国内で新型コロナウイルスによる感染が初めて確認されてから1カ月余りが経過した。感染拡大は今なお続き、現時点で終息の見通しは立っていない。

 感染の拡大を食い止めようと、政府は2月26日、今後2週間はスポーツや文化に関する大規模イベントについて中止や延期などの対応を取るよう要請。さらに一夜明けた翌27日には、なんと全国の小中高校と特別支援学校について3月2日から春休みまでの臨時休校を要請するに至った。

 ここまで来ると未曽有の危機的状況であることを嫌でも感じさせられる。この先、社会的不安は増すばかり。加えて、既に噴き出している政府の落ち度を攻め立てる声はますます大きくなる可能性がある。

水際対策での封じ込めが不可能なのは当初から分かっていた?

 世間の怒りの矛先を真正面に受けるのは厚生労働省だ。集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の対応に苦慮し、水際対策ではウイルスの国内侵入を阻止できなかった。また、新型コロナを巡り、同省は「37.5℃以上の発熱が4日以上続く人は専用センターに電話相談を」と受診目安を示したものの、電話が全然つながらない、つながっても検査を断られるなどのケースが相次いでいる。その結果、「国民を危険にさらす厚労省」「役に立たない厚労省」と揶揄される始末だ。かなり厳しい目が注がれている。

 とはいえ、厚労省を一方的に責めるのは酷だ。そもそも新型コロナは未知のウイルスで、詳しいことはまだ何も分かっていない。有効性が証明されたワクチンも治療薬も存在しない。ウイルス検査の感度は低く、陽性の人を正しく陽性と判定できる確率は50%程度しかないとされる。だから水際対策に力を入れても、漏れはどうしても生じ得るし、もともと年末年始や春節の休みを利用して中国から日本には多くの旅行客が既に訪れていたのだから、100%の封じ込めは最初から不可能であったと言っていい。そもそも水際対策に100%阻止効果を期待するのは非現実的で、その狙いは国内での流行のピークをできるだけ遅く、小さくすることにあることは専門家の間での常識だ。

 けれど、多くのメディアは分かりやすい「侵入阻止」や「封じ込め」という部分を強調して報道した。結果、世間はそれをうのみにして、過度な期待を抱くに至ったのである。

強烈なバッシングにさらされてきた歴史がそうさせた?

 一方で、確かに厚労省の対応が後手に回った点も否めない。かえって不安をあおると考えたのか、隣国で起きている状況の詳しい説明や、水際対策の真の狙いや個人個人の感染防御策、感染した場合の症状や対応策などに対する積極的な啓発、分かりやすい説明を尽くしてきたとはいえない。そんな情報不足のまま、期待を裏切られた格好となった国民は不安に駆られたからこそ、専用センターに電話が殺到してしまったことになる。

 ただ、汚名返上とばかりに、厚労省は、日々対応に奮闘中だ。メディアには一切公開されていないが、現在は省を挙げての部局横断の特命チームが約100人体制で組織され、体育館ほどの広さがある同省講堂で、基本的に24時間対応で業務に当たっている。100人は仕事の中身に応じて「広報班」「対策班」「薬品確保班」「クルーズ班」「技術総括班」など10班ほどに分かれているという。特筆すべきは、その特命チームには、厚労省から他の機関に出向中の人たちも含まれている点。人手が足らないため、「厚労省参与」の肩書などで急きょ呼び戻しをかけて臨時的に働いてもらっているのだ。まさに総力戦と言っていい。

 それでも国民の不信感を募らせている情報不足が解消する気配はない。というのも、かみくだいた解説を加えることを厚労省は極端に嫌う。分かりやすくしようと思うと、どうしても正確性が甘くなるほか、分かりやすくしたら、変に突っ込まれたり、反論されたりする機会が増えることにもなりかねない。そんなリスクを取ることには非常に敏感で、できる限り責任を負わないようにする習性が染みついてしまっているのだ。他の官公庁と異なり、数々の薬害事件、幹部官僚や中央社会保険医療協議会委員による汚職事件、社会保障の改革を巡って強烈なバッシングにさらされてきたり政争の具にされてきた過去がそうさせたのかもしれない。

 「悪気はなく無意識のうちに、吟味して厳選された限られた情報しか出さないのが厚労省の専売特許」――。かつて同省幹部を務め、今は組織を離れたさる人物もこう口にしていた。とはいえ、いつまでもこのままの習性を抜け出せずにいるのはあまりにももったいない。厚労省講堂での職員挙げての24時間対応が功を奏し、感染が終息に向かい汚名返上なるか、固唾を呑んで見守りたい。  

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