「ウイルスの顔と性格を知って、正しく恐れる」──。東北医科薬科大医学部感染症学特任教授の賀来満夫氏が先日の記者会見(関連記事)で強調した、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から身を守るための日常生活上の心得の1つだ。

 中国をはじめCOVID-19が広まっている国々の疫学データから分かってきた事実は、感染者の大半は成人であり60歳以上で死亡率が高まる一方、小児での発症や死亡率は非常に少ないこと。死亡例の多くは、心疾患をはじめ基礎疾患を持つ患者や免疫機能の低下した比較的高齢の患者。また国内では、感染者が周囲の人にほとんど感染させておらず、特定の人からのクラスター発生が疑われる事例が複数見られることから、感染経路として密閉・密集空間における飛沫感染やエアロゾルと思われる吸入感染がメインであることも分かってきた。

 さらに最近になって、ウイルスの「顔と性格」に関して興味深い分析結果を、米メリーランド大学の研究グループが報告している1)。COVID-19の発生状況と世界各都市の緯度や平均温度・湿度など気象条件との関連を調べたところ、中国・武漢やイタリア・ミラノなど感染拡大が深刻な都市のほとんどが北緯30〜50度の範囲に位置し、平均気温5〜11℃、比湿3〜6g/kg、絶対湿度4〜7g/m3と低温・低湿度のゾーンに収まっていた。研究グループは「限られた緯度・温度・湿度に沿った地域でのアウトブレイクは、季節性呼吸器ウイルスの挙動と一致する」と結論し、今後夏季に向けて感染が大幅に高くなるゾーンを予測でき、それらゾーンに監視と封じ込めなど対策を集中させることができるとしている。

 一般にウイルス感染症は、温度や湿度など気象の変化に応じて流行が変化することが知られている。例えば、北半球の温帯地域では、インフルエンザは気温が低く湿度が低い冬から春先に流行する。その理由として、小さな実験空間にウイルスを散布して生存率を見たHemmesらの研究が有名である2)。ウイルスは低い温度と低い相対湿度(15〜40%)で生存し、逆に相対湿度50%以上でウイルスは急速に死滅した。従ってインフルエンザは、暖房した室温で相対湿度が低い、ウイルスの活性生存に適した冬から春先に流行するとする。さらに現在では、相対湿度は気温の影響を受けるため、絶対湿度が真にウイルス死亡率と相関するとされている。日本での季節性インフルエンザは、絶対湿度10g/m3以下になると流行が始まるとされている。

 米メリーランド大学のグループの分析によれば、COVID-19もインフルエンザと同様、夏季に向けて湿度が上がる地域では終息に向かうということになる。果たして新型コロナウイルスも、高湿度になると死滅するウイルスなのだろうか。

院内感染対策として湿度管理を

 文献検索すると、新型コロナウイルスそのものではないが、気温と相対湿度が2種類のコロナウイルスの生存に及ぼす影響を調べた論文が見つかった3)。ステンレス鋼上に沈着させた伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV)とマウス肝炎ウイルス(MHV)という2種のコロナウイルスに対して気温4℃、20℃、40℃、相対湿度20%、50%、80%のそれぞれ計9つの組み合わせで生存への影響を見たところ、両方のウイルスは4℃、20℃、40℃の順でより早く不活化され、相対湿度50%で最もウイルスが死滅するスピードが早かった。新型コロナウイルスについても、インフルエンザウイルスと同様、高湿度になると死滅する性質を持つことを示唆する結果といえるのはなかろうか。

 3月に、中国の北京航空航天大学と清華大学の研究グループが、中国100都市でCOVID-19の状況と気温と相対湿度の関係を分析した結果を基に、「高温多湿がCOVID-19の感染を減少させる」と題する論文を発表している4)。温度が1℃、相対湿度が1%上昇するごとに感染が減少することが分かり、「高温多湿がインフルエンザを大幅に減少させるという事実に一致する。これは、北半球の夏と梅雨の到来で、COVID-19の感染を効果的に減らすことができることを示している」と結論づけている。

 ダイヤモンド・プリンセス号をはじめ、COVID-19のアウトブレイクが起きたクルーズ船内も相当の低湿度環境だったことが推察される。「ダイヤモンド・プリンセス号」「乾燥」のワードでネット検索すると、昨年以前のダイヤモンド・プリンセス号の乗船記や乗船する際の注意点などを綴った個人ブログが相当数見つかるが、その多くに「客室内は非常に乾燥するので、乾燥対策はしっかり」といった記述が散見される。

 さらに、「大型客船の空調システム設計についての紹介 Princess Cruises 三菱グランドシリーズ実施例」という文献5)によると、船内の空調システムは一般客船では新鮮空気量(100%)を設計条件とするのに対し、ダイヤモンド・プリンセス号などメガ客船では省エネ対策として新鮮空気を一部取り入れて環気させる空調方式を採用しているという。また、同号のキャビン(客室)の新鮮空気量は30%、室内温湿度の設計条件は冬季で「22℃30〜50%RH(相対湿度)」とあり、乾燥した空気が全客室に繰り返し循環していたことが推測される。このことも、船内アウトブレイクの要因の1つではなかったか。ちなみに、文献1)によれば、大きなアウトブレイクが起き、多数の死亡例が出ているイタリア・ミラノでの今年2月の平均気温は8℃、平均絶対湿度5g/m3とかなり低温低湿度環境だった。

 以上紹介した科学的知見から、密閉・密集空間にさらに乾燥(低湿度)状態が加われば、より感染のリスクが増すことになる。中国の研究グループが言うように、ひょっとして、これからの夏と梅雨の到来で感染リスクが下がることがあるかもしれないが、まずは病院の病室や施設の居室では、院内感染対策として、相対湿度を50%程度に維持するなど、従来の環境設備消毒対策に加えて、湿度コントロールにも力を入れるべきではなかろうか。

[参考文献]

1)Sajadi, Mohammad M. et.al. Temperature, Humidity and Latitude Analysis to Predict Potential Spread and Seasonality for COVID-19 (March 5, 2020). Available at SSRN: http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3550308
2)Hemmes,J.H. et.al. Nature. 1960;188:430-1.
3)Casanova LM. et.al. Appl Environ Microbiol. 2010 ;76:2712-7.
4)Jingyuan Wang. et.al.High Temperature and High Humidity Reduce the Transmission of COVID-19 (March 9, 2020). Available at SSRN: http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3551767
5)小佐古修士 椎山邦昭 日本船舶海洋工学会誌 2008;17:24−6.

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