国内製薬最大手の武田薬品工業が、“研究の総本山”ともいわれる湘南研究所を「湘南ヘルスイノベーションパーク」(略称:湘南アイパーク)としてリニューアル、他の製薬企業やバイオベンチャーなどに開放したこと(関連記事)を以前お伝えしましたが、従来の研究開発体制を見直し、大学や起業家などと協業・提携する製薬企業の動きが最近目立っています。

 先月も、中外製薬が富士御殿場研究所と鎌倉研究所を閉鎖し、研究機能を横浜1拠点に集約してAIなどを活用した研究開発を目指すことを公表。ロート製薬は「香り」を科学的に検証し新たな製品開発に生かすオープンイノベーションラボを開設。大正製薬は、スタートアップコミュニティーCrewwとのオープンイノベーションプログラムにより医薬品以外の新ビジネスを創出すると発表しました。

 こうした動きの背景には、ブロックバスターと呼ばれる大型新薬になり得るシーズの枯渇や、診療報酬改定のたびに繰り返される薬価の引き下げ、後発医薬品の使用促進策による医薬品市場の頭打ちなど、製薬業界を取り巻く厳しい状況があります。

 その一方で近年台頭してきたのが、「オープンイノベーション」「エコシステム」とよばれる事業化モデルの概念。1990年代に、米シリコンバレーのIT系スタートアップ企業が他の企業やベンチャーキャピタルなどの支援を受けながら事業を立ち上げ成功させていく状況を説明するのに用いられたのが、その発端とされています。簡単に言うと、自社が開発・保有する知財を時間をかけて製品化するよりも、各企業が得意とする領域の技術やノウハウ、知見をオープンにしてお互い持ち寄って素早く製品化した方がいいという考え方です。
 
 国も「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」(文部科学省)「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」(同)、「産学連携医療イノベーション創出プログラム」(AMED)などを設け、異分野融合・連携型の研究開発の取り組みに年間1~10億円程度の支援を実施しています。

 フィリップス・ジャパン、GEヘルスケア・ジャパンといった大手医療機器メーカーも「パートナー企業とのエコシステムの構築」を掲げ、各地のオープンイノベーション拠点において異業種との協業を積極的に進めています。製薬企業の間では、大正製薬のように、ヘルスケアITベンチャーと組み、アプリやAIを使ったデジタル診断・治療機器の開発に乗り出す「ビヨンド・ザ・ピル」(医薬品の枠を超えて)の動きもますます活発化しそうです。

 確かに、近年市場を席巻しつつある抗体医薬と呼ばれるバイオ医薬品は、アカデミアやバイオベンチャーで発見され、その後製薬企業に移転されたものが少なくありませんが、オープンイノベーション、エコシステムと呼ばれる異分野・異業種の協業・連携の試みが日本で根付き、そして技術の種が社会実装まで持っていけるかどうかは未知数です。筆者が最近取材で訪れた幾つかのオープンイノベーション拠点の建物はどれも真新しく、「コミュケーションラウンジ」「マグネットスペース」などと呼ばれる、異業種の人々の交流・歓談ルームも閑散としており、人々が互いに熱い議論を戦わせている情景はまだ見たことがありません。「リノベーションした元研究所の建物に、複数の異業種企業がテナントとして同居しているだけじゃないか」と揶揄する声も聞こえてきます。

 エコシステムに共存するプレーヤー全員がどのように知識を共有し、コラボレーションしていくかのお手本は国内にはまだないといっていいでしょう。その点では、国内最大規模のエコシステムといえる湘南アイパークは、我が国におけるオープンイノベーション・エコシステムの手本となり得るケースとして今後注目です。国内メーカーの技術の結集によるイノベーションが少子高齢化に伴う様々な社会課題の解決を促すとともに、我が国の製造業の国際競争力を復活させ、企業の技術競争力の強化や事業拡大につながることを願ってやみません。私たちBeyond Healthもメディアとして情報を収集・発信するだけではなく、異業種交流・連携を促進するビジネスプラットフォームとして皆様のお役に立てると考えておりますので、ご期待ください。

(タイトル部のImage:arkgarden -stock.adobe.com)