LINEを活用した妊活コンシェルジュサービス「famione(ファミワン)」を2018年6月に開始したファミワン。現在までの累計登録者数は1万5000人で、特に2019年10月以降は前年同月比800%を超えるペースで増加しているという。2020年4月には約1億5000万円の資金調達を実施、事業投資や人材採用を本格化すると発表したばかり。同社 代表取締役の石川勇介氏に話を聞いた。

今回訪問したのは、東京・渋谷区にあるスタートアップ向けのインキュベーション施設。ファミワン以外にも、複数のヘルスケア系スタートアップが同施設を活用しているという(写真:川島 彩水、以下同)

■起業のきっかけ

自らの妊活体験で気づいた“深い情報の不在”

 私自身が妊活・不妊で悩んだ経験が背景にある。夫婦で子どもがほしいと考えていたものの、具体的にどのタイミングで何をやるべきかを話し合っていなかった。おかげさまで今では2人の子どもに恵まれたが、当初はすぐに子どもが授かるものだと思っていた。

代表取締役の石川勇介氏

 妊活で悩んだときにネットで検索した際、逆に情報が溢れすぎていて一体どれが正しいのか判断できなかった。ちょうどライトなヘルスケア関連のサイトが盛り上がってきた頃と重なり、検索上位に出てくる情報が信頼性に欠けていると感じたからだ。そんな中で、妊活・不妊の深い部分を支えるサービスは存在しないことに気づいた。この課題を解決したいと考えたのがもともとのモチベーションになっている。

 もう1点、私は当時(医療情報サービス大手の)エムスリーに在籍していたことも大きい。情報を届ける当事者として、きちんと整理したうえでユーザーに伝えるべきとの姿勢で仕事をしてきた。エムスリー時代はコンシューマー向けの「AskDoctors(アスクドクターズ)評価サービス」などを担当し、医師による健康に関連する商品やサービスの評価認定を通じて、一般ユーザーと向き合っていた。

 エムスリーで妊活の事業を立ち上げる選択肢もゼロではなかったが、この領域は数年で急激に売上を伸ばせるものではない。ならば外に出て起業しようと思い立った。ただ、今でもエムスリーの方々とは定期的にディスカッションするなどの形で応援してもらっている。

ファミワンの概要(表:同社への聞き取りを基にBeyond Healthが作成)

 起業は2015年6月。社名のファミワンは、「ファミリー」と「ワン」を組みわせた言葉。家族が1人増える、夫婦で1つになる、それらを支える社会全体が1つの家族との意味を込めている。

 我々のビジョンは「子どもを願うすべての人によりそい、幸せな人生を歩める社会をつくる」。もちろん、多くのユーザーにとって家族が1人増えることはゴールに違いない。しかし、このビジョンに込めたように、ユーザーが正しい情報をきちんと得たうえでフラットに判断し、後悔しない妊活をしてもらい、それを“社会全体で支える”ことこそ大切だと考えている。

■サービスの概要

“悩んでから支えるサービス”は理想ではない

 社名と同じ、妊活コンシェルジュサービスの「ファミワン」を展開している。客観的なデータとともに妊活に必要な情報を提供し、メンタル面も含めて精神的なケアを継続的に行う。多職種連携により、それぞれの専門家がアドバイスできる体制を整えているのが特徴。不妊症看護認定看護師を中心に、臨床心理士、培養士、ピアカウンセラーがサポートする。

 ファミワンではLINEを活用する。LINEはメインターゲットの年齢層にあまねく普及しており、まずは気軽に利用してもらうために最適だからだ。

LINEを活用した妊活コンシェルジュサービス「ファミワン」のイメージ(出所:ファミワン)

 そして、自動と手動もケースによって使い分けている。手動の場合も、チャットでやり取りするのではなく、こちらで用意した妊活チェックシートに記入してもらい、それに対して専門家チームが懇切丁寧に回答を送る形にしている。届いたリンクをクリックすると別ページに遷移し、数千字ほどの報告を読むことができる仕組みなどを採用している。アドバイス内容は妊活に合った病院選び、体外受精、パートナーやキャリアとの関係、不妊治療のやめ時など多岐にわたる。

 もちろん、「妊娠したい」というニーズが圧倒的だ。一方で夫婦の形は千差万別。どうすれば妊娠できるかだけではなく、不妊に悩んでいたら体外受精をしたいのか、検査を受けるべきなのかといった問題もある。それらをきちんと整理したうえで回答するのが我々の仕事だと思っている。最終的な意思決定は当事者にあるのだから、どんな情報が最もユーザーにとって価値があるかを常にPDCAを回しながら模索している。

 悩んでから支えるサービスではなく、“妊活を始めたら全員が使うサービス”という位置づけが理想。病院に行こうかなと思ったタイミングで思い出して利用してもらえれば。悩み相談だとほとんどの人が身構えてしまう。また、そもそも妊活をしなければ子どもは産まれない。妊娠に向き合うのは何ら特別なことではないことを世の中に打ち出していく。

■サービスの現状と課題

多くの企業から舞い込むオファー、連携の拡大図る

 ユーザー数は堅調に伸びており、現在は約1万5000人の会員がいる。性質上、話題性によって一時的に利用してもらうものではないため、徐々にユーザーに浸透している手応えを感じる。

 2019年の秋からは並行して企業や自治体との連携を開始した。例えば小田急電鉄では女性車掌が増えてきているが、結婚や妊活のタイミングで悩む社員も多い。申請すると周囲に悩みを知られてしまうとの懸念から、せっかく整備した不妊治療の費用補助や休暇制度をなかなか利用しないとの課題があった。そこで弊社のような社外サービスを利用したいと。

 こうしたオファーがいろんな企業から舞い込んでいる。この連携を拡大すれば、より多くの人を巻き込めるようになる。普段は妊活で検索しないような人たちも「一度使ってみようか」となる可能性が出てくる。

 今後は自社の社員のみならず、企業が抱える会員やユーザーに向けた連携を始めようと計画している。例としては福利厚生系サービス、保険会社、ママ向け情報サービスなどだ。ママ向けのサービスでユーザーヒアリングを行うと、かなりの割合で妊活・不妊の話題が出てくる。2人目をどうしようかと悩むママは多いが、自社サービスではなかなかサポートしきれない。ならばファミワンと連携して特典付きで使えるようにすれば、ステークホルダーすべてにメリットがある。

 マネタイズに関しては、BtoCは基本無料が前提。課金すると電話相談、テキスト相談が可能な有料プレミアプランの用意はあるが、そこを増やしていく考えはない。軌道に乗り始めた企業との連携や特典提供で収益を確保していくつもりだ。

 課題は医療側との連携をどのように増やしていくか。もっと連携するクリニックを増やしたい。医療連携で考えているのは、まず未受診の患者とクリニックをマッチングさせること。もう1つは、すでにクリニックを訪れている人たちのサポート。オンラインだからこそ、場所や時間の制約を超えてケアできることはたくさんある。

■自社の強み

「最新の声」を拾いサービスに生かす

 最大の強みは、さまざまな専門家がきちんと対応している点。儲けようと思えば、サプリメントを扱えばすぐにできる。ひどいものだと、「これを飲めば妊娠できる」といった宣伝文句のサプリメントもある。でも、それが本質的な解決につながるかどうかは疑問だ。何が最も真っ当な対応なのかを常に考えている。

 ファミワンでは不妊症看護認定看護師と臨床心理士の2人が正社員で、臨床経験も豊富。臨床心理士は今でもクリニックに週一回勤務しており、そこで患者の声を聞きながら、最新の患者の考え方を踏まえたうえでサービスに生かしている。そのほかのアドバイザーとして、全国に業務委託の看護師がいる。

 最新の患者の思考を大事にするのは、10年前、20年前とは社会背景が異なるためだ。かつての経験者であっても今の妊活・不妊経験者とでは明らかに考え方が違う。何しろ、創業した5年前は妊活・不妊という言葉ですら一般的ではなかった。現在は20代後半ぐらいから子どもがほしかったら体外受精ありきと考える人も少なくない。また、仕事との両立が大変だと刷り込まれすぎて、産むべきかどうか迷っている人たちも多数いる。

 男性もかなり変わった。それこそ5年前でも男性が精子の検査に行くことはすごく恥ずかしいとの認識があったが、その意識もだいぶ変わってきている。私自身の体験だけに頼っているとどうしても古くなってしまう。なので医療機関に来ている患者と、実際にファミワンを使ってくれている未受診の人たちの声をどんどん反映させていかなくてはならない。

 2018年にはフジテレビのドラマ「隣の家族は青く見える」の監修を担当した。ドラマの監修は世の中に対する妊活の啓発には大きな意味があったが、直接的な売上を目的にしたものではない。

 2019年からスタートした東京大学医学部附属病院との「生活習慣が妊活に与える影響」を解明する共同研究にしても同じ(関連記事)。でも妊活への意識向上のためにそこはやるべきだと考え、チャンスがあればコラボレーションしている。その感覚は大事にしていきたい。

■今後の展望

他のサービスとの連携も視野に

 長期的には2つある。1つは妊活・不妊からの拡大で、妊娠、出産、産後うつ、育児の流れに沿って広げていく。チェックシートに答えるだけで専門家が丁寧にアドバイスし、必要な医療機関や外部スタッフにつなげるサービスの形は横展開はしやすい。

 もう1つは海外進出だ。海外の妊活系ベンチャーだといかに妊娠率を向上するかという“結果がすべて”のサービスがほとんど。カップルは日本よりもフラットに妊活・不妊について話し合うが、その前提となる知識が古い情報になってしまっている場合が多い。なのでグローバルでも、ユーザー心理に寄り添って最新の情報を元にアプローチしていければと。適切な情報支援とアドバイス、メンタルケアは世界のどこでも求められるからだ。

 さらなる可能性としては、ほかのヘルスケアサービスとの協力もある。例えば男性の精子検査キットのサービスと提携したり。実際、生理日予測のアプリを出している会社とは話を進めている。予測アプリ内からファミワンへジャンプして、その先はこちらで対応するといったスキームになる。そして我々も次のサービスへとつなぐ。こうしたシナジーを生み出しながらユーザーに提供できれば、包括的な価値が高まるだろう。


(タイトル部のImage:川島 彩水)