1月の3連休を前に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が首都圏の1都3県に出され、1週間足らずで大阪や愛知など7つの府県も新たに対象地域に加わった。緊急事態宣言の発出は昨年4月に引き続き2度目。新型コロナ「第3波」の猛威は容赦なく、先の見えない状況に世間はどこか殺伐さを増している印象がある。

 本格的な冬を迎えて加速度的に進んだコロナ感染者の急増とあいまって、昨年12月中ごろからは盛んに「医療崩壊」が叫ばれる事態に陥った。日本医師会(日医)はメディアを前に医療崩壊の危機を警告し続け、会長の中川俊男氏が用いる表現は時を経るごとにどんどん強烈になった。

 ・「日本の医療制度は風前の灯火(ともしび)」(昨年12月21日、医療関係9団体で「医療緊急事態」の共同宣言時)

 ・「現実はすでに医療崩壊が起きている」(1月6日の定例会見)

 そして、緊急事態宣言の対象地域拡大が決定した今月13日の会見時にはこんな発言が飛び出した。

 ・「このまま感染者数の増加が続くと、医療崩壊から医療壊滅になる恐れがある」

 医療崩壊と医療壊滅の違いは、前者が必要な適切な医療を受けられないのに対し、後者が医療自体を受けられない事態を指すという。「壊滅」の二文字を持ち出したインパクトは十分で、個人的にはそのワードセンスに驚かされた。

 日医の中川会長はもともと歯に衣を着せぬ発言が持ち味で、最近では政府に対しても臆せず苦言を呈する場面が目立つ。そんな強い日医会長の発言をメディアはこぞって取り上げるがゆえ、医療が危機的状況にあることはもはや世間に広く知られるところとなった。

数多くの課題を前に厚労省は?

 さて、そこから何が起きているのか。目下、過熱しているのは、医療崩壊の“元凶”探しと言っていいだろう。

 増え続ける感染者に最前線で対応する医療従事者の負担は増しており、瀬戸際の状態。日医はそれを声高に訴えるものの、冬場に感染者が急増するのは最初から分かり切っていたことで、それなのになぜ対策を打たなかったのかと疑問視する声が方々から噴出しているのだ。

 その際、必ず「枕詞」がつく。「日本は人口当たりの病床数が先進国の中でずば抜けて多い。一方で、欧米に比べて日本の感染者、死者は桁違いで少ない。それでどうして医療崩壊が起きるのか」と。

 怒りの矛先が向いているのは、もっぱら政府や厚生労働省、都道府県、そして日医だ。

 厚労省のまとめでは、昨年11月末時点で全国約8000病院のうち、新型コロナ患者の受け入れ可能病院は2割強の約1700病院。都道府県がコロナ患者用ベッドとして確保した病床は最大計約2万8千床で、一般病床と感染症病床を合わせた約90万床のわずか3%に過ぎない。感染者の受け入れは公立・公的病院に集中し、民間病院では人材不足や経営負担などの影響もあって受け入れがなかなか進まない。

 メディアを通じてそんな状況が白日の下にさらされると、「民間病院が協力しないから悪い」説が徐々にまかり通るようになった。そこから、「行政が強権発動して、コロナ対応をしていない医療機関に強制的に患者を受け入れさせるようにすべき。その法整備してこなかったのは政府や厚労省の怠慢」「都道府県も黙ってその状況を見ているだけなのは問題」「日医に至っては、医療体制の立て直しを図るため、全国の会員に呼びかけてコロナへの協力体制を敷くべきところ、医療崩壊の危機をあおるだけで何もしていない」――などの見方が渦巻くようになった。怒りや不信感の大合唱といったところだ。

 こうした医療崩壊の“元凶”探しの過熱ぶりを筆者は冷ややかに見ている。誰が悪いわけでもないからというのではない。むしろその逆で、いろんなところに問題は大ありで、複合要因が複雑に絡み合っているから、最も悪い元凶を探しても意味はないと感じているのだ。

 数多くの課題が立ちはだかるのは、厚労省も承知の上。そもそも現状打破の方策は地域の実情などに応じてまちまちで、これさえやれば大丈夫というものはない。したがって、考えられる施策を幅広に繰り出すしかなく、昨年12月25日には「感染拡大に伴う入院患者増加に対応するための医療提供体制パッケージ」を決定し、一般医療を確保しつつ新型コロナ感染患者への医療体制を拡充するため、「入院受入医療機関への緊急支援」「確保病床の最大限の活用」など6項目をまとめた。ここで詳述はしないが、その中身は多岐にわたっている。

 それをどう生かすかは、自治体や医療現場の腕の見せどころ。日医傘下の都道府県医師会や郡市区医師会がイニシアティブを取って進めてもいい内容だ。

日医の隠れた功績?

 他方、やはり法改正の必要もあるとみた政府により、感染症法改正に向けた動きが出てきた。加藤勝信官房長官は1月14日の記者会見で「感染症法の規定を強めることを検討している」と発言。コロナ対応の病床確保に向けて都道府県知事の権限強化を図る方向になるとみられる。

 法改正がすんなりいくかは不透明だが、医療崩壊の危機がこれだけ世間の注目を浴びた以上、医療提供体制の効率化は確実に前進するのは間違いない。「病床や病院の集約化と役割分担に手をつけやすくなったのは確かで、それもこれも日医が医療崩壊の問題をあおってくれたため」とは、さる厚労官僚の弁。ピリリと皮肉交じりだが、この先、医療提供体制の良い方向への変化を期待したい。


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