へそ部で直腸温(深部体温)の変動の連続データを取得。このデータを軸に、各種用途へのアルゴリズムの研究・解析などを進めているHERBIO(ハービオ)。2021年1月には総額1億2000万円の資金調達を実施したばかり。開発中のウエアラブルセンサーの量産化などを急ぐ構えだ。同社を訪問し、代表取締役の田中彩諭理氏に話を聞いた。

今回訪問したのは、東京・代々木にあるオフィス(写真:川島 彩水、以下同)
今回訪問したのは、東京・代々木にあるオフィス(写真:川島 彩水、以下同)
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起業のきっかけ

自らの経験から着想した体温データ活用

 起業には私の人生の2つの経験が関係している。1つは自宅介護をしていた祖父の体調の変化に気づくことができず、肺炎で亡くしてしまったこと。もう1つは自身の月経前症候群(PMS)が重く、基礎体温を継続的に計測していたことだ。

代表取締役の田中彩諭理氏
代表取締役の田中彩諭理氏
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 それらの経験から、体温は人にとって本当に大切な体調指標と考えるようになった。今でも、体温をきちんと観察していれば祖父の死を防げたかもしれないと思うことがある。一方で基礎体温の計測では舌下体温計を使用していたが、日常的に測ることは面倒だと感じていた。簡単に正確な体温が計測でき、わかりやすく健康状態を可視化できれば日々の体調管理に役立つはずとの思いから起業を志した。

 最初に着想したのは負担をかけずに体温を計測できるウエアラブルデバイス。起業前にはハードウエアスタートアップに初期メンバーとして参加し、ものづくりのイロハはもちろんのこと、総務や人事、財務など一連のコーポレート業務を学んだ。

HERBIOの概要(表:同社への聞き取りを基にBeyond Healthが作成)
HERBIOの概要(表:同社への聞き取りを基にBeyond Healthが作成)
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 とはいえ、デバイスはあくまで体温を計測するツールに過ぎない。私が求めていたのは確たるエビデンスに基づく体温データと連動して、包括的なソリューションを提供することだった。ハードウェアスタートアップを卒業後、SNS経由で体温の研究者である丸井(朱里氏)をスカウトしたのはそのためだ。彼女を共同創業者に迎えて2017年9月にHERBIOを創業した。丸井は弊社の研究主任でありながら現在も早稲田大学人間科学学術院の助教を務めており、学術面でHERBIOを支えている。

 スタートアップの良さは垣根を取り払ってコンパクトに動くことによって、現場のニーズを素早く反映できる点にある。創業から3年半が経ち、ようやく体制づくりに弾みがついてきたところだ。

サービスの概要

デバイスは「へそ部」に装着

 HERBIOではへそ部の周辺温度と直腸温(深部体温)との相関関係を明らかにした。そこで、へそ部に装着するウエアラブルデバイスによって安定した深部体温データを連続取得し、データの解析結果を通じて医療や健康領域に貢献するソリューションを構想している。

 へそ部に着目したのは、へその中が皮膚の中で唯一汗腺がなく、外気の影響を受けないから。それゆえ、安定的に深部体温の変動を収集できる。

デバイスの試作品
デバイスの試作品
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 ウエアラブルデバイスは現在開発中で、2022年に管理医療機器(クラスII)の承認を目指す。2020年12月には管理医療機器の製造販売業許可を取得した。

 デバイスは裏面のシールでへそ部に装着し、場合によっては腹巻きなどで固定する。小型軽量だが体温センサーを内蔵し、どんな体の状態のときの体温なのか区別でき、1〜10分までの分単位で連続して体温を計測可能だ。計測データはBluetooth経由でスマホアプリを経由してクラウドに記録される。先行してPHR(個人健康記録)アプリの「Carekara(ケアカラ)」をリリース済みだが、現状は製薬企業や研究機関などへの研究支援アプリの形を採っている。

 当初はBtoC寄りの女性の体調管理にフォーカスしていたものの、事業を続ける中でBtoBのニーズが多いことが見えてきた。例えば熱中症対策などだ。また、深部体温の連続値は医療現場からも望まれている。スタート時点からはどんどん領域が広がっているが、体温を軸としたコアは変わらない。いずれにしろ、データを取得できないことには始まらないので、各方面と協働しながら発展させていく。

サービスの現状と課題

精緻な研究データを蓄積し、次なる飛躍に備える

 今はまだデータを取得する研究のフェーズ。先ほど話した熱中症における協業のほか、製薬企業とのバーチャル治験を進めている。人によって平熱はバラバラだが、個人の平熱が何度なのかをアルゴリズムを用いて学習することが狙いの1つだ。体温変動はさまざまな病気に関わってくるため、研究や治験のニーズは多い。

 デバイスの量産モデルが2021年の4〜5月頃には完成する見込みで、その後に研究を加速させていく。従来は睡眠中の装着を予定していたが、今後は要望に応じて24時間連続で計測できるタイプを考えている。ありがたいことにメディアの記事などで知り、先方からアプローチしてくれるケースがほとんど。この1年間で引き合いはぐんと増えた。

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 2021年1月には、研究開発型スタートアップの投資に強みを持つBeyond Next Venturesらから総額1億2000万円の出資を受けた。将来的な展開にも相談に応じていただき、新たなつながりが生まれるようになった。つながりを通じて医科大学などアカデミアとの共同研究により、精緻なデータを蓄積する。

 中期的な課題は、医療機器の承認に向けた動きになる。コロナ下で人の移動が制限される中で、どのようにして研究を続けていくか。その費用を捻出するのも課題と言える。我々のような事業はどうしても大がかりな研究開発費が必要になるので、公的な補助にも期待したい。

自社の強み

研究、ものづくり、事業開発まで一貫してPDCAを回す

 当初からそれぞれの分野のスペシャリストがスクラムを組み、研究、ものづくり、事業開発まで一貫してPDCAを回すイメージを思い描いていた。その3軸を自社で手がけているのが最大の強みになる。最近では専門的なプロダクトやソリューションを実践する人材をかなり積極的に採用している。

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 HERBIOの事業はIoT、医療機器、研究開発と多岐にわたるが、大手センサーメーカーや外資系医療機器メーカーの出身者、人の肌を研究する専門家、アルゴリズムに携わる優秀なエンジニアなど、それぞれの領域でスペシャリストが集まってきた。丸井との出会いは私にとって最初のターニングポイントだったが、これから第二段階に生まれ変わろうとしている。

 キャリア採用組は向上心と好奇心が高いため、自発的にいろんな役割を兼務してくれる。医療機器メーカーの出身者がソフトウエアの開発に関わるなどはその一例だ。また、大手センサーメーカーの出身者はこれまでの知見を生かして、デバイスの改良点やOEM(受託製造先)の調整などをすべて洗い出した。こうした積極性があるからこそ、従来にはなかったアイデアが出てくる。

 個々の能力やスキルを見れば、私よりも優秀な人材になるだろう。だが、私がやるべきことはメンバーが最適なパフォーマンスを出せる状況を作り出し、先へ先へと事業を進めていくことにほかならない。リモートワークのフルフレックス勤務で、副業を許可しているのもメンバーの自主性を重んじているからだ。Beyond Next Venturesや新しい人材を含め、信頼して相談できるメンバーも増えてきた。頼れる人が多くなってきたのは心強い限りだ。

今後の展望

医療と自宅をつなぐラストワンマイルに

 HERBIOのゴールは人びとの役に立つシーズの社会実装だ。「人に求められる研究とは何か?」を見据えて活動している。安全面やデータ取得の精度を踏まえた開発体制を維持するのは高いハードルだが、スタートアップだからと甘んじることは許されない。きちんと人の命に寄り添っていくためにも、しっかりとした品質でプロダクトを作ることを常に心がけている。

 新型コロナの状況では、病院と自宅の間に隔たりがあることを皆さんが身を以て感じたと思う。そして、日常生活の中でこんなに多くの人に体温が注目されることは初めてだろう。だからこそ、自分の体温の平常値を知ることは重要になってくる。体温はユニバーサルな研究対象なので、国内での研究結果を海外に広げることもできる。そこまでの可能性があるソリューションだと信じて前進していく。

 我々は「生きる」に寄り添うテクノロジーをミッションに掲げている。将来的にはモバイル医療機器をどんどん拡充していきたい。具体的には在宅でも医師とつながる仕組みを作ることが理想だ。病院にいないと医療の恩恵が受けられない状況を少しでも打破できればうれしい。

 日本発の高精度なモバイル医療機器が、医療と自宅をつなぐラストワンマイルの役割を果たす──そんな唯一無二の存在を目指してこれからも研究開発を続けるつもりだ。

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(タイトル部のImage:川島 彩水)