クリニックチェーンマネジメント事業や健康経営支援事業などを通じて、幸せの総量の最大化を目指す――そんな経営理念を掲げるCAPS。医療機関(医療法人社団ナイズ)をグループとして一体運営しながら、医療現場に積極的にITを取り入れることを標榜する同社が見据える未来とは…。同社を訪問し、代表取締役の鶴谷武親氏と医療法人社団ナイズ 本部長の金谷義久氏に話を聞いた。

今回訪問したのは、東京・六本木にあるオフィス(写真:川島 彩水、以下同)
今回訪問したのは、東京・六本木にあるオフィス(写真:川島 彩水、以下同)
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起業のきっかけ

夜間は救急外来を頼るしかない構図が見えた

鶴谷 我々は医療機関の中では珍しい存在で、株式会社(CAPS株式会社)と医療機関(医療法人社団ナイズ)をCAPSグループとして一体運営しながら、医療現場に積極的にITを取り入れることを特徴としている。ナイズでは「キャップスクリニック」を自社運営しており、現在、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の首都圏に9拠点を構え、7月と8月にも各1拠点がオープン予定だ。

 キャップスクリニックは、標準的な治療を365日受けられる拠点を普及・維持することがビジョンの1つ。これは、ナイズ理事長でキャップスクリニック総院長の白岡亮平氏が開業前に、比較的大きな病院で勤務医をしていたときの経験に端を発したものだ。彼は小児科医なのだが、例えば夜勤ではさほど緊急を要する状態でなくとも親が心配して子どもを病院に連れてくることが多かったという。

代表取締役の鶴谷武親氏
代表取締役の鶴谷武親氏
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 そうした状況に接するうちに、地域の二次医療、三次医療を担う病院に直接来ることが果たして正しいのかと考えた。もう少し地域の医療機関と役割分担をして、効率的に切り分けができるのではないかと。ところが地元のクリニックを見渡すと、平日の夕方以降は閉まっているし、土曜日も午後はやっていないところがほとんど。必然的に夜間は、病院の救急外来を頼るしかなくなるという構図が見えてきた。

 そこで365日、土日祝日も含めて治療を行なうクリニックを開院した。それが2012年4月、今から9年前のこと。子どもを持つ親御さんにとって、信頼できる医療が365日受けられる社会になれば、子育てが楽になり、生活に安心感をもたらす。最初は東京の西葛西にオープンしたが、見事にほとんどのターゲットが診察券を作ってくれた。

CAPSの概要(表:同社への聞き取りを基にBeyond Healthが作成)
CAPSの概要(表:同社への聞き取りを基にBeyond Healthが作成)
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 理由はシンプルで、地域のクリニックが開いていない時間帯をカバーしていたからだ。キャップスクリニックは遅い拠点だと21時まで開いているため、親が共働きだとしても保育園に迎えに行った帰りに立ち寄れる。つまり、ほかにかかりつけクリニックがあったとしても並行して我々の診察券を持つという、あまり競合しないビジネスモデルになる。多くの方々から「非常に助かる」との言葉を頂いているので、この方向性は間違っていなかったと実感している。

サービスの概要

多拠点運営に向け、自社で医療と業務システムを構築

鶴谷 キャップスクリニックはチェーン展開を前提に設計している。日本では病院のチェーンはあるが、本格的なクリニックのチェーンはない。日本の医師は約32万人おり、そのうち約10万人が開業医だが、これはほぼクリニックの数と同じ。言うなれば1人1拠点経営している計算になる。

 これはかつての“町の酒屋”と似ている。だが、1970年代、80年代に比べると社会は年中無休のライフスタイルに変化し、いつの間にか酒屋はコンビニチェーンに組み込まれている。いま、共働き世帯が約6割と言われる中で、クリニックは生活者のニーズに合っていない。その課題をクリニックのチェーン化で少しでも解決したい。

 実現に向けては医療、人事、採用を含めてすべてシステムを共通化し、最初からチェーンオペレーションを前提に仕組みを構築する必要がある。医療機関を運営しながら、医療現場やバックグラウンド業務で動くITシステムを自社で作ることによって、常に最新のニーズに合わせて動けるようにしている。これを「クリニックチェーンマネジメント」と名付け、多拠点運営の支援に活用するのが特徴だ。コロナ禍においてもさまざまな要望を聞いてアップデートを行ない、現場のオペレーションと患者の負荷軽減を両立した。

金谷 私は全拠点の統括、医師をはじめとするスタッフのマネジメントを担当している。わかりやすい例としては電子カルテの例がある。一般的な電子カルテは単独のクリニックで利用する仕様のためチェーンオペレーションには向かず、用途も医療情報の記録に特化している。だが、我々が開発している「Clinic Information System」は、クラウド電子カルテシステム、オンライン予約・問診システム、患者満足度などの各種KPIシステムなどから構成され、オペレーション効率化を目的とした。

医療法人社団ナイズ 本部長の金谷義久氏
医療法人社団ナイズ 本部長の金谷義久氏
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 見やすさ、使いやすさにもこだわっており、電子カルテを起動すると患者が院内のどの場所で待っているのかがひと目でわかる。カルテを閉じると管理画面上に「診察終了」が表示されるので、それを見て院内アナウンスで移動を促す。このようにして待合室での滞在時間の短縮や円滑な診療に役立てている。

鶴谷 実はあまりに効率化が行き過ぎると患者の満足度とトレードオフになるのではないかと懸念していた。それもあって、毎回診察後に渡すiPadやスマホで満足度調査を実施している。そのデータを当社のデータサイエンティストが分析したところ、時間が短いほうがむしろ満足度が高いとの結果が得られた。キャップスクリニックは英国で言うところのゲートキーパーであり、まずは手際よく論理的な説明を受けて、もっと大きな病院に行くのかどうかの結論を出したいと考える人が一定数いると推測される。内科を併設しているとは言え、小児科がメインだけに高齢者よりも壮年層の患者が多いことも影響しているのではないか。iPad問診や合理的な診察システムにも抵抗がないようだ。

サービスの現状と課題

ブランディングは成功、課題はITベンチャーとしての筋力強化

鶴谷 約10年経過して、ようやくキャップスクリニックの認知度が向上してきた。我々は小児科をメインでブランディングしているが、約1万7000人いる日本の小児科医に広く知れ渡っている自負がある。勤務時間で換算すると、コロナ前には非常勤80%、常勤20%の割合だった。関東に限れば、およそ皆さんが知っている小児病院の医師には、キャップスクリニックの非常勤経験者が少なからずいる状態だ。

金谷 勤務登録にもITを駆使している。以前は手作業でスケジュールを組んでいたが、クリニックが増えるにつれて限界を感じていた。今は自社内の登録サイトから医師自身が都合の良い場所・時間を選んでもらって調整を図っている。作業を分散できるのがデジタルの良さ。一種のDX(デジタルトランスフォーメーション)になる。

鶴谷 これは現在に限った話ではないが、クリニックチェーンの本格化に向けた場所の手配、人材の確保、そして開院後の医療サービスの品質維持は常に課題としてつきまとう。

 いい場所を最適なタイミングで確保する人材は医療業界ではなく、むしろファミレスチェーン等の店舗開発担当者が望ましい。医療従事者やスタッフにはしっかりとビジョン、ミッションを共有し、我々が考えるスキルセットを持った人材の採用を心がけている。医療サービスの品質維持には能力をフルに発揮してもらう組織づくりと評価体制、迅速な問題改善のスキームが必須になってくる。

 最近開業したクリニックでは、患者からおおよそ高い満足度を頂戴している。徐々にパッケージ化されてきた感触はあるものの最後は必ず人が関わるので、仕組みができたら安心ということではない。緊張感を保つためにも、ITでモニタリングしながらいかに「うっかり」が出ないようにするかも重要だ。

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 医療サイドから見た場合はITに強いと思われるかもしれないが、それに甘えるつもりはない。一般的なITベンチャーと比較した際、組織力、開発力、人材力、採用力をトップレベルまで引き上げることが次の段階になる。医療事業には独特のコツがあり、そのコツを押さえると収益も出しやすく、安定したビジネスになりやすい。しかし、通りを挟んだ六本木ヒルズにあるメルカリのように、組織全体のダイアグラムを広げていくことを念頭に置いている。

 何もそれは上場を目的にしたものではない。CAPSグループはあくまでも医療機関が本筋であり、社会的責任は非常に大きい。「5年後はどこにあるか分かりません」「ビジネスモデルをピボットしました」では済まされない。しっかりと長期的なコミットメントを果たしながら、短期的な勢いで戦っている人たちと同じクオリティを出せる――そんな企業体質になることが理想だ。

自社の強み

医療系では独特、現場の隅々まで浸透したITリテラシーの高さ

鶴谷 現場の隅々まで高いITリテラシーを持つ人材がいること。それが我々の強みだ。医療現場でのIT活用を掲げて設立した集団なので当たり前と言えるだろうが、この10年で経験やノウハウが蓄積されてより強固な武器となった。

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 閉じた印象の強い医療業界だが、我々は社内ではオープンに情報を共有する。コミュニケーションツールとしてチャットワークを使い、他拠点と連携を図りながらシフト管理や業務連絡を行なっている。不具合の改善要望はすべてGoogleフォームで送信し、現場スタッフとシステム部が課題をチャットワークで議論する。

 このように現場からの声が開発部門に共有され、開発のマネジメント担当者が仕分けをしながらすぐに反映する。このサイクルを確立しているからこそ開発側も患者の要望を根本的に理解でき、結果的に感謝されるシステム開発につながる。開発者にとってそれは非常に励みになる。トップの私から見ても「強いな、この人たち」と思えるほどだ。

今後の展望

最終的には1000万人のPHRを活用

鶴谷 第1フェーズの戦略であるクリニックチェーンの本格化が短期的な展望。2019年から加速してきたがさらなるスピードアップを図り、今後数年で50拠点の展開を予定している。2021年5月からはキャップスクリニックで「新型コロナワクチンもったいないバンク」を立ち上げ、キャンセルによる余剰を極力減らす活動も始めた。こうした社会的アクションとともに、まずは患者様に信頼していただける地域ナンバー1クリニックになることを目指す。

 長期的にはPHR(患者個人の健康記録)の管理・活用がある。これは創業時のミッションにも記してあるもので、クリニックチェーンが拡大してこそ実現可能になる。各地のキャップスクリニックが入口となって子どものときに医療IDを作成することで、成長しても医療情報を容易に参照できる。例えば10歳の子どもが20歳になったとき、健康診断で麻疹(はしか)のワクチン接種記録をすぐに調べることができる。有効活用するためには、最終的に1000万人規模の患者が必要になってくるだろう。

 もう1つはグローバル展開の強化。実際、コロナ禍の前は海外からの問い合わせなどもあり、視察も受け入れていた。国民皆保険が整備され、世界に誇る医療先進国であると同時に少子高齢化の先頭を走る日本の課題解決力は、遅かれ早かれ多くの国・地域にも参考になるに違いない。

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(タイトル部のImage:川島 彩水)