中外製薬が、社内でのデータサイエンティスト育成に舵を切っている。同社はかねて、創薬や病理解析へのAI(人工知能)やビッグデータの活用を積極的に進めてきた。ただ、社外のデータサイエンティストの協力も仰ぎながら、研究に生かしてきた面もある。AIやデータ活用が会社の生命線と考え、社内育成に注力する。

 この8月末、AI人材育成のスキルアップAI(東京・千代田)の協力を得て同社が用意するディープラーニングの講座を、中外製薬の社員が受講できる体制を整えた。中外製薬は今年4月から、デジタルスキルを社員に身につけてもらうため、「Chugai Digital Academy(CDA)」という育成プログラムを社内で始めている。そのコンテンツの一つとしてスキルアップAIの講座を活用する。6月末には、ビッグデータ分析のALBERT(アルベルト)と製薬業界向けデータサイエンティスト育成プログラムを共同開発している。

 創薬分野におけるAIやビッグデータの活用は、そろそろ分水嶺を迎えるのかもしれない。これまでは必要なデータを蓄積する時期、そしてこれからは蓄積されたデータを本格的に活用する時期という意味である。

 たとえば中外製薬が強みを持つ抗体医薬品の研究開発で、その創薬モデリティ(治療手段)を熟知する研究員や、実験業務が分かる研究員と、データサイエンティストが同じ目的を持って成果を研ぎ澄ませていく必要が出てくる。また、社外の人には開示できないデータもある。だから、少しは手間や時間がかかっても、社内のデジタルスキルを高める戦略を取ることにした。

 ここまで踏み込んだ施策を打つ下地は整っていた。昨年11月、日本ディープラーニング協会が実施したG(ジェネラリスト)検定で、中外製薬が社内で受験者を募ったところ、実に500人を超える社員が受験したという。G検定は、ディープラーニングをビジネスに生かす知識を試験で確認する検定である。

 創薬の現場も分かって、そしてデータサイエンスとAIも操る社員。他社にとっては脅威かもしれないが、患者にとっては、かなり強い味方になってくれそうだ。

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