文部科学省の調査で、大学病院において労働実態がありながら給料が払われていない「無給医」が、全国で2000人以上いることが明らかになった問題。調査結果が公表された6月28日、柴山昌彦文科相は記者団に対し、「大変遺憾。支払っていない現状は改めるのが当然だ」と述べたという。また、根本匠厚生労働相は7月2日の閣議後の記者会見で、「賃金不払いは労働基準法違反」とし、「速やかに改善が図られる必要がある」と発言した。

 現状を改めるべきという両大臣の発言は至極ごもっとも。とはいえ、事がそうすんなりと進むとは思えない。無給医問題に関しては、様々な要素が複雑に絡み合っているからだ。

 なぜ無給医が存在するのかと言えば、大学病院の人件費が限られる中、便宜的に無給とされたり、一部しか支払われなかったりするケースがあるため。無給医の多くは、博士号取得を目指す大学院生や若手の医局員で、確かに彼らは大学からの給料をもらっていないか、もらっても微々たるものに過ぎない。

 ただ、だからと言って生活が成り立たないかといえばそうではない。大半の無給医は他の病院でのアルバイトで生計を立てており、実際はそれで1000万円近くの年収を得ている。

 つまるところ、医師はアルバイトをすればそれなりに食べていけるのだ。筆者は、無給医問題がこれまで放置されてきた最大の要因は、実はその点にあるのではないかと感じている。

 無給医で多いのは、大学病院の若手医師が、地方の中小病院で外来診療や当直のバイトをするというもの。当直なら、土曜から日曜の1泊2日、あるいは金曜夜から月曜早朝までの2泊3日をぶっ通しで勤務するケースなどがある。

 バイト代の相場は、外来診療なら1コマ(午前もしくは午後など外来の一つの枠単位)4、5万円で、日当直に関しては1泊2日の場合で20万円程度とされる。バイトを使う病院がそれだけの報酬を支払うのは、医師の人手が足りないことに尽きる。病院は24時間、医師が常駐しなければならない決まり。だが、例えば医師数が限られる中小病院で常勤医師だけに当直をやらせていたらキツくて回らないので、業務を外注しているのだ。

 すると、医師の間ではこんな発想になりやしないかと筆者は考える。

 大学病院では働いても給料が支払われない。片や地方の病院で1泊勤務をすれば20万円がもらえる。そんな風になっているのも、地方の病院には医師がいないから。人手が限られる大変な職場なのでバイト代稼ぎのためには行くけれど、常勤医で働こうとは思えない――。

 その結果、地方病院が敬遠される構造は悪化こそすれ改善されないまま。そして今後、今回の文科省調査結果で、無給医問題に火が付き、もし大学からある程度の報酬が支払われるようになれば、地方の病院はバイトの確保に窮し、バイト代をより一層値上がりさせることにもなるだろう。ならば、こんな高額のバイトがあるのだから、一部はやはり無給医でいいのではないのかという声が出てこないとも限らない。

 医師の少ない地方の病院に、大学病院から無給医がアルバイト医師として派遣され、地域医療を支えている実態は確かにある。だが、どうなのだろう。限られる医療資源の中、果たして地域医療はどこまで守られるべきなのかをそろそろ本気で考える時期に来てはいないか。

 医師の人手不足を無給医で穴埋めするというのはとてもいびつな構造だが、よくよく考えると、そもそも日本の病院数が多すぎやしないかという課題にぶち当たる。病院の統廃合を進めれば、人手不足分を無給医で補う必要性はぐっと減る。

 さりとて病院の統廃合はもちろん一筋縄では行かない。病院側が既得権益を守ろうとするのもあるが、患者・住民側の反発も相当強いためだ。過去に統廃合問題で揺れた地域を見る限り、「おらが町の病院をつぶすな」「この地を離れて医療の充実したところへ引っ越しなどできない」といった声が渦巻くのが常である。

 筆者自身は病院統廃合論者ではあるものの、それは頭での理解でしかなく、年老いた両親が住む地方の病院がもしなくなるとすれば、「いや、やっぱりつぶされては困る」と言い出すかもかもしれず、自信はない。だが、全体を見る必要があると思い直し、おそらく遠隔診療を容易にするテクノロジーの進化などに大いに期待を寄せるところだろう。

 大学病院の無給医問題報道に、「それは給料を払っていないのはおかしいでしょ。国も大学も対応がひどい」で終わらせるのは簡単だ。しかし、医療を受ける側も考えるべき点は多々ある。一人ひとりに一体何ができるのかが問われている。

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