明けましておめでとうございます。新年の皮切りとなる今回のEditor’s Note。筆者がピックアップした、2022年のヘルスケア産業を予見する5大キーワード(順不同)を紹介していきます。

技術の進展と並行した議論が不可欠

 第1のキーワードは、がんスクリーニング。2022年は、がんスクリーニング技術の社会実装に向け、様々な議論が活発になる1年となりそうです。

 そもそもがんスクリーニングとは何か。Beyond Healthでは、「生活者の中から、がんに関する検診や医療インフラに行くべき人をふるいわけすること」と定義しています(関連記事:がんスクリーニングとは)。がんの予防には、1次予防(生活習慣の見直しによりがんの原因となる行動を避ける)、2次予防(がん検診による早期発見で早期治療を行う)、3次予防(外科手術後の抗がん剤治療などで再発を予防する)があります。このうち2次予防への橋渡しの役割を担うのが、がんスクリーニングです。

 そのための技術は相次いで登場してきています。例えば、国立がん研究センターなどの研究グループによる、1滴の血液から13種類のがんを早期発見する技術が良く知られています。最近では、名古屋大学発スタートアップのCriafが、尿1滴から卵巣がんと肺がんを検出するスクリーニングサービスを、2022年2月に開始すると発表しました(関連記事:「尿中マイクロRNA」がん早期発見、Craifがサービス開始へ)。

 こうした技術がどんどん利用可能になってくる中、並行して社会全体としての仕組みやコンセンサス形成を進めていくことも重要になります。例えば、早期のスクリーニングによって必要以上に多くの人を精密検査に送り込んでしまい、結果として医療現場の負荷を高めてしまう、いわゆる「過剰診断」をどう考えるか。また、検査で陽性(あるいは、リスク有)と判定された人に対するフォローアップの仕組みの構築も、欠かせない視点です。

 新たな技術であり未成熟な分、様々な議論を深めていかなければなりません。その一つの取り組みとして、Beyond Healthでは2020年9月、有識者を交えた円卓会議「健康人生100年の世界を実現するために『がんスクリーニング』を考える」を開催。がんスクリーニング技術の社会実装に向けて、想定される課題の理解や社会的コンセンサスの構築などを進めていく必要性などについて語り合いました(関連記事:【円卓会議】健康人生100年の世界を実現するために「がんスクリーニング」を考える)。2022年も引き続き、こうした議論を続けていくことが重要だと考えています。

行動変容を促す仕掛けに新たなアイデアを

 第2のキーワードは、ヘルスケアマイスター。「行動変容を促す担い手」になるのは誰か、その議論が2022年にはますます加速しそうです。

 ヘルスケアマイスターとは、未病改善のためのかかりつけ健康アドバイザー、とBeyond Healthでは定義しています。その役割を担う候補の一つとして、政策的な側面からの後押しもある薬剤師に着目し、「Beyond Pharmacy」として未来の薬局・薬剤師の姿を描いてきました(関連記事:さらば“薬局・薬剤師”、いざ「Beyond Pharmacy」)。

 他にも、美容室・美容師をヘルスケアマイスターに位置付けようとする動きがあることも紹介しました。富山の美容専門学校では、美容師の卵たちに「健康」について学んでもらうカリキュラムを導入。髪の毛を分析して栄養状態を調べるサービスを組み合わせることで、より具体的なアドバイスを提供することを想定しているようです(関連記事:富山で始動、「美容室」は地域の健康増進のハブになるか)。

 ここで重要なのは、日常での様々なデータをセンシングして蓄積できる時代になってきた点です。こうしたデータをもとに、いかに行動変容に結び付けられるか。それをつなぐのが、ヘルスケアマイスターの役割です。

 もちろん、必ずしも生身の人である必要はなく、AI(ボット)が担うケースもあるでしょう。ここに、異業種プレーヤーを含めた新たなアイデアを取り込んで行動変容を促す仕掛けが、2022年はますます求められると考えています。

求む、生活空間での“ラストワンマイル”

 第3のキーワードは、ポケットドクター。2022年は、リモートの波が医療・介護にもますます波及する1年になりそうです。

 ポケットドクターとは、生活空間のあらゆる場所が、あたかも医療・介護施設のようになることを指した言葉。筆者は10年以上前の2010年5月の特集記事のタイトルとして大きく取り上げましたが、昨今のコロナ禍を受けて流れが大きく加速しつつあります。

 その象徴が、オンライン診療。元々は初診NG/対象疾患限定などの制約があったところ、2020年4月にコロナ禍における特例としてそれらの条件が解除され、オンライン服薬指導も解禁となりました。2022年には、これらを恒久化する方向で調整が進んでいるところです(関連記事:オンライン診療は「次のステージ」へ)。

 リハビリをどこもでも受けられる、いわゆるオンラインリハビリもポケットドクターの流れの一つです。実際、様々なオンラインリハビリの取り組みが登場してきており、Beyond Healthでも数多く紹介してきました。

 こうしたソリューションの普及に重要だと考えられるのが、特に高齢者が自宅などの生活空間から簡単にアクセスできる環境づくり。例えば2021年に、CATV事業者であるJ:COMがオンライン診療のコンソーシアムを形成したのは、そのためです(関連記事:テレビでオンライン診療、高齢者への切り札になるか)。いわゆる、生活空間での“ラストワンマイル”を担うプレーヤーの役割が、ますます重要になってくると考えています。

“不老長寿”への足音

 第4のキーワードは、老化制御。2022年は、科学的根拠に基づいた研究成果にますます注目が集まる年になりそうです。

 老化制御とは、加齢に伴って起こる臓器や認知などの機能低下を抑え、健康寿命を延ばすことを指します。米Googleが、この分野に取り組むスタートアップ「キャリコ」を設立したことはよく知られていますが、最近になって様々な研究機関からの成果が国内外で発表され始めています。

 その一つとして注目を集めているのが、NMN。ニコチンアミドモノヌクレオチドという、食物成分です。ワシントン大学医学部の研究チームによる、ヒトに対する臨床試験の成果が米科学誌「Science」に掲載され、大きな話題となりました(関連記事:今井眞一郎ワシントン大教授が語る「NMN、抗老化効果の真実」)。

 他にも、注目を集めるキーワードとして「老化細胞」があります。老化を加速させ、様々な病気の発症に影響を与えていることが分かってきており、この細胞を除去する薬剤の研究成果なども出てきています(関連記事:老化細胞(ゾンビ細胞)の謎が分かった)。

 こうした研究成果が今後、社会に実装されるようになると、健康寿命が延び、自立度が高まる時代に向かいます。それに即した社会の仕組みや在り方とは――老化制御の研究の進展と並行して、それを議論していくことも重要になると考えています。

人生100年時代を「幸せ」に過ごせる社会へ

 第5のキーワードは、ウェルビーイング。病気になっても社会の中でいかに「幸せ」に過ごせるか。2022年はこうした考えがますます重要視される1年になるでしょう。

 ウェルビーイングは、ご存じの通り、個人が幸福な状態にあること。身体的な側面だけではなく、精神的、社会的にも満たされている状態を指します。ただここで筆者が注目したいのは、たとえ身体的な健康が損なわれたとしても、精神的・社会的に満たされている状況を作り出すことの重要性です。

 例えば、がんは2人に1人が罹患する国民病ですが、治療技術の進化や高齢化などに伴って、がん罹患後の生活がますます長くなる時代になってきています。そこでいかに社会と共生し、「幸せ」を作り出せるか。Beyond Healthでも、そんな特集を展開しました(関連記事:【ピックアップ特集】がん罹患後の“幸せ”を探れ)。

 さらにこのテーマについては、有識者を交えたBeyond Health円卓会議を2021年11月に実施しました(関連記事:【円卓会議】健康で幸福な人生100年時代の実現へ「がんと行動変容」を考える)。この会議の議論でキーワードになったのが、「総力戦」という言葉だと筆者はとらえています。がん患者本人や家族、あるいはそこに携わる医療従事者だけではなく、企業の経営者、サービスの提供者、社会を構成する様々な立場の人が、まさに総力戦で、がんという病を正しく理解し、それを特別視せずに共生していける社会を作り上げていくことの重要性です。

 もちろん、がんに限った話ではなく、その他の病気も同様です。ひいては、病気になる前を含めた人生100年時代をいかに「幸せ」に過ごせる社会を作っていくか。それには、異業種・異分野のあらゆるプレーヤーの知恵を結集していくことが欠かせません。ヘルスケアを追いかけるメディアとして、2022年以降、極めて重要になるテーマだと考えています。

筆者が選んだ、2022年のヘルスケア産業を予見する5大キーワード(背景の図:Goss Vitalij -stock.adobe.com)
筆者が選んだ、2022年のヘルスケア産業を予見する5大キーワード(背景の図:Goss Vitalij -stock.adobe.com)
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