図●新型コロナウイルス感染症の年齢階級別陽性者数(出所:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」 2020年4月15日18時時点)

 図は先週、厚生労働省が初めて公表した、国内における新型コロナウイルスの年代別の陽性者数である。中国や韓国など流行が拡大した国々のこれまでの疫学データから、感染者の大半が成人であり小児は少ないとされてきたが、日本でも同様の分布を示すことが明らかになった。

 この図を見ると、20代から50代にかけての陽性者数の多さとは対照的に、20歳未満の陽性者数の少なさがあらためて目を引く。2月24日に報告された、中国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断が確定した4万4672例の年齢分布においても、30〜79歳が87%、20〜29歳が8%であるに対し、10〜19歳が1%、9歳未満が1%と、20歳未満の患者が極めて少なかった1)

 子どもがCOVID-19にかかりにくい理由の1つとして、筆者は3月9日付のEditor's Noteで唾液量の差を挙げたが、成人になると唾液量が極端に減るとは考えにくく、これだけでは図に見られるような、20歳以上と20歳未満との感染者数の大きなギャップは到底説明できそうにない。もしその理由が明確になり、かつ介入可能なものであれば、20歳以上の感染者数を20歳未満並みに抑えることができるのではないか。

 スウェーデン・カロリンスカ大学病院の研究者が、子どもがCOVID-19にかかりにくく感染しても軽症で済む理由として医学誌「Acta Paediatrica」の論説で次の4つの仮説を提示している2)

(1)小児の新型コロナウイルスに対する免疫システムは成人と異なる

(2)小児では、通常の気道や肺の粘膜に存在する他のウイルスとの相互作用により新型コロナウイルスの増殖が抑制される

(3)小児では、新型コロナウイルスのヒト細胞への侵入経路(受容体)であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の発現が少ない

(4)小児では、新型コロナ肺炎の重症期の病態の1つである急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に成人に比べてなりにくい

 それらに加えて、我が国では全国の小中学校、高校などの臨時休校も理由の1つとして挙げられるかもしれない。

 (1)(2)や臨時休校は、0〜9歳の小児ではその影響があるかもしれないが、10代後半では免疫応答システムや行動範囲は成人に近くなっていると考えられ、10代の感染者数が0〜9歳と同程度に少ない理由を説明できない。(4)は感染しても重症化しにくい理由だ。筆者は、未成年者が新型コロナにかかりにくい理由として(3)のACE2関与説に注目する。

ACE2の発現は喫煙で促進される

 アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は肺や心臓、腎臓、消化管などの組織に発現し、血圧や腎機能、水・電解質のバランスなどを調節するレニン・アンジオテンシン系(RAS)の中で働く酵素として知られている。

 2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際、SARSコロナウイルスの感染経路に対する研究が進み、同ウイルスは肺胞上皮などの細胞膜に存在するACE2に結合することで、細胞内に侵入して自己増殖を果たす機構が突き止められた。そして今年になって、新型コロナウイルスの細胞侵入機構もSARSコロナウイルスと同様に、ACE2への結合を起点とすることが複数の研究で明らかにされたのだ。

 季節性インフルエンザウイルスは、感染部位が主に上気道の上皮細胞であるためウイルス性肺炎を起こさず、インフルエンザに併発する肺炎のほとんどは二次性の細菌性肺炎であるとされる。これに対し、SARSコロナウイルスの感染部位は上気道ではなく、主に肺胞上皮細胞と肺胞マクロファージであることが国立感染症研究所の病理学的研究により明らかになっている3)。従って、新型コロナウイルスについても、肺胞上皮細胞や肺胞マクロファージに発現したACE2を介して肺の組織に侵入し、重篤な肺炎を発症させると考えられる。

 ACE2は口腔粘膜や舌にも発現しており、COVID-19に伴う味覚障害の原因であることが報告されているが4)、先週、喫煙者や慢性閉塞性肺疾患(COPD、喫煙歴が長い人に起こりやすい)患者の肺組織にACE2が多数発現していることを示す結果が欧州呼吸器学会誌に発表された5)

 これまで、喫煙者は非喫煙者に比べて新型コロナ肺炎の重症化リスクが高いことが報告されている。例えば、中国武漢の3次病院の入院症例78症例で悪化した群と改善・安定した群を分け背景因子を比較した研究では、悪化群で喫煙率が有意に高く、喫煙歴があると非喫煙者に比べ14倍肺炎が重症化しやすいことが分かった6)。国内のCOVID-19患者28例の重症化因子を検討した報告でも、重症例ほど喫煙率が高い傾向が見られた7)。つまり、コロナウイルス感染や肺炎の重症化をもたらす機序には、喫煙歴に伴うACE2の高発現が関与している可能性が高い。

喫煙と飲酒の8割減を

 もっとも、ACE2はウイルスを呼び込むために肺に存在しているわけではない。肺組織におけるACE2は肺を損傷から守る役割を果たしていることを、秋田大学の今井由美子氏らがNature誌に報告している8)。ACE2を欠損させたARDSモデルマウスでは肺浮腫の増悪や肺胞構造の破壊などが進むが、ACE2の機能を回復させると肺損傷が改善することなどから、ARDSのような重症病態において、ACE2は肺保護因子として機能していると結論づけている。

 喫煙やCOPDでACE2の発現が増加するのは、たばこ煙に含まれるニコチンをはじめとする有害物資による肺損傷の進展から細胞を保護するための、元来生体に備わっているホメオスタシス(生体恒常性)機能だといえる。一方、新型コロナウイルスにとっては、ACE2の発現が自分の体を複製できる絶好の足がかりとなる。そこに結合して、ACE2本来の機能を低下させるとともに細胞内に侵入し、生体の免疫機能を惹起して様々な炎症性物質を生じさせて肺炎を引き起こす極めて邪悪なウイルスというわけだ。

 小児が新型コロナにかかりにくい理由に話を戻す。小児では、たばこ煙をはじめ様々な有害物資に肺が暴露されて損傷を受ける時間が成人に比べてまだ短いため、新型コロナウイルスの細胞への侵入経路であるが肺保護因子でもあるACE2の発現が少ない可能性は十分に考えられる。

 しかも我が国では、未成年者の喫煙と飲酒は法律で禁じられている。10代の感染者数が0〜9歳と同程度に少なく、20歳以上との大きなギャップの理由はこれで説明できるといったら、うがち過ぎであろうか。ちなみに先日、新型コロナウイルス感染の封じ込めに成功したと報じられた台湾は、歩きたばこやポイ捨てに罰金を科す法律も整備され、喫煙率が15%程度にまで下がっている。

 むろん非喫煙者でも感染している人は数多くいるので、受動喫煙の可能性のほか、低湿度環境に伴う気道の乾燥や冷気の吸い込み、過度の呼吸運動など喫煙以外の影響がACE2の発現を高め感染の誘因になっている可能性はある。実は、アルコール摂取も市中肺炎とARDSのリスクを高めることが、複数の観察研究を統合したシステマティックレビューとメタ解析という最高レベルのエビデンスで証明されている9,10)。アルコール摂取が気道の粘液線毛クリアランスを減少させて病原体に対する免疫反応を弱体化させて肺損傷をもたらすことも報告されている11)

 喫煙と飲酒は介入可能な因子であり、がんをはじめ生活習慣病の危険因子でもある。新型コロナウイルスの感染拡大は長期化するとの予測もなされている。外出自粛要請が長引き、運動不足による肥満や糖尿病の悪化、ひいては心血管疾患の発症増加も懸念される。それがRASに悪影響を及ぼし、肺を含めて全身臓器のACE2発現の亢進にもつながるかもしれない。

 「新生活習慣をつくる」──。「ウイルスの顔と性格を知って、正しく恐れる」と並んで、東北医科薬科大医学部感染症学特任教授の賀来満夫氏が先日の記者会見(関連記事)で強調した、COVID-19から身を守るための日常生活上の心得の1つだ。
 
 これは仮説にすぎないといわれれば、それまでだが、「接触の8割減を実現できれば〜」も数理モデルに基づいた仮説である。従来の「3密」回避に加えて、「喫煙と飲酒の8割減を実現できれば、流行を止め、肺炎をはじめ様々な疾患の重症化リスクも下げることができる」を、接触の8割減に続く新型コロナ対策案としてここに提唱したい。


[参考文献]

1)JAMA. Published online February 24, 2020.

2)Acta Paediatrica 25 March 2020 doi: 10.1111/apa.15271

3)Jpn J Infect Dis 2003;56:139-41.

4)Int J Oral Sci 12, 8 (2020). doi.org/10.1038/s41368-020-0074-x

5)European Respiratory Journal 2020; doi10.1183/13993003.00688-2020

6)Chinese Medical Journal: February 28, 2020 doi: 10.1097/CM9.0000000000000775

7)新型コロナウイルス肺炎患者における重症化因子の検討(日本感染症学会)

8)Nature 2005;436:112-6.

9)BMJ Open 2018;8:e022344. doi: 10.1136/bmjopen-2018-022344

10)Chest. 2018;154:58–68.

11)Alcohol. 2007; 41: 293–307.

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