AIによるケアプラン作成支援システムや、地域ケア情報のプラットフォーム事業などを手掛けるウェルモ。地道に構築してきた介護事業所に関する膨大かつ詳細なデータには目を見張るものがある。2019年1月に開催された「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2019」(主催は経済産業省)では優秀賞を獲得。その同社を訪問し、代表取締役CEOの鹿野佑介氏に話を聞いた。

訪問したオフィスの窓からは皇居周辺の緑が見え、とても開放感があった。桜の季節を過ぎていたのが少々残念だった(写真:川島 彩水、以下同)

起業のきっかけ

8カ月間にわたり介護事業所を行脚

 前職は人事領域のITコンサルに従事していた。興味があったのは“働きがい”。皆がもっと生き生きと働く環境を提供したいと考えていた。独立して、介護領域のソリューションを立ち上げた。

代表取締役CEOの鹿野佑介氏

 介護に注目したきっかけは少子高齢化がさらに進む中で、人事的な課題が圧倒的に多いと感じたから。しかし私には介護のナレッジがなかったので、前職を辞めてから8カ月ほど北は仙台市から南は福岡市までボランティアとして介護に携わり、同時に現場の方々にインタビューを重ねた。そこから介護業界が抱える構造的な問題や離職率の高さの原因が見えてきた。それが“現場の人たちが助かるような仕組み”を開発する源流となっている。

 まず福岡市を起点に、介護事業所の情報を徹底的に調査・収集してデータベースを作成し、ICTで見える化を図った。出身が大阪、そして東京で仕事をしていたのに「なぜ福岡で起業?」とよく言われるが、福岡は高島(宗一郎)市長をはじめとして介護のICT化に非常に積極的だからだ。市が情報発信を手伝ってくれるし、何より介護事業所の方々も新しいことへのトライをいとわない。そこから広がって、今は首都圏など他地域に規模を拡大しつつある。

ウェルモの概要(表:同社への聞き取りを基にBeyond Healthが作成)

 ウェルモの事業は基本的にソーシャルビジネス。短期の利益が目的ではなく、中長期で本質的な課題解決に挑んでいる。社会インフラを構築することにフォーカスし、なおかつ持続可能な状態にしていきたい。そのためにICTや人工知能(AI)などの先端技術を組み合わせて人びとをサポートしていく。

サービスの概要

散らばっていたデータを可視化

 サービスは、(1)介護関連の情報を網羅する「MILMOシリーズ」、(2)AIによるケアプラン作成支援システムの「CarePlanAssistant(ケアプランアシスタント)」、(3)障がい児支援事業の「UNICO」を3本柱としている。

 まずは(1)のMILMOシリーズについて。「MILMO NET(ミルモネット)」は居宅介護支援事業所、地域包括支援センターのケアマネジャー、ソーシャルワーカーに向けたもので、利用者にとって最適な介護サービスを提供するためのWebプラットフォームだ。

 大手は別として、スタッフが5~6人しかいない小規模な介護事業所は住宅街の一軒家だったりすることがほとんど。ホームページさえない施設が多く、利用者にとって最適な事業所を見つけたいと思ってもアクセスできない。

介護事業所に関する資料は通常、個々に紙で用意されており、情報は散らばっている。ケアマネジャーなどは、これら散らばっている情報をあさっていく必要があった(出所:ウェルモ)

 ミルモネットではそうした事業所の情報を集約し、詳細なサービス内容を掲載している。朝食や昼食の有無、嚥下食や車椅子対応、入浴環境、介護保険内外のサービス、さらには付近の健康教室の情報まで、高齢者支援を中心とした社会資源情報を含んでいるのが特徴だ。

 ミルモネットを冊子化した「MILMO BOOK(ミルモブック)」も作成している。ケアマネジャーや利用者のニーズを考え、1ページに1事業所で必要な情報を凝縮した。ケアマネジャーの平均年齢も50代と若くはなく、60代、70代の方もいる。また利用者の家族に見せる際も、通信環境などによりタブレット端末でサービスにログインできないこともある。やはりデジタル一辺倒ではなく、アナログとのハイブリッドな視点は欠かせない。

地区別に作成しているミルモブック。例えば、一番右にあるのは鶴見区(横浜市)の情報を集めたもの(写真:川島 彩水)

 (2)のケアプランアシスタントは、ケアマネジャーの不安に着目して開発した。厚生労働省の2016年の調査では、約4割のケアマネジャーが「自分の能力や資質に不安がある」と回答している。人事コンサルの視点からすると、この不安は職能上のギャップから来るものだ。

 もともとケアマネジャーは介護現場で対面援助したり会話したりすることが得意な人たちであり、マネージャー職になった途端に給付管理や課題分析、各所の調整といったこれまでとは異なるスキルが求められる。そこでケアプランアシスタントではAIでケアプラン作成をサポートし、ケアマネジャーの業務負担やストレスを軽減したいと考えている。2019年1月からは福岡市で実証実験が本格始動した。このAIにミルモネットで収集したデータベースが生きてくる。AIには多数のデータが必要だからだ。

 (3)のUNICOは福岡県を中心に展開している児童発達支援、放課後等デイサービスの事業所。発達障がいなどを抱えてなかなか社会に溶け込めない子どもたちに、多種多様なカリキュラムやプログラムを提供している。約8カ月で障がいが重度から中度に改善した例も出てきた。今後は関東圏でも広げていく予定だ。

サービスの現状と課題

パートナーとなる自治体を動かす

 現在、福岡県、東京都、横浜市、札幌市で事業を展開している。1万5000件近くの介護事業所データを所有しており、各地域で差はあるものの80~95%のカバー率になる。今年は大阪市でも事業を開始する予定なので、さらにシェアは増えるだろう。

 ミルモネットが必要とされるのは、基本的に政令指定都市などの大都市。なぜなら介護事業所が密集していて効果的に選択できない課題は、大都市特有のものだからだ。マーケットが小さく移動距離が多い地方都市の場合はマネタイズが難しい。自治体が主体となってミルモネットを利用してもらうモデルになるのではないか。例えば税金を投入してインフラとして利用するようなパターンが想定される。

 だが大都市にしろ、基本的に自治体連携のビジネスモデルであることは変わらない。民間企業だけでやろうとすると、保守的な業界だけに角が立つ。むしろシステム開発よりも、いかにサービスを浸透させていくかが難しい。自治体の協力は必須となる。だから私は政策提言をしたり、市長や知事を表敬訪問したり、いろんなロビー活動を積極的に行っている。

2019年3月に実施された研究協定締結式の様子。中央が横浜市長の林文子氏。その右がウェルモの鹿野氏(写真:Beyond Healthが撮影)

 そうした努力が実り、2019年3月には横浜市、ツクイ、富士ソフト、ジェイアークと「介護分野におけるオープンイノベーションによる課題解決に関する研究協定」を結んだ。横浜市が全事業所に通知を出すなど、とても協力的に進めている。

自社の強み

プラットフォームと自社開発AIの両輪で

 最大の強みはデータを活用したプラットフォーム。介護事業所に関するこれだけのデータをそろえ、なおかつ地域のことを熟知している企業はない。すべてを自社開発している技術力の高さもポイントだ。

 情報のデータベース化には6年ほど前から取り組んだ。介護業界はいまだにFAXや紙資料に埋もれるアナログな世界であり、我々も事業所に地道に電話をかけてコツコツと情報を収集してきた。

 介護で非常に大切なのは、どの事業所に任せるかということ。どれぐらいの質を担保できるか――拠り所とする情報がなければ、事業所選びも「知っているところを薦めよう」となってしまう。しかしそれは決して利用者本位ではなく、結果的に利用者が不幸になってしまう可能性が高い。こんなにディテールまで拾い上げているのは国内唯一だろう。サービス自体はスマートなイメージかもしれないが、泥臭くやってきた。

訪問した日は、夜に歓迎会が企画されていたようだ(写真:川島 彩水、以下同)

 社員のパーソナリティがバラエティに富んでいることも特徴だ。元官僚がいたり、知事への挑戦を蹴ってウェルモに入社したり、医師がいたり。AIをずっとやってきたエンジニアもいれば、もちろん介護業界出身の人間もいる。見事にばらばらで動物園のようでもある。

 介護には多職種連携が求められるので、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちの知見は貴重だ。ただ、グローバルな視点とローカルな視点を持つメンバーが多いのは共通していると思う。

今後の展望

グローバルに介護ソリューションを輸出

 日本が先頭を切って超高齢社会に突入してはいるが、いずれどの国も同じ課題が出てくる。それゆえ、海外展開は必然と言えるだろう。まずは国内での市場を押さえ、介護に関するソリューションを新幹線のように輸出できれば。

 特にAIのエンジンについては、WHO(世界保健機構)が採択している医療基準のICFに倣って作っており、中身は英語ベースなので他国にも展開できる。今も各国の大使館から共同研究をやらないかとの誘いがある。それを踏まえても、プラットフォームとAIを独自に持っていることは大きい。

 今は上場の準備を始めている。上場することで信用力が付くからだ。その一方で地域に密着して情報を集め、「リアルな介護とは何ぞや?」に向き合うことも必要。ありがたいことに現場のケアマネジャーからの評価も高い。現場に寄り添いながらグローバルを目指す。

 また、2018年12月には東京電力パワーグリッド、エナジーゲートウェイと共同で、IoT×AIによる見守りの実証実験を開始した。IoTによって収集した宅内情報から行動パターンを予測し、ケアプランアシスタントを連携させて適切なケアプランの作成補助を行うものだ。

 このように、弊社のプラットフォームと連携して新たに介護領域に参入したいとの大企業が増えてきている。例えば高齢者向けの配食や損害保険などだが、そのほかにも人材紹介や医療顧問サービスなど、数多くの連携が考えられる。これらは確実な収益モデルとして成長させていく。

オフィスの入口にて

(タイトル部のImage:川島 彩水)