2018年度の診療報酬改定で保険適用されたオンライン診療。1年以上が経過した現在、各地の厚生局にオンライン診療の基本診療料を届け出た医療機関は約1000施設にとどまっている。オンライン診療の対象疾患の診療を行う医療機関は全国で12万施設と推測されるため、届け出た施設は全体の1%に満たない状況だ。

 こうした現状の中、「遠隔医療の現状と展望」と題したシンポジウムが実施された。オンライン診療の現状の課題と、健全な発展に向けての展望について議論が交わされた。

「肌の質感なども感じられる診察環境が得られる」

 座長を務めた京都府立医科大学眼科学教室、デジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏は、オンライン診療を肯定的に捉えて取り組みたいとする医師がいる一方、懐疑的な見方をする医師も多いと指摘する。その声の多くが、対面診療と比較した診療の質に関する懸念だという。

京都府立医科大学眼科学教室、デジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏(写真:森田 直希、以下同)

 その一つとして、加藤氏は神奈川県保健協会がオンライン診療を届け出ている全医療機関と届け出ていない保健医療機関の一部に対して行ったアンケート結果を紹介した。「実施していない医療機関の理由の多くは、対面診療と比べて十分な診察ができない。触診・打診・聴診などができず、正しい診断ができないのではといった回答が多かった」(同氏)。

 加藤氏は、こうしたオンライン診療の質に関する課題に対し、革新的な技術の活用が解決の糸口になると述べた。例えば、5G(第5世代移動通信システム)である。5Gでは高精細で滑らかな映像のやり取りが可能になり、ウエアラブルデバイスによるリアルタイムの患者モニタリングも同時に実現する可能性がある。「5GとVR(仮想現実)などの技術を使えば、患者の肌の質感なども感じられる診察環境が得られるだろう」(同氏)との期待を示した。

まずは、医師と患者の十分な信頼関係の構築

 一方、精神科領域ではオンライン診療に関する歴史がある。「診断精度、治療効果、患者の満足度に関するエビデンスは比較的そろっていると言える」と、慶応義塾大学医学部 精神・神経科学教室の岸本泰士郎氏は話す。

慶応義塾大学医学部 精神・神経科学教室の岸本泰士郎氏

 例えば、うつ病患者に対してオンラインと対面診療における無作為比較化試験を実施し、治療効果および治療の脱落について検証したスタディーでは、両者の治療群で有意差はなかったという。また、テレビ電話を用いた認知症検査と対面検査を比較した臨床研究では、オンラインでも問題なく行えることが確認できたとした。

 しかしながら、岸本氏自身がオンライン診療を行った当初は、対面診療と様子が違うことに不自由さを感じたという。「対面診療では患者が診察室に入ってくる様子や、対話している間も全身を観察しながら総合的に判断している。オンライン診療ではそうした情報がかなり制限されるのは事実」(同氏)と語る。

 それでも、医師と患者の相互信頼があり、何でも言えるような状態が確立している場合には、「診療の質が落ちるという印象はない」と岸本氏は指摘する。医師と患者が十分に信頼関係を築くことが、対面診療と同等の質を担保する条件の一つと言えそうだ。

改善が求められる制度上の課題

 オンライン診療がなかなか普及しない要因としては、診療報酬制度上の課題も大きい。加藤氏は、「90日処方をしているような、病状が安定している患者に対してオンライン診療を行えない弊害が起きている」との現状を指摘する。

 その理由は、診療報酬の「オンライン診療料」を算定するための厳しい要件にある。具体的には、まず、連続する3カ月間に1度は対面診療を行っていること。そして、対象患者は特定疾患療養管理料、てんかん指導料、糖尿病透析予防指導管理料など10の管理料のいずれかを算定しており、最初の算定から6カ月は毎月対面診療を行っているか、直近12カ月以内に6回以上の対面診療を行っていること、などの要件がある。

 90日処方は、基本的に3カ月に1回の通院時に処方するもので、年間では4回の対面診療ということになる。つまり、「12カ月以内に6回以上の対面診療」という要件を満たせないというわけだ。

 同様に、制度上の課題は精神科領域でも生じていると岸本氏は指摘する。例えば、精神科に通院していた妊婦患者が里帰り出産する際、あるいは通院していたサラリーマンの患者が実家で静養することになった場合などにオンライン診療で継続治療するケースがある。こうした患者は、新設された診療報酬では算定要件外となる。

 「精神科領域では非常に限られた患者が対象になったため、こうした患者のオンライン診療が保険で対応できなくなった。多くの患者が自費診療でオンライン診療を実施しているのが現状だ」と岸本氏は言う。医師と患者双方の声を交えながら、どのような制度が最良か積極的な議論が必要だと訴えた。

在宅医療での活用に関し、データを政策立案サイドに提示

日本遠隔医療協会 特任上席研究員の長谷川高志氏

 地方の医師不足、偏在などにより在宅医療の提供が困難な地域は多い。日本遠隔医療協会 特任上席研究員の長谷川高志氏は、そうした地域でオンライン診療が在宅医療の安定的な提供に役立つことを示すことが重要だと強調した。

 具体的には、「在宅患者の重症度や地域別の在宅医療の困難状況を地図上に示すなど、在宅オンライン診療の必要度を地図上に表現することで、環境整備の必要性を訴えることができる」と長谷川氏は言う。こうした在宅医療提供の安定化に向けたデータを政策立案サイドに提示し、より適切な診療報酬のあり方や施設基準がどうあるべきかの検討材料としていくことの必要性を説いた。

岩手県立大船渡病院 統括副院長の小笠原敏浩氏

 岩手県立大船渡病院 統括副院長の小笠原敏浩氏は、遠隔妊婦管理システムについて紹介した。産婦人科領域で活用されている遠隔医療には、胎児心拍モニタリング伝送システム、救急搬送データライブ送信、先天性心疾患の遠隔診断、遠隔妊婦健診などがあるという。岩手県では「いーはとーぶ」と呼ぶ周産期情報ネットワークが構築されおり、特に最近取り組みを始めたのが妊婦の救急搬送時のデータライブ送信。「搬送用胎児心拍モニター(CTG)を試用した12症例で、予後の悪い妊婦はいなかった」(同氏)とする。


(タイトル部のImage:森田 直希)