リラックスするのに適した温泉地でワーケーション。現在の環境と少し距離を置き、お湯に浸かりながらリモートで働きつつ、気持ちのバランスを整えてメンタルヘルスを回復させる。「湯治ケーション」と呼ばれる、温泉療養を一体化した働き方に注目が集まろうとしています。

 温泉やお風呂を活用した療養に詳しく、また産業医として多くの企業でビジネスパーソンの健康を管理してきた東京都市大学の早坂信哉教授によると、この湯治ケーションが企業が比較的手軽にできるメンタルケアの手法として有効な手法になると期待を寄せています。

「企業が義務として行なっているストレスチェックだが、ストレスが高いと判定された人に向け講じられる対策は限られていた」と早坂教授。医師はせめて話を聞いてあげることくらいしかできないし、企業側としてもその人がストレスを抱えないための環境を整えましょうというくらいしかやれることがなく、取れる選択肢が非常に少ないのが現状だそう。

 そうした中で、ストレスを強く感じてはいるが、まだ病気と言えるほどでない従業員への早期メンタルケアの手段として、温泉地で無理なくリモートワークを行いつつ療養してもらう、という湯治ケーションが新たな選択肢となり得るようです。

「きれいな空気と自然がある隔世感のある場所で、地元の人と適度なつながりを感じながら過ごすという「転地療養」は、昔から行われ実際にその効果は認められている。また温泉や風呂にゆっくりつかることのリラックス効果も今や様々な研究で実証済み」だそう。

 それが今、リモートワークが認められつつある新しい時代に突入した事で、働きながら心を癒すという選択肢が取れるようになってきたのです。ちょっと疲れたなと思ったら、1週間ほど温泉地に職場を移して湯に浸かりつつ、少しペースを落として働く。そんなことが一般的になると、サスティナブルな会社勤めができそうです。

 その時に重要なのは、早坂教授によれば「少し現実と離れた風景の場所で、リラックスするのにふさわしい優しい泉質の温泉を選ぶこと」だそうです。

山形県・大蔵村の肘折温泉(写真:谷本夏)

 湯治ケーションの推進を全国に先駆けて行ない、ワーケーション環境の整備をしている山形県・大蔵村にある肘折温泉は、陸の孤島を思わせるカルデラに囲まれた温泉街。冬には2メートルを超える雪が積もり、周囲から音が一切消えるほどの静けさに包まれます。泉質はナトリウムー塩化物・炭酸水素塩泉で、さらには国内では珍しく程よく炭酸ガスを含んでいる源泉もあるようで、早坂教授によると「マイルドなお湯で、体を温めリラックスするには最適の泉質」だそう。

 肘折は1300年も前から地元の人々や修行僧のための湯治場として愛されてきていますが、そこが現代の働く人々を癒す聖地として生まれ変わろうとしています。

(タイトル部のImage:arkgarden -stock.adobe.com)