍らエンジニアのリソースをやりくりして作成したものだ。

 苦労はしたが、高齢者が画面越しに笑顔で運動している姿を見たとき、本当の意味で世の中の役に立っていることを実感した。顔がはっきり映るため、ある女性はわざわざ化粧をして参加した。また、高齢者の家族が「親がこんなにいきいきと会話しているのを久しぶりに見た」と話してくれたこともある。つまり新しいツール1つでQoL(生活の質)がぐんと向上したと言える。

 サービスに対するモチベーションが上がり、組織コンディションが良くなるというおまけもついた。リハブオンラインの製品化はこれからであり、マネタイズが確立されているわけではない。だが、介護マーケット全体を変革するオンラインツールを生み出すきっかけとなった。介護保険のルール下でどのように展開していくかという課題は残るものの、我々が“出る杭”となって先陣を切っていく。

自社の強み

ゲームチェンジには大胆な変革が必須

大久保 まずは人材面での強みがある。創業時はプロダクトを作ることにフォーカスしていたが、成長するにつれてしっかりとした組織が形成されてきた。経営陣やエンジニアにも優秀なメンバー集まってきている。この点は今後も強化していきたい。

 2つ目は、サービスそのものの優位性だ。リハビリプログラムの自動提案技術は高度なもので、2020年11月には技術特許を取得した。技術の独自性ももちろんだが、きちんと介護現場に合うような言葉遣いやサービス提案など細かいところに配慮し、不明点があればカスタマーサクセスが納得行くまでサポートする。これらも他社にはない強みだと思う。

 そもそもテクノロジードリブンでこの業界を変えられるとは思っていない。社会実装して皆さんに気持ちよく使ってもらうことが重要なポイント。そのゴールに向かってともに歩んでいける仲間を集めている。

池上 我々のような小さい組織では、一人ひとりのキャラクターや持ち味が全体のコンディションに影響しかねない。スキルや経歴のすごさだけで採用に至るかと言われれば難しい。むしろチームとの相性が合うかどうかを意識している。

 私自身そうなので、介護現場の経験はまったくなくても平気だが、まずは会社になじむかどうかが重要。今はRehab for JAPANの組織カルチャーを作っている段階なので、個々人がどういうスタンスで会社の未来を考え、事業を担っていくか。自分ゴトとして考えないと、良質なカルチャーには育っていかない。

 理想像からするとサービスはまだ道半ば。それでも2020年8月には、かつて私と一緒に働いていた元リクルートのプロダクトデザイン執行役員である若林(一寿氏)が加わったことでかなり進化した。リハプランは2020年11月にリニューアルを図ったが、これからもどんどん発展させるつもりだ。

大久保 池上に同席してもらったのは、こうした外部人材を積極登用していることを知ってほしかったから。考え方にしろ人の流動性にしろ、介護業界は閉塞的な世界。しかしゲームチェンジの際には、がらりと変える必要がある。池上も若林もほかのメンバーも同様だが、外の業界には優秀な人たちがたくさんいる。だからこそ、まずは外に向けてドアを開くことが大事だと思っている。

今後の展望

デイサービスは高齢者を元気にする一丁目一番地

大久保 繰り返しになるが、リハビリや介護領域は科学が浸透していないので、当面は定量的に取れるデータを蓄積していく。その後、機械学習、動画解析、センシングを実装していくのが理想だ。こうしたテクノロジーと、現場を支えるチームとの融合が介護を変えるための必要条件になってくるだろう。

 Rehab for JAPANのミッションは「介護を変え、老後を変え、世界を変える。」というもの。今は介護を変えるフェーズであり、その先の老後を変えるフェーズでは、先ほどのリハブコールや、介護業界に閉じない保険外サービスなどに接続できる形のサービスを作っていきたい。超高齢社会は日本だけではなく世界共通の課題なので、グローバルに対してアプローチも当然ながら出てくるはずだ。

 私は本心から、デイサービスは高齢者を元気にする一丁目一番地だと思っている。私が考えるリハビリ像は、単に身体機能のリハビリではない。例えば旅行や食事など、生活の中で高齢者を元気にするいろんな手段を想定している。我々の根幹には、ライフスタイルを包括的に捉える思考がある。それをRehab for JAPANのサービスで実現したい。

(タイトル部のImage:川島 彩水)