女性が働きやすい環境整備を進めることは健康経営の推進に結び付く――。そんな発想の下、経済産業省は昨年、健康経営銘柄や健康経営優良法人の認定基準に「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」を追加した。これは非常に画期的なことだったと筆者は受け止めている。

 女性の社会進出が進み、日本の全従業員のうち女性割合は約44%(2016年)に上る。だが、従来の健康経営は生活習慣病予防としてメタボリックシンドローム対策など、主に男性が対象となる取り組みが中心であった。少子高齢化によって働き手不足が予測されるなか、女性の活躍は今後ますます期待され、そうである以上、企業サイドに女性の健康支援策の充実を求める仕掛けは極めて重要と言える。

 とはいえ、企業による働く女性の健康支援がこの先、どれだけ普及するかは未知数だ。筆者が考えるに、その最大の理由は、女性の健康支援というと、「なぜ女性だけが対象なのか」との声が上がりやすい点がある。しかも、こうした否定的な見方は、男性社員のみならず女性社員からも出がちであるため、厄介だ。

 企業の働く女性向け支援策としては、時短・在宅勤務や出産育児休暇など、勤務形態を中心としたワークライフバランスの整備は、比較的進みつつある。そのため、自らの会社でそれらが整っていれば「おおむね満足」と感じている人も少なくないだろう。だからこそ、女性の健康支援と言われても、あえてやることなのかと、男女を問わずについ突き放して見てしまう。

 だが、女性が本当に働きやすい職場環境を突き詰めて考えると、「女性特有の疾患に対応できていること」が極めて重要になってくる。現実として、男女によって疾患リスクは明確に異なるからだ。

 先日、花王で全社産業医を務める川島恵美氏の講演を聴く機会があったが、そんな性差による疾患リスクについて、わかりやすく次のように説明していたので紹介したい。

 「20〜60代までの就労世代の疾患リスクを男女別・年齢別に整理すると、男性の場合は年を取るごとに生活習慣に関する病気のリスクが増えていく。一方、女性の場合、多くは20代の時点から月経障害をはじめ『会社を休むほどではない不調』という状態を経験する。これに加え、妊娠・出産という健康上の大きなイベントがあり、婦人科ガンも就労世代に多く起きる。年齢を重ねれば更年期障害の症状も出てくる」

 月経障害をはじめ「会社を休むほどではない不調」という状態は、男性にはなかなか理解しがたいものだろう。だが、2017年に日本産婦人科学会が就労女性における月経随伴症状について調査をしたところ、下腹部痛や腰痛、眠気などといった症状で約77%の人が就業に影響があったと回答していた。

 当然ながら、その労働損失も計り知れない。少し古いデータになるが、経産省では2013年に月経随伴症状に伴う労働損失を4911億円と試算した。

 月経にしろ、更年期にしろ、女性の体には男性とは異なる特有のリズムがある。それは女性ホルモンの働きによるものだ。そんな女性特有の健康問題だが、案外、女性自身もよくわかっていない面がある。不調を感じていても、「耐えられないほどではない」「我慢すればいい」と思って、無理をしてしまう。自分の体のことをあまりに知らないのだ。恥ずかしながら、筆者も女性ホルモンについて理解を深め、自分の体と向き合ってケアすることなどとはかなり縁遠い生活を送ってきた。

 女性特有の健康問題に対して、職場を挙げて理解を深め、女性が働きやすい環境を整備するには、「男性も一緒に考える」ことが重要なのはよく言われる。ただ、女性の体の事情は男性ではどうしても想像すら難しく、理解してもらうには、女性からの情報発信が極めて大切になる。そのためには、まずは女性が自身の体をよく知ること。そして、その後は実際に情報発信していき、男性も巻き込んで職場の環境改善につなげていくことが欠かせない。なお、男性の理解を得る上では、「女性だから大変」という言い方はもちろんタブーである。

 そう考えると、職場での働く女性に対する健康支援実践に向けての道のりは遠い。かといって、手をこまぬいてはいられないだろう。職場の健康支援において最終的に求められるのは「ダイバーシティ」の観点だからだ。あらゆる属性の人々にとっても働きやすい会社にすることがゴールであり、女性の健康支援はあくまでそのための「最初の一歩」にすぎない。だからこそ、できることから始めていく必要がある。


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