先週のニュースダイジェストで、「3Dプリンターで作った人工血管をヒトへ移植」というトピックをクローズアップしましたが、実は同じ週にもう一つ気になるトピックがありました。それは、「11月14日の世界糖尿病デーにあたり血糖管理の正しい情報発信をする『血糖トレンド委員会』を設立」というリリースで、糖尿病患者および予備軍約400人を対象に同委員会が意識調査を実施したところ、約半数(47.7%)の人が「健康診断のHbA1cが正常なら糖尿病の心配はない」と誤解していることが分かったというのです。

 皆さんの中にも、HbA1c正常なら糖尿病は心配ないと思う人は多いと思います。それが誤解? 東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授の西村理明氏を代表世話人とする血糖トレンド委員会(企画:アボット ジャパン、協賛:3Hクリニカルトライアル)の説明はこうです。「糖尿病はHbA1cの値だけでなく、空腹時などの血糖値を用いて診断されます。一度の健康診断でHbA1cが正常値でも、糖尿病である可能性もあります」

 HbA1cとは、赤血球中のヘモグロビンという色素とグルコースが結合した物質で、血糖が高い状態が続くとその割合が高くなり、検査当日の食事や運動などの影響を受けないことから、過去1〜2カ月の平均的な血糖状態を示す検査値としてよく使われています。しかし、同委員会の説明通り、医師が用いる糖尿病の診断基準では、空腹時や食後の血糖値などの検査値と組み合わせて診断することとしており、HbA1c値だけでは判断しないことになっています。

 加えて近年、持続血糖測定器(continuous glucose monitoring:CGM、flash glucose monitoring:FGM)の登場により、これまで検査時点の「点」でしか把握できなかった血糖値の推移や変動を「線」で記録できるようになっています(図1)。

図1●血糖トレンドとは? (出所:血糖トレンド https://kettotrend.com

 これを使うと、健診で測定したHbA1cが正常な人でも、食後の高血糖や血糖値スパイクと呼ばれる急激な血糖変動が見られることがあり、こうした急激な血糖変動のある人は糖尿病に移行しやすく、心血管疾患のリスクが高いことが知られています。そこで、線の波形で記録される血糖値の変動を「血糖トレンド」と呼んで、新しい血糖管理指標として普及させようというわけです。既に、医学会でもCGMやFGM、あるいは血糖トレンドを用いた研究発表や論文は増えており、今年6月に開かれた米国糖尿病学会学術集会(ADA2019)では、CGMによる血糖管理の指針が新たに発表されました(Diabetes Care. 2019 Jun 8. pii: dci190028. doi: 10.2337/dci19-0028.)。

空腹時血糖値より食後血糖値が先に上がる

 CGMやFGM、血糖トレンドの測定は、糖尿病を発症する前の段階、すなわち未病状態の発見、早期介入・行動変容の観点からも非常に重要です。2型糖尿病の人を遡ると、発病する10年以上前に、筋肉などの末梢組織のグルコース取り込み量が減少する「インスリン抵抗性」が最初に起き、徐々に増大することが近年の研究により分かっています(図2)。初期は、インスリン抵抗性が増大してもインスリン分泌が代償的に高まることで血糖は見かけ上安定していますが、そのうち活性酸素や糖毒性の発生などで膵臓β細胞が障害されインスリン分泌が徐々に低下していき、代償できなくなると食後高血糖が先に現れ、次いで空腹時血糖が上昇し糖尿病を発症します。

図2●2型糖尿病の病態の自然史(出所:日経メディカル2014年3月号、原典:Kendall DM et al.Am J Med 2009;122:537-50.)

 CGMやFGM、血糖トレンドで血糖変動が激しくなる段階は、インスリン抵抗性の増大に対してインスリン分泌の代償機構が限界に達して血糖値の見かけ上の安定が崩れ始めている未病状態と考えられます。この段階で、インスリン抵抗性増大の原因となる肥満や過食、飲酒習慣、筋肉量の低下などを、食生活の行動変容により改善できれば糖尿病への進展を阻止できます。

 CGMやFGM、血糖トレンドを測定する手段としては、低価格の持続血糖測定器具としてFreestyleリブレPro(CGM)とFreestyleリブレ(FGM)が保険適用され、医師の管理下で使用されていますが、未病段階での早期介入の観点からは今後、医療機関に受診せずとも家庭で使える、アプリと簡易測定器やウエアラブル機器などを組み合わせた安価なデバイスの登場が待望されます。これまでBeyond Healthで紹介してきた「指に光」で血糖を測定する器具プッシュボタン式採血器などはその有力候補かと思います。そんなテクノロジーの萌芽をこれからもどんどん見つけて取材していきますので、ご期待ください。

(タイトル部のImage:arkgarden -stock.adobe.com)