予防・健康づくりは個人のQOL向上に不可欠

 何をしたのか。冒頭の話題に戻ろう。厚労省は3月末に、健康寿命を男女とも3歳以上延ばし、75歳以上とする目標を定めたが、それは同省が設けた有識者会議の提言を踏まえてのこと。この有識者会議の開催は「絶対にやるべきこと」として、担当の同省健康局は相当力を入れていたという。

 会議体として用意したのは、健康寿命の定義を明確化した上で、延伸の目標を定める研究会(「健康寿命のあり方に関する有識者研究会」)と、健康寿命の延伸がもたらす効果の影響を見る研究班(「健康寿命の延伸の効果に係る研究班」)の二つ。健康寿命をめぐっては、個々の生活習慣から社会・経済の環境まで、多くの要因が複雑に影響し、政策との対応関係が不明確であるため、政策指標には向かないとの意見がある。それゆえ健康寿命の指標や評価を明確化しようというのが前者の研究会だ。一方で、予防や健康づくりなどの取り組みによって医療費・介護費への効果は果たして実際にどの程度なのか見極めようというのが後者の研究班になる。

 評価・指標のあり方も効果のほどもよくわかっていないからこそ、専門家からは批判が寄せられ、予防による医療費削減の真偽論がうずまいてしまっている。二つの有識者会議はそうした課題解決のためのものであって、その議論を厚労省は昨年12月から今年3月にかけてじっくり行ってきたのだ。

 では実際、報告書には何が書かれているのか。あり方研究会では、現行指標である「健康上の問題で日常生活が制限されない期間」というのは妥当だが、補完的な指標として、平均自立期間(要介護2以上とならない期間)の活用を提案。効果に係る研究班では、予防・健康づくりの取り組みが医療費や介護費にどれだけの影響を及ぼすかについては現時点で定量的な評価・推計を行うことは容易でなく、データに基づく検証を重ねる必要性があるものの、仮に医療費や介護費低減の効果がなかったとしても個々のQOLの向上という極めて大きな価値をもたらすものであることを再確認した旨、明記された。

 「仮に医療費や介護費低減の効果がなかったとしても個々のQOLの向上という極めて大きな価値をもたらす」──。個人的には、この一文が入った意義はとても大きいと感じている。

 予防医療で医療費・介護費を抑制できるかについては両説あり。けれど、抑制効果がなかったとしても、個々のQOLの向上に寄与するのだから取り組むべき。この一文はそう言っていることになる。

 予防医療を実施するなら、今のところ新たな財源の確保が必要だ。とはいえ、財務省がそれを用意するのかどうか。厳しい財政事情の中、もし財源を確保するなら、代わりに他の医療・介護予算を削るということも当然選択肢には入ってくるだろう。

 政府は経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」を6月にまとめる予定。そこで来年度の予算配分の方針がある程度見えてくる。一体、予防や健康づくりの予算がどれだけ確保されることになるのか。健康・医療分野でイノベーションを起こしたい人にとっては目が離せない情報だろう。詳細が分かり次第、本コラムでお伝えしたい。

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