出生率が低下し、諸外国に例を見ないスピードで高齢化が進行している日本では30年後、1人の若者が1人の高齢者を支えるという「肩車型」社会が訪れ、現行の社会保障制度を維持できなくなることが予想されると以前述べた。が、こうした肩車型社会の到来が年金財政や国民皆保険制度だけでなく、医療のインフラをも揺るがすことに危機感を抱く人はまだ少ない。

 いま関係者が最も危惧しているのが、輸血医療の崩壊だ。外傷時や外科手術時の止血、がん患者などの慢性貧血の治療に欠かせない血小板製剤は、全て献血によって賄われている。献血には年齢制限があり、東京都福祉保健局の推計によれば、献血者の73%は50歳未満である一方、輸血を受ける患者の86%は50歳以上。すなわち、現在の輸血医療は年金財政と同様、若者が高齢者を支えている。日本赤十字社の試算によれば、今後さらに少子高齢化が進行し献血可能な世代が減少することで、2027年には85万人分(全献血者の15%)が供給不能になると予測されている。

 そんな輸血医療の危機に対する救世主として期待されているのが、ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた血小板製剤の開発・量産だ。ノーベル生理学・医学賞受賞者、山中伸弥氏らがヒトiPS細胞の樹立に成功してから10年余り。皮膚や血液由来のヒトiPS細胞を、体を構成する様々な細胞に分化させ、医療に応用する研究開発が急ピッチで進んでいる。

 iPS細胞由来血小板製剤の開発を進めるのは、メガカリオン(本社:京都市下京区、代表取締役社長:三輪玄二郎氏)というスタートアップ企業だ。東大医科学研究所の中内啓光教授、京大iPS細胞研究所の江藤浩之教授らが開発したヒトiPS細胞由来の巨核球(血小板を産生する造血系細胞)を不死化・凍結保存する技術の知財を保有する。ヒトiPS細胞由来の不死化した巨核球前駆細胞マスターセルから、大量かつ安定的に血小板製剤を製造し、国内の献血不足を補うのみならず、主に売血で輸血を賄い感染リスクにさらされている途上国の人々にも供給することを目指している。

 とはいえ、輸血用には非常に大量の血小板が必要。現在ヒトへの応用が進められているiPS細胞由来の網膜色素細胞が約1万、ドパミン再生細胞が約100万の細胞数を使うのに対して、輸血用の血小板には2000億~3000億の細胞数が求められる。さらに継続的に輸血する場合にはその回数分の細胞数が要る。

再生医療と無縁だった異業種も参画

 そこで同社が取った戦略は、これら要素技術を有する日本企業と連携(共同研究、業務委託、資本関係など)、コンソーシアムを形成することで血小板製剤の製法を確立し、事業化を図ること。コンソーシアムに参画する主な事業会社には、大塚製薬、大塚製薬工場、京都製作所、佐竹化学機械工業、日産化学、川澄化学工業、シスメックスといった企業が名を連ねる。

 大塚グループ2社は製法の改良並びに製剤の長期保存のための保存液の開発を、佐竹化学機械工業や日産化学は大量培養による血小板産生と機能・品質の確保を担う。京都製作所や川澄化学工業は血小板の分離・精製・濃縮工程の自動システムの開発を、シスメックスは品質評価・担保の方法の確立とその自動化を、シミックは非臨床および臨床試験の実施支援と薬事対応を担う。特徴的なのは、大塚グループやシスメックス、シミックといった医療分野で実績を持つ企業に加え、京都製作所や佐竹化学機械工業など、これまで再生医療と無縁だった異業種・業界からの参入企業も含まれていることだ。

 このような事例は、国内メーカーの技術の結集がイノベーションを生み、少子高齢化に伴う様々な社会課題の解決を促すとともに、我が国の製造業の国際競争力を復活させ、参加企業の技術競争力の強化や事業の拡大にもつながることを示唆している。実際、ヘルスケア分野では企業、大学、地方自治体、起業家など異分野・異業種が協業・提携し、オープンなプラットフォームを構築することで、イノベーションを起こそうという動きが活発化している。今後、同じような取り組みが増え、深刻な社会課題が解決に向かうことを期待したい。

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