またぞろ飛び出した薬局・薬剤師バッシング。国の社会保障関係予算の編成に向け、例年、財務省や関係審議会が春ごろから始めるが、今回は政府もその動きにある意味、「加担」した。6月21日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2019(骨太の方針)」には、保険薬局の報酬である調剤報酬について、適正化する旨を明記したのだ。実際の書きぶりはこうだ。

 「地域におけるかかりつけ機能に応じた適切な評価や、対物業務から対人業務への構造的な転換の推進などを2020 年度診療報酬改定に向け検討する。その際、調剤料などの技術料は当該技術料の意義を検証しつつ、適正な評価に向けて検討する」(骨太方針2019より抜粋)。

 診療報酬や調剤報酬に関して、国が「適正に評価する」や「適正化する」と表現したら、それは報酬の引き下げを意味する。骨太内で、「調剤料」という具体的な点数項目まで明示して報酬減を進める旨がうたわれたのは初めてのこと。ちなみに、今回、病医院の報酬に当たる診療報酬医科本体部分への明確な言及はなかった。つまり、薬局の報酬のみがやり玉に挙がったわけだ。

薬局の比較対象はガソリンスタンド

 骨太2019で調剤報酬への書きぶりが厳しくなった背景には、とにかく公的支出を抑制したい財務省の作戦勝ちの面があったとも言える。骨太の決定に先立ち、財務省は薬局・薬剤師に対して厳しい見方が醸成されるような各種資料を周到に準備し、関係審議会で披露していた。

 例えば4月23日の財政制度等審議会(財政審)財政制度分科会では、日本の薬剤師数はOECD(経済協力開発機構)諸国で最も多く、OECD平均の倍であること、また薬局には開局制限がないため、数がどんどん増え続けていることなどを問題視した資料を示した(図1)。

図1●薬剤師数の国際比較と薬局数の推移(出所:財政制度等審議会財政制度分科会 資料[2019年4月23日])

 このうち薬局数の推移のグラフを見て、筆者は仰天した。既に飽和状態ともされる歯科医院も「コンビニの数より多い」と言われることがよくあるが、財務省が薬局の比較対象に挙げたのは、コンビニのほかに、郵便局と給油所(ガソリンスタンド)。ガソリンスタンドは減少の一途をたどっているが、それもそうだろう。エコカーの普及や、若者の車離れ・高齢者の免許返納、ガソリンスタンド経営者の高齢化などが起きているためというのは、容易に想像がつく。

 片や薬局に関しては、高齢化の進行で外来患者が増加する中、処方箋発行枚数も増えているので、業務量は全体として膨らむ一方だ。にもかかわらず、ガソリンスタンドはこれだけ減っているのに、薬局はこんなに増えているのはけしからんと言わんばかりのグラフを示すのはかなり意図的だし、そもそも薬局をガソリンスタンドと比べること自体に筆者は違和感を覚える。


薬学教育にまで牙をむいた財務省

 ともあれ、財務省が厳しい目を向けるのは調剤医療費だ。薬局が受け取る薬剤師への技術料と薬代を足し合わせた調剤医療費は現在、年間8兆円近くに上り、医療費の2割程度を占める。

 実は、薬剤師数の増加により、薬局に従事する薬剤師⼀⼈当たりの処方箋枚数は減少している。財務省の分析によると、2005年を1とした場合、2017年は0.85と15%減。ずっと右肩下がりの状況だ。しかし、その間、薬局薬剤師の一人当たり技術料は維持されたままで、財務省はそれを調剤報酬の引き上げによるものと捉えている。薬局薬剤師に高い技術料が支払われているから調剤医療費の伸びに歯止めがかからない。ならば調剤報酬を大胆に引き下げるべきというのが同省の主張だ。

 さらに、財務省は薬学教育にまで牙をむいた。5月16日に行われた財政審歳出改革部会の初会合では、高等教育にかかる経済的負担軽減について議論。その中で、財務省は、6年制薬学部の卒業率や薬剤師合格率を例示し、基本的な教育の質を保証できていない大学があるとした上で、こうした大学は経済負担軽減の対象外とすることを徹底すべきと注文を付けたのだ。

 同部会は10月の消費税率引き上げに伴い、2020年度から予定される大学などの高等教育にかかる経済負担の軽減策について検討する場。消費税対応という名目ではあるが、財務省にとっては所管外である薬学教育の成果にあからさまに「ダメ出し」をしたのは、極めて異例と言える。具体的には、2012年度に6年制薬学部に入学した学生の2018年度の状況を調べ、6年間で国家試験に合格した学生の割合が大学によって19%から100%まで大きな差があったことをグラフで示し、6年制薬学教育を問題視した。

 確かに、以前から6年制薬学教育の問題点は指摘されてきた。薬剤師養成課程は2006年度に4年から6年に延長。その動きに合わせて、薬科大学・薬学部の新設ラッシュが起きた。2002年度には8110人だった薬科大学・薬学部の入学定員数は、特に私立大学において急増し、2008年度には1万3494人に達した。その後、私立大学で定員の見直しが行われた結果、微減して、2018年度は1万3040人となっている。薬科大学・薬学部数は、2002年度は46校だったが、今は74校。さらに、現在も薬学部の新設計画が複数公表されている。

 薬科大学・薬学部の新設ラッシュは、学力低下の問題を引き起こした。国公立大学や一部の有名私立大学を除き、定員割れが常態化するようになり、地方には定員充足率が4割の大学すら存在する。定員を満たしている大学の中にも、ほとんど無試験に近い状態で学生を集めているところがあり、偏差値が30台の薬学部もあるほどだ。学生のレベル低下に伴い、世間には留年生や薬剤師の国家試験に合格できない“国試浪人”があふれ、私大に限れば、6年で卒業できるのは全体の6割程度にすぎない。そして大学間の教育格差が顕著だから、財務省にも痛いところを突かれたのである。


ここ数年来、薬局をめぐる状況は一変

 話は変わるが、筆者は20数年前の記者駆け出しのころは、専ら薬局・薬剤師の取材をメインに行っていた。親戚縁者に薬局関係者がいるわけではなく、まったく知らない世界のため、当初は右も左も分からぬまま、あちこち駆けずり回っていた。日本薬剤師会(日薬)の定例会見にも顔を出していたが、そこでは毎度、日薬の専務理事が、医師が出した処方箋をもって同じ敷地・建物にない薬局で薬剤師が調剤する、いわゆる「医薬分業」の普及率(医薬分業率)を発表するところからスタートするのが常だった。前月実績を示し、どれだけ普及が進んだのかを報告するのだ。

 厚生省(当時)が37のモデル国立病院に対して完全分業(院外処方箋受取率70%以上)を指示したのが1997年。筆者が日薬を取材するようになったのはちょうどその頃で、それ以前の分業率は3割に満たなかった。ところが、このモデル事業を機に医薬分業は急速に進展し、2003年に初めて全国の医薬分業率が50%を超えた。この間、上昇し続ける医薬分業率を報告する日薬専務理事の表情はいつも喜色満面だったものだ。

 そして、医薬分業が進むにつれ、薬学教育改革話も持ち上がる。医療技術が高度化していることも踏まえ、臨床に強く、高い資質を持つ薬剤師を養成するために、薬学教育を6年制にする案が浮上し、前述の通り、2006年度に実現した。

 薬学教育6年制は日薬の悲願でもあった。医師、歯科医師と並ぶ養成教育年限にこだわりがあったのだ。見事それを手中に収めた当時の日薬はかなり勢いづいていた。

 しかしここ数年来、状況は一変した。日薬にとって冷たい風が吹きすさぶばかりである。

 医薬分業率は現在、7割を超える。だが、これまで政策面で支援されてきた医薬分業を行政が後押ししない方針へと転換した。同じ薬を受け取るにしても『院内処方』よりも、病院外にある薬局向けに『院外処方』された薬の方が、患者が支払う額が高額になっているが、厚労省はその価格差を縮小。それどころか、患者の利便性を考慮し、2016年10月には病院の「敷地内薬局」を解禁したのだ。

 薬局の薬剤師が医療機関から完全に独立し、医師の処方ミスや過剰投薬を指摘しやすくするのが医薬分業の本旨。ただ、その実態は、医師が出した処方箋をもとに単に薬を調剤して渡すことに終始する薬局が多い。肝心の薬局薬剤師は、薬学教育が6年制になったにもかかわらず、相変わらず医師に物言えぬまま。それなら、患者にしてみれば、わざわざ病院を出て薬をもらいにいくのは面倒だし、お金も余計にかかるのでメリットはない。国も財政事情を踏まえれば、膨らみ続ける調剤医療費に歯止めをかけたいところであり、もはや医薬分業を積極的に進める必要はないと判断したと言える。

 英国や米国では一定の条件の下で、薬剤師が処方権を持ち、インフルエンザなどの予防接種を行うことも認められている。日本でも、医薬分業が急速に進展し、薬学教育が6年制になれば、薬局薬剤師の業務内容はおのずとそうした英米の薬剤師の果たす役割に似通ってくることも十分考えられたが、それは遠い夢の話である。

 ここで一つ裏話を披露すると、厚労省にいる医師免許を持った医系技官には、医薬分業否定論者が少なくない。実際、今は同省を離れたが、かつて要職についていた元幹部が、次のような内容を真顔で語るのを筆者は何度となく聞いている。

 「医師は処方する際に、患者にどんな薬を出すのか説明しているのだから、薬局の薬剤師が加えて患者に話す必要はない。そもそも薬剤師の臨床教育は不十分で、現在、医師の働き方改革の一環として、看護師や薬剤師に医師業務の一部を移管しようとする動きが進むが、薬剤師にはとてもではないが任せられない」──。薬剤師は完全に見くびられてしまっている。

 二十数年前はイケイケどんどんだった日薬は今、何を思い、そしてこれからどうするのか。手をこまぬいていられないのだけは確かだろう。

(タイトル部のImage:kichigin19-stock.adobe.com)