iPS細胞の生みの親であり、京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)所長の山中伸弥氏が「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」と題して市民公開講演に登壇。再生医療用iPS細胞(人工多能性幹細胞)研究の現状を紹介し、再生医療の将来を展望した。

講演する山中氏(写真:森田 直希)

 理化学研究所のグループが2019年4月18日、他人のiPS細胞から作った網膜色素上皮(RPE)細胞を加齢黄斑変性の患者5人に移植した臨床研究において、移植1年後でも拒絶反応はほとんど見られず、安全性を確認したと発表した。この臨床研究で使用されたRPE細胞は、CiRAの再生医療用iPS細胞ストックプロジェクトで作り出されたものだ。

 再生医療用iPS細胞ストックプロジェクトは、自己iPS細胞による再生医療の問題点である、細胞採取から移植までに要する時間と巨額な費用の壁を乗り越えるための事業である。しかし、他人の細胞由来のiPS細胞を用いた移植では、一人ひとりの免疫タイプ(ヒト白血球型抗原[HLA])が異なるために必ず拒絶反応が現われる。

 ところが、「免疫適合性の高い免疫タイプを持つHLAホモドナーの細胞からiPS細胞を作製すると、10人のうち4人に対してHLA型が一致した、拒絶反応が起こりにくい細胞を供給できる」(山中氏)という。ただ、HLAホモドナーは500~1000人に1人しか存在しないため、見つけ出すのが難しい。

 そこでCiRAは、日本赤十字社と協力体制を構築してきた。日赤はHLA適合血小板献血や骨髄バンク、臍帯血バンクなどの事業で、数万人の免疫タイプを調べてデータベース化しているため、HLAホモ情報に関するデータを保有している。これらの情報を基にHLAホモドナーとして同意取得し、あらかじめiPS細胞を作製し、ストックする体制を整備。2015年8月に第1号を出荷した。