唾液中に治療薬のシーズがある?

 「健康を維持するためには、生体が発揮しうる抗原特異的ならびに非特異的防御メカニズム、つまり免疫機構が重要であることは、多くの人の共通した認識であろう。特に異物の侵入地点である口腔での免疫は、全身の健康維持、感染症の予防という観点からも非常に重要であるが、その点に関しての認識は非常に低いのではないだろうか」(妻鹿純一・清野宏、粘膜免疫による防御機構 歯界展望 1996;88:650-7.)

 「リゾチーム、ラクトフェリン、ペルオキシターゼ、アグルチニン、ロダン塩、インヒビンなど唾液に含まれる抗原非特異的防御因子によって、口腔内での殺菌および抗菌効果が発揮されている。さらに生体防御機構の観点から口腔内での免疫システムをみると、全身系および粘膜系の2つのメカニズムが働いている。例えば、全身系の免疫応答を口腔内に反映しているのが歯肉溝液である。つまり、血清由来のIgG抗体が口腔内に流れ込んで免疫防御を発揮している。また、粘膜系免疫は唾液中に含まれている分泌型IgA(S-IgA)という抗体が主体となり、抗原特異的な応答によりウイルスの中和作用、歯面や粘膜面への細菌の付着・定着の阻害など生体防御の重要な機能を果たしている」(同)

 「様々な異物を取り込む口腔内において、唾液中の抗原特異的な分泌型IgAを誘導しておく事は、当組織における感染防御だけでなく、唾液の流れ込む、咽頭粘膜の保護という観点からも重要であると思われる。さらに咀嚼時に唾液中の分泌型IgAが、食物などに混入している病原性微生物の細菌表面上に結合すれば、その病原性を低下させることが出来るかもしれない。さらに分泌型IgAで病原性微生物表層がコーティングされたことにより、その細菌やウイルスが後に咽頭、消化管などの粘膜面に付着できなくなる可能性もある」(廣井隆親・清野宏、粘膜免疫機構としての唾液と唾液腺 口咽科 1996;8:291-301.)

 ちなみに、これら文献著者の清野宏氏は、粘膜免疫学の世界的権威である。

 新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスに比べ病原性は多少強いが、唾液に含まれる様々な防御因子の攻撃には弱いのかもしれない。その中には、新型コロナウイルスに特異的に作用する成分があり、新型肺炎予防・治療薬のシーズが隠れている可能性もある(経鼻インフルエンザワクチンは粘膜表面の分泌型IgA抗体を誘導し感染を阻止する作用がある)。また中国のデータから、喫煙者は非喫煙者に比べて新型肺炎の重症化リスクが高いことが報告されているが、たばこ煙に含まれる毒性物質や活性酸素等が、唾液腺や口腔・気管の粘膜免疫に悪影響を及ぼすことが関係しているかもしれない。

 冒頭の開業医の先生には折り返し電話をかけ、以上のようなことを基に「その可能性は大いにありますね」と伝えておいた。さらに、唾液・唾液腺研究を長年行っている専門家に先ごろインタビューし、新型コロナに限らず健康維持・疾患予防における唾液の重要性や、唾液の量と質の高め方、唾液を使ったスクリーニングの有用性など、大変興味深い話を聞いた。近くBeyond Healthで記事化する予定なので、請うご期待。

(タイトル部のImage:arkgarden -stock.adobe.com)