「ガムをかみ続けて唾液をよく出すことが、新型コロナウイルスの感染予防になると考えているんだが、どう思う?」。2週間前、懇意にしているベテラン開業医の先生からこんな電話がかかってきた。

 その根拠を尋ねると、先生曰く「これまで新型肺炎を発症しているのはほとんど大人でしかも高齢者が多い。逆に子どもの患者は非常に少ない。この理由は分かっていないらしいが、私は唾液量の差ではないかと考察している」

 2月24日に発表された中国の新型コロナウイルス(COVID-19)患者7万例のデータによれば、診断が確定した4万4672例の年齢分布は、80歳以上が3%、30~79歳が87%、20~29歳が8%、10~19歳が1%、9歳未満1%だった(JAMA. Published online February 24, 2020.)。死亡例は1023例(2.3%)で、特に高齢者や心疾患など基礎疾患のある患者の死亡率が高く、70~79歳で8.0%、80歳以上で14.8%。一方、9歳以下の死亡例はゼロだった。

 インフルエンザでは小児患者が多く、しばし流行の原因になるのに対し、新型肺炎では1%台でしかも死亡率ゼロという事実は驚きだ。小さな子どもにふんだんにあって、年を重ねるとともに減少し高齢者では乏しくなる何らかの物質・事象が、COVID-19の感染・発症に大きく関わっていると推測されるが、そのベテラン開業医はそれが「唾液」ではないかというのである。確かに、赤ちゃんのあの涎まみれの口腔と、高齢者の乾ききったそれとの違いは一目瞭然だ。ちなみに、その先生は過去にも色々な病気の治療について、幅広い臨床経験から鋭い洞察をされている(関連記事:日経メディカル、記者の眼)

 唾液の中には、食べ物を消化する酵素のほかにも、口に入ってくるウイルスや細菌などの病原性微生物を殺す免疫成分が含まれているとされる。そこで、「唾液」「免疫」「ウイルス」といったキーワードで文献検索してみたところ、幾つか興味深い総説が見つかった。その中にあった、生体防御における唾液の重要性を端的に示す記述を引用しよう。