経産省が健康経営を目指す真意は?

 一方、健康経営をめぐってはマイナスの見方も存在する。会社にとっては「投資対効果が見えにくい」、社員にとっては「個人の健康管理について会社からとやかく言われたくない」「一人ひとりの労働生産性を上げて企業の業績アップにつなげたいだけのやり方に協力したくない」というのがその主だったところだ。筆者はこうした見方はもしかしたら、経産省のアピールが誤解を招いたことによるものではないかと考えている。

 実際、健康経営の実践企業は大企業中心で、中小企業の取り組みはまだ鈍いのも事実だ。背景は不明だが、人事・労務担当者が健康経営の必要性を訴えても、経営陣や社員が導入に否定的だったり消極的だったりして、結局手付かずにいる、あるいは実践してみたけれど、継続できずに終わってしまったということも多いだろう。

 経産省のこれまでの健康経営に関する資料を見る限り、省として目指すゴールは、企業業績が上がり経済が活性化するというのが最前面に打ち出されていた印象が強い。日本で活動する企業を指導して産業育成を担うのが経産省の役割なので、それは当然のこととはいえ、「健康経営で業績アップ」と唱えられても、その効果は確かなものなのか、業績がアップしてもそこで働く人にとって何のメリットがあるのかといった疑問がどうしてもつきまとう。

 筆者自身は、健康経営の導入拡大を願ってやまない一人である。一企業に身を置く者として、会社が従業員の健康に配慮して、働きやすくかつ働きがいのある職場となっていれば、同じ働くでもワクワクして幸福感を覚えるからとの単純な思いからだ。自社の業績アップは二の次である。

 折しも5月29日に開幕した、企業の人事・組織戦略・人材関連サービスのための専門イベント「ヒューマンキャピタル2019」(主催:日本経済新聞社、日経BP)のテーマ展の一つ「健康経営EXPO」で、経産省商務・サービスグループヘルスケア産業課長の西川和見氏による、「生涯現役社会の実現に向けて」と題する基調講演を聞く機会があった。

「Human Capital 2019」で講演する西川氏。(写真:稲垣 純也)

 経産省にとっての健康経営推進は、経済の活性化が目的で、健康経営に取り組めば、実際に会社の業績や企業価値の向上につながる──。こうした趣旨の“いつもの”話を聞かされるのだと筆者は思っていた。ところが、違った。

 「皆さんがやっていることを決して過少評価しないでください」──。西川氏は、聴衆を前にこう力強く訴えた。

 正確に言うと、上記の話はしたものの、個人の幸福度にも非常に力点を置いていた。このフレーズは、65歳時点で健康である人はその後も健康に過ごせる割合が高いというグラフを示しながらの発言だ。「元気な高齢者を増やすには、65歳までの現役世代のうちに健康に投資することが有効で、企業の役割は大きい」。だから企業の人事・労務担当者はしっかり健康経営に取り組んでほしいし、それが次の社会づくりに貢献するのだから、自分たちのやっていることを過少に評価しないでくれと訴えたのだ。

 そして、こうも続けた。「社員が幸せになって、社会も幸せになる。全体で日本人の幸福度を上げるのが健康経営」と。

 企業も個人もハッピーに──。それが経産省が目指す健康経営の本質であることがよく分かった。実際、健康経営度調査はこれまで企業が健康づくりに向けた対策をどれだけ行っているのかを聞くのがメインだったが、今後、調査項目を一部見直し、従業員の幸福度が分かるような指標も盛り込んでいくという。どんな中身となるのか、ぜひ注目したい。