実世界(フィジカル空間)にある多様なデータをセンサーネットワークなどで収集し、サイバー空間で大規模データ処理技術(AI)を駆使して分析や知識化を行う。こうした仕組みは、「サイバーフィジカルシステム」と呼ばれている。

 医療・ヘルスケアも、このサイバーフィジカルシステムの仕組みへと変貌していく――。「~AIが命を救い、新薬を開発する!~ 人工知能が切り開く未来医療」と題した市民公開講座に登壇した京都大学大学院医学研究科 医療情報学 教授の黒田知宏氏は、「AIとICTはどこまで医療を変えるのか」というテーマで講演し、こう述べた。

講演する黒田氏(写真:森田 直希)

「人間可読」のために作られたデータの品質が課題

 ただし、こうした世界へと変貌していくに当たっては、課題があると黒田氏は指摘する。それが、データの品質である。

 AIは、ビッグデータを読んで学習し、その結果として適切な答えを提示する。しかし、「データが正しくなければ、(AIは)ビッグデータでビッグに間違え、ディープラーニングでディープに間違える」(黒田氏)。

 とりわけ、問題となるのが、カルテ情報を基に収集したデータだという。「実際のカルテデータは、極めて質が低いデータだと言わざるを得ない」と黒田氏は言う。

 カルテは簡単に言えば、医師が書いて、医師に読ませることを前提としている。「人間由来の人間可読のために作られたデータであって、AIにとっては勉強になるデータではない」(黒田氏)。電子カルテの導入によってカルテ情報は電子化されたが、カルテ作成がコンピュータ入力に代わっただけで、あくまで人が読みやすいように作られたデータだからだ。

 もっとも、データの質が高いとされるビッグデータもある。診療報酬制度に基づく細かいルールに従ってデータ収集されたNDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)や、専門医制度に基づいた外科系の症例データベースであるNCD(National Clinical Database)をはじめとした疾患別リポジトリーなどだ。ただし、カルテ情報を基に収集したデータが現状のままでは、医療・ヘルスケアがサイバーフィジカルシステムの仕組みへと変貌し得ないというわけだ。