9月30日付のEditor's Noteでお知らせした、日本高血圧学会(理事長:慶應義塾大学教授の伊藤裕氏)による「第1回Digital Hypertension Conference」が、先週25日(金)に京王プラザホテル(東京都新宿区)で開催されました。

 先述の通り、「高血圧の国民を10年間で700万人減らし、健康寿命を延ばす」を目標に「みらい医療計画」を昨年策定した同学会が、その核となる新しい学術領域として提唱し推進するのが「Digital Hypertension」。当日は、朝から断続的に強い雨が降るあいにくの天候でしたが、収容人員200名ほどの会場はほぼ満席となり、関心の高さがうかがえました。午前9時から午後5時半までの4つのセッションには、アカデミアから製薬・ヘルスケアや電機、情報・通信などの産業界、政府・行政まで多岐の分野にわたる演者が続々と登壇。PHR、IoT、IoB、AI、ビッグデータ、リアルワールドデータ、ウエアラブル機器といった旬なITキーワードが頻回に飛び交い、熱いディスカッションが展開されました。

 そんな幾つものキーワードの中で特に筆者が、未来の高血圧管理のみならず、生活習慣病管理全般、ひいてはプライマリケアの在り方までも一変させる可能性があると感じたのが、PHR(personal health record)です。

 PHRとは、政府の定義によれば、「個人の健康診断結果や服薬履歴等の健康等情報を、電子記録として、本人や家族等が正確に把握するための仕組み」。過去、「どこでもMY病院」「i-Japan戦略2015」といった政府のIT戦略構想の中で、市町村や医療関係者を巻き込んだシステム構築や事業化が検討されてきました。ただ、医療機関からの情報提供や患者の同意取得のハードルが高い上に、国や地方公共団体の補助金に依存して行われるために安定的に運用されるケースはほとんどないのが実情でした。

オムロン ヘルスケアの腕時計型ウエアラブル血圧計「HeartGuide」 米食品医薬品局(FDA)から医療機器として承認され米国で発売。(写真:第42回日本高血圧学会総会展示ブースでBeyond Healthが撮影)

 ところがここに来て、ご存じのようにクラウド環境やモバイル端末が普及し、血圧計など生体情報をモニタリングする医療機器と連動させることが可能になるなど、PHRを社会実装できる環境が急速に整ってきました。それをビジネスチャンスとみて参入する企業も増えています。

 そうしたテクノロジーの発展で、PHRの役割も広がってきています。単に患者本人や家族が、血圧をはじめ生活習慣病に関するデータを把握して行動変容に生かすだけでなく、患者のかかりつけ医がそれらデータを共有することで診察室以外での患者の日ごろの健康状態や症状などを把握し、それを基に次の治療方針を立てられます。海外では、医師にそうしたデータをスマホアプリなどの電子媒体で伝えることをePRO(電子的な患者報告アウトカム)と呼び、それを利用するだけで症状の改善が見られ、ひいてはQOLや生存率も向上することが報告されています(関連記事)

 そもそもこれまでの患者データといわれるものは、主に医療機関を受診した際に医師が患者から聴取した病歴や検査結果に基づくものです。つまり、患者データといっても、医師の解釈を介した間接的な情報や医療機関内という特殊環境での測定結果にすぎないわけです。しかし、受診と受診の間の日常生活において、患者が本当にどのような状態なのかを医師が外来の面接時間内に正確に知ることは簡単ではありませんし、患者がその場で伝えることができる情報も限られます。PHR、ePROで収集される情報はまさに患者自身が報告する日常生活上のリアルな連続データであり、それに基づく生活指導・治療の在り方はこれまで外来での一時的な情報に基づくものとは当然違ってくるでしょう。それが、筆者がプライマリケアを一変させる可能性があるといった所以です。

 実際、今回のカンファレンスでもアカデミア、企業、地方自治体からそれぞれPHRに関する先進事例が報告され、会場の注目を集めていました。Beyond Healthでも今後、今回のカンファレンスで報告された内容を含めて、PHRの最新事例をどんどん取り上げていきますので、ご期待ください。

(タイトル部のImage:arkgarden -stock.adobe.com)