打って出た経産省、過去の経験から学んだ厚労省

 これまで医療や介護などの社会保障分野は厚労省が政策を立案し、財務省が支出をコントロールしてきた。そこに経産省は参入してきたことになる。予防・健康づくりが財政再建の「切り札」になるとして。

 だが、そんな経産省の動きは波紋を呼んだ。もともと予防で医療費や介護費を抑制できるとの説には異論が強い。健康寿命が増加しても、その後の「不健康な期間」が短縮できるという医学的な根拠はない。それゆえ、人の一生を考えると、予防は医療費や介護費がかかるタイミングを先送りしているだけにすぎず、長期的にはむしろ長生きすることで費用を増加させる可能性があるというのが医療経済学者の主流の見方だからだ。例えば、喫煙者が禁煙することによって、長期的には医療費増大に結びつくことは医療経済学の常識だ。

 これら専門家から経産省の主張へ寄せられる強い反発。それを冷ややかに見ていたのが、厚労省だった。

 実は、厚労省も「医療費の負担を軽減させるためにも健康寿命の延伸が重要」との考えを打ち出していた時期がある。

 小泉政権下の2006年、厚労省はメタボ健診の普及などの生活習慣病対策によって、「2025年度には医療費を2兆円削減する」との数値目標を掲げた。当時の経済財政諮問会議の民間議員からは、医療費の膨張を確実に抑えるため、医療費になかば強制的にキャップをはめる総額管理制度の導入を迫られており、それを回避するための苦肉の策だった。とはいえ、実際「糖尿病などを減らせば何とかなる」ということはなく、検証した対象者の実績では、対策の費用が抑制額を上回った。

 その頃も、予防が医療費を抑制するという話にはエビデンス(証拠)がないとの批判は既に専門家の間から出ていた。厚労省は甘んじて受け止めるしかなかった。以後、予防での医療費抑制効果に関する同省の主張はトーンダウンする。再度転じたのは、第2次安倍内閣の誕生が契機。ただ、あくまで予防の積極推進派である首相の意向に沿ってという側面が強く、予防による医療費抑制効果を厚労省が主導する形で、大々的にアピールするというわけではなかった。

 そんな厚労省を尻目に、ここへ来て、健康寿命増進という政府の旗印のもと、大胆な行動力を見せつけたのが経産省ということになる。だが、その目立つ行動で、同省は専門家らの批判を一手に浴びる。厚労省がかつて受けた「予防で医療費は減らない」との批判だ。

 厚労省にしてみればそれは既に体験済みのこと。しかも、今回矢面に立っているのは経産省で、特段火の粉は降りかかってきそうにない。そこで、厚労省はじっくり構えた。そう筆者は踏んでいる。