20世紀後半から21世紀にかけての疫学研究・臨床研究の最大の功績は、先進諸国の人の死亡原因の最上位を占める、脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患の危険因子を明らかにし、健診と生活指導、早期治療によりその危険因子に介入して致死的イベントの発生を減らすことに成功したことだと思います。

 その最大の危険因子である高血圧に対する降圧療法、高脂血症に対するスタチンなどによる脂質低下療法、糖尿病に対する血糖降下療法はその典型です。また、1990年代後半からそれらに続く新たな心血管危険因子として注目され、介入研究が本格化した「心房細動」という不整脈に対しても、それに伴う脳梗塞を抑制する新薬が次々開発され、その予防法が普及しました。

「がんの大半は生活習慣や環境要因が原因」

 一方、心血管疾患と並んで人の死亡原因の最上位を占める悪性新生物、すなわち「がん」についてはどうでしょう。これまでの膨大な疫学研究はその数々の危険因子・要因についても明らかにしていますが、我が国ではそれらに対する認知が心血管危険因子ほどには浸透しておらず、生活改善等の介入によるイベント発生(がん発生)予防の取り組みも進んでいないと危機感を抱いているのは筆者だけでしょうか。

 さらに、がん研究の最前線では、「過去数十年間に、がんのリスク要因や予防要因に関する疫学研究が盛んになり、エビデンス量が飛躍的に増加した。それに伴い、がんの大半は生活習慣や環境要因が原因となって起こるという概念が定着してきている」1)にもかかわらず、いまだに多くの人が「がんは加齢に伴う遺伝子変異で起こるがその原因は不明で、防ぐには検診による早期発見しかない」といった認識にとどまってはいないでしょうか。

 もちろん、人口の高齢化に伴いがんで亡くなる人が増えており、その主な要因の1つに加齢と遺伝子変異の蓄積があり、遺伝的素因も関与していることは確かです。しかし、同じ年齢であってもがんになる人とならない人がいますし、双子を追跡した研究によると、双子の片方があるがんにかかった場合、もう片方が同じがんにかかる割合は一卵性双生児でも2割以下だそうです2)。従って、がんの原因としては年齢や遺伝的素因以外の要因が考えられ、これまでの研究により、喫煙や飲酒、食事、運動などの生活習慣のほか、感染、放射線、紫外線、水質汚染、薬剤・医療行為、特定の職業関連曝露などの環境要因が分かってきています。

 ただ、それらの各要因が集団全体のがん発症・死亡にどのくらい影響を与えているか(寄与割合)は各国の生活習慣・環境の違いによって大きく異なります。例えば、米国でのがん死亡全体に対する各要因の寄与割合は、喫煙30%、食事・肥満30%、不活発な生活5%、職業5%、がん家族歴5%、感染5%、飲酒3%、社会経済階層3%、環境汚染2%、放射線・紫外線2%、薬剤・医療行為1%などと推計されています1,3)