「腸内環境」が健康状態に大きく関係している。最近では、こうした相関が広く知られるようになってきた。同時に、腸内細菌などをテーマとするスタートアップも増えてきている。この分野のパイオニアと言える1社が、ウンログだ。同社は今、これまでの蓄積を生かし、新たな分野へと事業のすそ野を広げようとしている。同社が利用しているシェアオフィスを訪問し、代表取締役の田口たかし氏に話を聞いた。

今回訪問したのは、東京・日本橋にあるシェアオフィス。本連載でシェアオフィスを訪問するのは初めて。ウンログは2013年の創業当初からリモートワークを採用している。その理由には、同社ならではの理由が…。詳細は本記事の4ページ目に(写真:川島 彩水、以下同)

起業のきっかけ

当時、「うんち」というワードがAppleから却下

 もともと、自分自身がお腹で悩んでいて、便秘に加えてストレスで下痢気味になることもよくあった。さらに、花粉症やアレルギー、肌荒れなどの症状も抱えていた。そんなときに出会ったのが、腸内環境を整えて健康な身体を手に入れる「腸活」だった。

代表取締役の田口たかし氏

 腸活や「腸内細菌」という言葉は、今でこそ多くの人が認知し、さまざまなソリューションが展開されている。しかし私が出会った当時は、まだ話題になる前の段階。そこで、本などで自ら情報を集めたところ、どうやら「腸内環境を改善すれば、身体の不調を改善できる」ことがわかった。

 まずは生活習慣を見直し、自分のうんちの状態をチェックする「観便」を始めてみた。すると、うんちの状態が改善されるとともに自身の体調も良くなってきた。そこで、観便をスマートフォンアプリできちんと管理すれば、腸活がもっとはかどるのではないかと考え、2011年にアプリ開発をスタートした。

 当時はサラリーマン。何もわからない手探り状態だったが、約1年半を費やしてうんち記録アプリ「ウンログ」を開発した。2012年7月にApp Storeでリリースした。

ウンログの概要(表:同社への聞き取りを基にBeyond Healthが作成)

 リリース直後、アプリがApp Storeからリジェクトされる事態が起きた。「うんち」というワードが審査に引っかかったからだ。そこで私は、「ウンログはヘルスケアアプリであり、決していかがわしいアプリではない」と担当者に説明すべく、2013年に渡米。Apple社のヘルスケアマネージャーに直談判することでお墨付きを得て、以後はリジェクトされることなく提供できている。

サービスの概要

この数年で様変わりした市場環境

 現在、日本には「慢性便秘症」「過敏性腸症候群」などの患者が約2000万人いると言われている。我々が掲げているミッションは「すっきり革命を起こす!」。観便を通じて多くの人たちに健康的かつ豊かな生活を送ってもらうため、腸活プラットフォームの実現を目指している。そのための重要なツールが、前出のウンログである。

「うんち」を模した帽子は田口氏の“正装”だ(写真:川島 彩水、以下同)

 ウンログは、ユーザーがアプリでうんちの形や色、量などを記録する。すると、うんちの状態を分類する指標である「ブリストルスケール」に基づいて数値化を行う。うんちを観察・記録することで、便秘解消や健康管理、美容・ダイエットなどをサポートする。リアルでは話しづらいお通じの悩みをユーザー同士で共有できる「ウントーーク」などの機能も備える。

 観便を軸とした基本コンセプトは、スタート当初から一貫して変わっていない。一方で、大きく様変わりしたのが市場環境。ここ数年で腸活の重要性が広く認知され、関連商品やサービスが非常に増えた。しかし、その反動で「どの腸活が自分に合うのかがわからない」と悩んでいるユーザーは少なくない。

 そこで我々は、ウンログで収集・蓄積したデータを分析することで、それぞれのユーザーに最適な腸活をテーラーメイドでレコメンドするサービスの提供を目指している。将来的には、ウンログが腸活のスペシャリストや企業とエンドユーザーをつなぐプラットフォームとなることで、すべての人の腸内環境を改善していきたい。


サービスの現状と課題

長年の課題だった「マネタイズ」にも光明

 「腸活」はかなり認知されてきたものの、「観便」についてはあまり認知されていない。ウンログのユーザーを対象とした調査では、観便を2週間続けると91.3%の人が「うんちの状態が改善された」という結果が出ている。観便の効果をもっと多くの人に知ってもらうための取り組みにも力を入れている。

 自社の課題として感じているのは、やはり「マネタイズ」。そもそも、アプリをリリースした当初は市場自体がほぼ存在せず、アプリに有料課金の仕組みを導入しなかった。長年苦労してきたが、最近になってようやく2つの事業でマネタイズが実現しつつあり、光明が差してきたと感じている。

 一つは、最適な腸活商品との出会いをサポートする腸活マッチングサービス「ウンといいBOX」。ウンログがお勧めする腸活商品の詰め合わせをユーザーに販売し、その商品を試してもらいながらうんちの状態をウンログで記録してもらう。これにより、ユーザーの商品選びを手助けするとともに商品の効果を見える化する。

 もう一つは、企業向けに腸活商品のカスタマーサクセスを支援する「ウンとツヅクくん」。コミュニケーションツールである「LINE」にウンログと同様の機能を追加するサービスである。企業が持つ商品ブランドのLINEアカウントに対して、アカウント上でうんちを記録したり、商品の継続利用をフォローアップしたりする機能を組み込むことで、効果の見える化や継続率のアップにつなげる。

自社の強み

根強いファンを獲得している「ウンTube」も

 唯一無二の腸活プラットフォームであるウンログはもちろん、そのユーザーやこれまでに蓄積してきたデータは、弊社にとって大きな財産であり強みでもある。さらに、腸活や観便を長年続けてきたことで関連企業やアカデミアとのネットワークが構築でき、スペシャリストからの信頼も得られるようになった。

 これにより、うんちにまつわる多彩な情報をいち早く手に入れられるようになったことは大きく、さまざまなコラボレーションやサービス開発なども着実に増えている。そういった意味では、業界内でのポジショニングやブランドイメージは、かなり確立できてきたと感じている。

 また、弊社は以前からお腹に悩みを抱えているメンバーが多いため、原体験に基づいたリアルな腸活をお勧めすることが可能だ。日本発酵文化協会が認定する「発酵プロフェッショナル」の資格を取得した社員もいる。ウンログの専用YouTubeチャンネル「ウンTube」で腸活や観便をわかりやすく広めるための活動も行っている。うんちにまつわるコンテンツを豊富に取り揃えていることは、弊社の強みの一つだろう。

ウンログの専用YouTubeチャンネル「ウンTube」。2020年3月22日時点でのチャンネル登録者は約4.13万人。同社 広報の長瀬氏も「うん広報」として出演している(出所:ウンTube)

 弊社ならではの特徴として、「自分たちがすっきりしないと、他人をすっきりさせることはできない」という考えから、自分の行きたいタイミングでトイレに行けるようにするために、創業当初からリモートワークを採用している。さらに、福利厚生で社員の腸活をサポートする「腸活手当」を設けていることも、他社にはない点と言える。

今後の展望

大腸がんなどの早期スクリーニングにも踏み出す

 これまでは「健康増進」の分野を事業のメインとしてきたが、2020年からは「医療・介護サポート」の分野にもすそ野を広げていく。

 近年は大腸がんの罹患率が増加傾向にあるが、その早期発見には「観便が重要」と言われている。我々は、大腸がんを含むさまざまな病気のリスクを「観便によってチェックできるのではないか」と考えている。そこで、うんちのデータ記録から病気のリスクが高まった場合には「病院での検査を促すアラート」を出すようにする仕組みを、ウンログユーザー向けに開発している。

 この仕組みは、ウンログアプリの機能強化として提供する予定で、便秘などの悩みがなくてもウンログを利用する理由となり、医療費の抑制にも役立つと見ている。選択肢の一つとして、この仕組みを月額数百円レベルでの有料課金で提供することを検討している。仮にアラートが出て医療機関で内視鏡検査などを受けることになった場合には、その検査に対して補助金を出すといった損害保険的な役割を持たせるアイデアもある。

 我々は多くの人に観便を実践してほしいと思っているが、「毎回記録するのが面倒だ」「うんちを観察するのは嫌だ」という人も少なからずいる。そこで、トイレにセンサーを搭載し、うんちの状態を自動で記録してくれる仕組みの開発を、企業とのコラボレーションで進めている。これについては、まずは介護施設から導入をスタートし、そのあとに自宅用モデルを展開していく予定だ。

 介護施設や病院では「下剤の乱用」が問題になっていることから、排便と下剤、食事を記録するシステムの開発も手掛けている。食事改善によって排便が改善されれば下剤の利用頻度を減らせることから、下剤の最適利用をサポートするツールとなる。メインターゲットは下剤を常用的に服用する寝たきり患者や高齢者などで、まずは病院向けとして年内のリリースを計画している。

(写真:川島 彩水)


(タイトル部のImage:川島 彩水)