ACE2の発現は喫煙で促進される

 アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は肺や心臓、腎臓、消化管などの組織に発現し、血圧や腎機能、水・電解質のバランスなどを調節するレニン・アンジオテンシン系(RAS)の中で働く酵素として知られている。

 2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際、SARSコロナウイルスの感染経路に対する研究が進み、同ウイルスは肺胞上皮などの細胞膜に存在するACE2に結合することで、細胞内に侵入して自己増殖を果たす機構が突き止められた。そして今年になって、新型コロナウイルスの細胞侵入機構もSARSコロナウイルスと同様に、ACE2への結合を起点とすることが複数の研究で明らかにされたのだ。

 季節性インフルエンザウイルスは、感染部位が主に上気道の上皮細胞であるためウイルス性肺炎を起こさず、インフルエンザに併発する肺炎のほとんどは二次性の細菌性肺炎であるとされる。これに対し、SARSコロナウイルスの感染部位は上気道ではなく、主に肺胞上皮細胞と肺胞マクロファージであることが国立感染症研究所の病理学的研究により明らかになっている3)。従って、新型コロナウイルスについても、肺胞上皮細胞や肺胞マクロファージに発現したACE2を介して肺の組織に侵入し、重篤な肺炎を発症させると考えられる。

 ACE2は口腔粘膜や舌にも発現しており、COVID-19に伴う味覚障害の原因であることが報告されているが4)、先週、喫煙者や慢性閉塞性肺疾患(COPD、喫煙歴が長い人に起こりやすい)患者の肺組織にACE2が多数発現していることを示す結果が欧州呼吸器学会誌に発表された5)

 これまで、喫煙者は非喫煙者に比べて新型コロナ肺炎の重症化リスクが高いことが報告されている。例えば、中国武漢の3次病院の入院症例78症例で悪化した群と改善・安定した群を分け背景因子を比較した研究では、悪化群で喫煙率が有意に高く、喫煙歴があると非喫煙者に比べ14倍肺炎が重症化しやすいことが分かった6)。国内のCOVID-19患者28例の重症化因子を検討した報告でも、重症例ほど喫煙率が高い傾向が見られた7)。つまり、コロナウイルス感染や肺炎の重症化をもたらす機序には、喫煙歴に伴うACE2の高発現が関与している可能性が高い。