人工知能(AI)やビッグデータ、自動運転など様々な先端技術を組み合わせて、地域の課題などを解決する「スーパーシティ構想」。交通、教育、インフラ、環境・エネルギーなど、あまたある課題の中で“肝”となるのはへルスケアかもしれない──。そんな思いを抱かせたのが、2021年2月17日の群馬県前橋市の記者会見だった。 

 この構想では、いろんなデータを連携しながらシームレスな交通システムやキャッシュレス決済を推進して、新しいデジタル都市を構築していく。旗振り役は政府で、現在、全国の自治体が3月末の応募締め切りに向けて、詰めの作業を急いでいる。4月以降、スーパーシティに採択された5つほどの地区では、複数の規制が一括して緩和される、いわゆる特区指定を受けられる。他にくらべて自由な経済活動ができる特典を得るというわけだ。 

 前橋市は「スーパーシティ準備検討会」を設けて準備を重ねてきた。推進役のアーキテクトの一人がジンズホールディングスの田中仁社長で、会見では「世界の潮流をみてもデジタルの活用、地域の活性化の2つが重要で、デジタルで新しい市民のライフスタイルを作る動きはとても意義高い」と語り、同じく検討会に参加している、日本通信の福田尚久社長は「一つ危惧があり、それはデジタルがいろんな便利さを提供するため、ヒトがそこに合わせる場面が増えていること。本来はヒトに技術が寄り添うべきで、そんなデジタルの未来都市づくりにワクワクしている」と語った。ジンズは前橋発祥で、福田氏は前橋出身である。

 確かに民間企業からの参加意欲は高い。前橋市が連携事業者を公募したところ、154社から104件もの提案が集まった。とりわけ提案数が多かったのがヘルスケア・医療分野で、30件。前橋市の資料によれば楽天、介護のエムダブルエス日高(高崎市)、日本調剤、東京海上グループなどが申請した。続いて教育分野が19件、環境・エネルギー分野が15件、続いて14件の同数で交通、防犯・防災、市民生活向上が続いた。

 ヘルスケア・医療分野が多い理由を同市に問えば、「『まえばしID』の導入を計画しており、そうした姿勢が安心感を高めることにつながったのかもしれない」。マイナンバーカードにスマートフォンのSIMカードや顔認証を組み合わせて本人確認をする住民IDで、高いセキュリティが期待される。こうした計画がへルスケア・医療分野の提案増を誘引したと見ているわけだ。 

 最近、政府をはじめ自治体などのデジタル化が声高に叫ばれている。実のある効果を出せるかどうか、カギの一つがデータ流通の活性化だろう。プライバシー懸念からこうしたデータ流通は遅々として進んでいない面がある。ただ意外なことに、データ流通を一気に加速する可能性を秘めるのは、もっともプライバシーを気にするヘルスケア分野との指摘もある。 

 ある大学の医学部教授は以前、記者にこう語った。「自らのデータをオープンにすることで多くのヒトの病気が治る。逆に多くのヒトのビッグデータが一人を救う。デジタルでそんな社会を作ることができるのです。ヘルスケアはデータ流通の在り方を変える力があると期待したい」。  

 ヘルスケアはデータ流通を変え、そしてコロナ後の社会も変えていくのだろうか。

(タイトル部のImage:arkgarden -stock.adobe.com)