先日、社会情報学会の研究会で面白い試みを知りました。瀬戸内海に面した地域の伝統的な食習慣を1つの文化としてとらえ、「瀬戸内海食」として現代に復活させて伝えていこうというものでした。

 瀬戸内海食は、ユネスコの無形文化遺産に登録されていて、世界中から健康食として注目されている地中海食に範を取ったもので、気候風土やそこで食される食材が似ていることから、地中海食と同じように、1つの食文化と呼べるのではないかという考えです。

 地中海食は、イタリア料理やスペイン料理、ギリシャ料理で知られる3カ国に加え、モロッコ、クロアチア、ポルトガル、キプロスが無形文化遺産の登録に参画しています。2010年にユネスコに登録される前から、健康的な食習慣として注目されており、さまざまな調査研究が行われてきました。ナッツやオリーブオイル、野菜、果物、魚などに加えてチーズやヨーグルトなどの発酵食品も多く摂る食習慣の人々が、脂肪が多い食事にもかかわらず心筋梗塞や冠動脈疾患が英国やドイツ、北欧などと比べて、少ないことが知られています。

 瀬戸内海も魚介や果物が豊富で、香川県に属する小豆島はオリーブの産地ですし、オリーブオイルも作られています。素材としては、地中海食と同じような役者がそろっているわけです。ところが、香川県は、“うどん県”として知られてはいますが、それ以外の伝統的な食文化は今一つ知名度がありません。おまけに、うどんを多食するゆえか糖尿病の罹患率が全国平均に比べて高く、最近県をあげて改善に取り組んできました。

 健康食で知られる地中海食と同じような食材を生かして、伝統的な瀬戸内海の食習慣とともに食文化を見直せば、健康増進にも寄与できる可能性がありそうです。瀬戸内海食を現代の生活スタイルや嗜好にマッチしたかたちで普及させようとしているグループを主宰している香川大学大学院地域マネジメント研究科の西村美樹産官学連携研究員に話をうかがいました。

 瀬戸内海食の具体的な提案としてまず取り組んだのが、伝統的に香川地域に伝わる扇形や花形の型を使った押し寿司「押し抜き寿司」を、健康的かつ、現代的にアレンジすることでした。伝統的な押し抜き寿司は鯛や鰆、サバなどを使ったものです。これに対して、西村氏らのグループは、オリーブオイルを活用したり、発酵食品を取り入れたり、さらに、香川発信の健康機能食材である希少糖を含んだシロップを活用するなどして、健康面を意識した新しい押し抜き寿司を提案しています。

押し抜き寿司を現代風にアレンジした「さぬきOSHINUKI寿司」(写真提供:瀬戸内海食ラボ)
押し抜き寿司を現代風にアレンジした「さぬきOSHINUKI寿司」(写真提供:瀬戸内海食ラボ)
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 今後の食文化の担い手と期待する若い女性を意識した“映える”カラフル食材を取り入れて従来の押し抜き寿司にはない工夫を凝らしています。これならば観光客も一度食べてみたいと思うのではないでしょうか。