ある人の紹介で、妊活系サービスに取り組むスタートアップの創業者と知り合った。SNSでの当時のやり取りを振り返ってみたところ、5年前の2015年7月のことだ。

 そのスタートアップは、2015年6月に起業したばかりだったファミワン。創業者の石川(勇介)氏が、構想する妊活サービスの重要性をとても熱く、情熱たっぷりに語っていたことを今でも鮮明に覚えている。

 一方で、筆者は当時、その内容を完全にのみこめていなかった記憶もある。もっとも、筆者が不勉強であったことが理由だ。あるいは男性だったことも一因かもしれない。ともあれ「妊活」という事業テーマにピンと来なかったのが正直なところだ。

 本日、本サイトに掲載したスタートアップ探訪で、同社を取り上げた。詳細はその記事に譲るが、2018年6月に開始したサービスの登録者数は、特に2019年10月以降の最近では前年同月比800%を超えるペースで増加しているという。さらに、先週には約1億5000万円の資金調達の実施を発表。事業投資や人材採用を本格化する構えだ。

 「創業した5年前は、妊活・不妊という言葉ですら一般的ではなかった」。石川氏は当時をそう振り返る。翻って、同社がここにきて大きなステップを踏み始めたのは、こうした状況がガラリと変わってきたからに他ならない。

 先週、「『女性活躍』の裏で、多くの企業が気付いていない重要な事実」という記事を本サイトに掲載した。同記事の一部を引用する。

――厚生労働省の2018年の調査で、(不妊)治療と仕事の両立ができずに離職した女性は23%もいた。さらにNPO法人ファインの試算によると、この不妊退職による経済損失は、1345億円余りといい、その人の採用・教育や後任の新規採用までの費用などを合わせると2083億円余りになるという。

管理職や役員になってもおかしくない世代が、不妊治療を理由に会社を辞めてしまうとすれば、経済損失だけでなく、企業にとっては大きな人財損失である。4人に1人が不妊治療を理由に離職するという事態の背景の一つには、40歳前後から不妊治療に駆け込む人が多いことがある。治療を受けやすくする制度整備だけでなく、子供を持ちたい人が早めに妊活できる機運や環境を後押しすることも、企業が取り組むべき重要なポイントだ――

 実際、ファミワンがここにきて大きな展開を見せ始めている背景には、女性活躍に向けた支援に取り組む大手企業との連携がある。スタートアップ探訪の記事中で取り上げているように、女性車掌が増えてきている小田急電鉄での福利厚生としての導入だけでなく、全日本空輸(ANA)、ソニー、メルカリをはじめ、多くの企業との連携が軌道に乗り始めているという。

 このうちANAでは、2019年9月にファミワンの「プレミアムプラン」を選択型福利厚生制度の利用対象にすることを決めた。その理由について同社に尋ねてみると、次のような返答を得た。「ANAでは、多様な人財が活躍できる組織づくりを成長戦略の一つと捉え、ライフステージが変わったとしてもいきいきと働き続けるための環境整備を積極的に行っています。社員を様々な側面からサポートするための施策の一つとして、妊活・不妊治療に対する社内全体での理解促進と、その当事者に向けた早期啓発・支援の仕組みを構築している中でファミワン様のビジョンに共感いたしました」。

 もっとも、前述の記事「『女性活躍』の裏で、多くの企業が気付いていない重要な事実」のタイトル通り、まだまだ社会全体の中では一握りの動きなのかもしれない。それでも「妊活」は、女性がひとりで向き合うものから、夫婦・カップルで取り組むものに変わり、そして今では企業など周囲が理解・協力するものへと、この5年間で大きく変化しつつあるのは間違いない。

 逆に、5年前と全く変わっていないのは石川氏の熱量だろうか。今回の取材で再確認した。


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