急転直下と言っていいだろう。新型コロナウイルスワクチン接種の打ち手として薬剤師が検討対象になった。

 政府が目標とするワクチン「1日100万回接種」の実現に向け、打ち手の確保が課題になる中、河野太郎規制改革相は5月18日の閣議後の記者会見で「薬剤師も次の検討対象にはなる」と発言。翌19日には、加藤勝信官房長官も会見で「薬剤師を含め、あらゆる選択肢を排除しないという観点で、厚生労働省で検討が逐次なされている」と述べた。

 4月22日の参院厚生労働委員会では、厚労省の迫井正深医政局長が「薬剤師については、現行法上認められていないワクチン接種のための注射を行っていただく考えはない」と答弁していたところ。それが翻ったわけだ。官邸の強い意向を受けてということになる。

 ワクチンなどの予防接種は医科の医療行為に当たり、医師法ならびに保健師助産師看護師法により、医師は自ら実施でき、看護師は医師の指示のもとで実施することが認められている。現行法上はその2職種に限られるが、新型コロナウイルスのワクチンをめぐっては、接種に携わる医療従事者が不足していることを背景に、厚労省は先月末、歯科医師による接種を特例として認めた。厳密に言えば、歯科医師は法律上、ワクチン注射をできないが、(1)歯科医師の協力なしでは集団接種が困難、(2)歯科医師が筋肉注射を経験しているか、必要な研修を受けている、(3)被接種者が同意している──という条件を満たせば、「違法性が阻却(そきゃく)され得る」と整理したのだ。

 薬剤師もワクチン接種の打ち手として認める場合、歯科医師同様、違法性が阻却され得る、つまり、その行為が正当化されるだけの事情が存在する必要がある。だがそのハードルは相当高い。

 歯科医師の場合、歯科の医療行為にかかわる注射は法律上、認められている。今回の新型コロナワクチンは筋肉内注射(筋注)だが、歯科医師の場合、口腔外科や歯科麻酔領域で筋注を打つケースがあり、卒前の歯学教育ではその手技はもとより、アナフィラキシーショックが起きた場合の初期対応なども学んでいる。

 片や、薬剤師の業務は現行法上、「調剤」とされていて、医療行為に該当するものは原則認められていない。したがって、注射の経験はなく、卒前の薬学教育でも一部シミュレータを相手に行う実習がある程度。アナフィラキシーショックなどに対応できる救急患者の診察や処置を実践的に学ぶ機会もごく限られる。

 そんな状況であるがゆえ、薬剤師によるワクチン接種が違法性を阻却できるほど正当性があると認められるのはかなり無理筋な話ではある。