先日、オフィスなどを対象とする無償生理用品提供サービスに向けて、"手作り"でIoT機器の開発を進める、わたしの暮らし研究所に取材し記事を執筆する機会がありました(関連記事:なぜ社内に喫煙所はあるのに生理用ナプキンは置かないのか)。同社の代表を務める沢田直美氏は、2017年に開催された日本ロレアルのビューティーハッカソン優勝者という、"メイカー”的な経歴の持ち主でもあります(日経クロステックの関連記事:男性も参加歓迎!ロレアルがアキバでハッカソンする理由)。

わたしの暮らし研究所 代表 沢田直美氏。持っているのは、生理用ナプキンディスペンサー「LAQDA」。3Dプリンターやレーザーカッターを使って加工した部品を使用しており、ユーザーが組み立てることも可能(撮影:加藤 康)

 ハッカソンでは、魔法のコンパクト型の日焼け止め剤のケースを開発したそうです。世間では一般的に"メイク好き"とされることが多い女性ですが、実際には「社会に出るため(他人から見られることを意識して)」メイクをするという女性が少なくなく、社会に出るためだけにメイクしているという女性もいるのが現実です。こうした状況に対して、メイクに対する意識を「コンパクトを開いたら自分の思い描く自分になれるんだ」という前向きなものにして欲しいとの思いから、大人が変身できるコンパクトを目指したと言います。

 具体的には、容器にセンサーを内蔵し開閉を検知することで、塗り直しのタイミングや次回購入のアラートを通知するといった機能を想定していました。この時、日本ロレアルからはセンサーでユーザーの行動を可視化することの重要性を指摘されたそうです。そこから、センサーを使って女性の生活を便利にできるのではと着想。食品ラップやしょうゆなどの調味料などにセンサーを付けて在庫管理したり、家具の扉や引き出しなどにセンサーをつけて使用実績の少ない物を断捨離したり、といったアイデアが次々と湧いてきたと言います。

 こうしたセンサーによる管理対象の1つとして思いついたのが生理用品(生理用ナプキン)でした。月経に関してはアプリでの管理が流行していたものの、アプリを開いて自分で記録するといった手間がかかるうえに、電車内などでは周囲の人に見えてしまうのではと気になり、個人的にはなかなか手を出しにくい。生理用品を収納しておくケースにセンサーを搭載すれば、数回開閉が続いたら生理開始、開閉がなくなったら終了など、自分で記録しなくて日常生活の動きによって月経を管理できるのでは、と思ったそうです。

 さらに、こうした月経管理を生理用品の在庫管理と結びつけるアイデアも湧きました。生理用品は「昼用」「夜用」「多い日用」「普通の日用」など様々な種類があり、快適な月経期間を送るには使い分けが欠かせません。ただし、多様な製品を用意すると便利な半面、各生理用品の使用頻度が下がって買い替えを忘れやすくなり、結果として必要な時に限って必要な生理用品が在庫切れ──ということも生じやすくなります。

 そこで思いついたのが、センサー搭載の箱と組み合わせてその人に合った必要な各種生理用品を詰め合わせて提供するサブスクリプションサービス事業でした。折しも当時所属した会社に公募型ビジネス提案制度があり、応募したところ審査を順調に通過。ところが薬機法が壁となって事業化が難しいことが明らかになり、会社としての検討は終了。容器のプロトタイプ開発が進んでいたこともあり、沢田氏は思い切って自ら「わたしの暮らし研究所」を立ち上げ、活動を進める道を選んだそうです。

 沢田氏が起業までして続けようと思った背景には、「利用者の多くが女性である製品やサービスについても、日本での開発はほとんど男性主体で進んでおり、女性の関わりが薄いということへの歯痒さがある」と言います。当事者ではない男性が作っているケースで、課題の認識が甘いのではと感じることもあるそうです。一方で、最近は「産休・育休中の妻を見て大変だと分かった」といって新たな商品やサービスを生み出す男性が出てきていることにも奮起させられたとのこと。

 日本の女性が新製品や新サービスの開発に携わるケースが少ない原因について、沢田氏は「恐らく女性が我慢し過ぎること、女性の“時間が安すぎること”にあるのではないか」と推測しています。「一般的に、女性は多少の不便や困難があっても“解決すべき課題”とは考えず、それは当然の仕方がないことであると考え、自分の頑張りや時間でどうにか解決しようと思いがちなのでは」との指摘に、思わずうなずいてしまいました。

 片や、男性が女性の課題を見つけている現状について、沢田氏は「男女の差ではなく、“プログラミング教育”を受けているかどうかがカギとなっている」とみています。IT関連の仕事が増える中、いわゆるプログラミング的思考を高等教育や仕事などで身に付けている社会人は少なくありません。「こうした人材であれば、ループ処理や反復処理は人がやるよりも機械にやらせた方が効率がいい、と考える。その発想が新しい製品やサービスにつながっていくのではないか」と話してくれました。確かに、私の周りでもプログラミングに慣れている人ほど、日常の様々な作業をなんらか自動化しようと試みるように感じます。

 主なユーザーが女性であるなら、まずその女性自身が改善は実現可能だと思い、改善を希望する声を上げなければ、新しい製品やサービスは出てこないでしょう。実際、日本のフェムテック業界でも、「自分の体験してきた不便は解消できるのではないか」と多くの女性が商品企画や開発を牽引しています。また、小学校や中学校でそれぞれ2020年度、2021年度からプログラミング教育が必修化されるなど、男女問わず早い段階でプログラミング的思考を習得する機会は増えていくと予想されます。

 広がるフェムテックにより「女性の不便・困難は解消できる」と考えることが一般的になり、実現に向けてプログラミング的思考を駆使して解を求めていく──こうした動きが日本でも広がっていくことを期待しています。

(タイトル部のImage:arkgarden -stock.adobe.com)