経済産業省路線ここに極まれり、と言うべきか──。政府は9月17日、社会保障制度改革の基本方針を議論する「全世代型社会保障検討会議」のメンバーを発表した。その顔ぶれを見ての印象だ。

 9月11日に第4次安倍晋三再改造内閣が発足。首相は同日の記者会見で「最大の挑戦は急速に進む少子高齢化への対応だ」とした上で、「誰もが安心できる社会保障制度への改革を進めていく」と力を込めて述べた。目指す改革の方向性は、これまで高齢者重視だった社会保障の仕組みを、現役世代へのサポートや子育て支援を充実させて全世代型に転換するというもの。その協議の場が上記の検討会議となる。

 構成メンバーは表1の通り。安倍首相が議長を務め、麻生太郎副総理兼財務相や加藤勝信厚生労働相ら閣僚7人のほか、中西宏明経団連会長、新浪剛史サントリーホールディングス社長ら9人が有識者として参加する。民間の9人はいずれも既存の政府会議のメンバーだ。

表1●全世代型社会保障検討会議の構成員
    議長:安倍晋三(内閣総理大臣)
    議長代理:西村康稔(経済再生担当大臣 兼 全世代型社会保障改革担当大臣)
    構成員:
    麻生太郎(副総理 兼 財務大臣)
    菅義偉(内閣官房長官)
    高市早苗(総務大臣)
    加藤勝信(厚生労働大臣)
    菅原一秀(経済産業大臣)
    遠藤久夫(国立社会保障・人口問題研究所所長、【社会保障審議会】)
    扇百合([株]日本総合研究所理事長、【未来投資会議】)
    鎌田耕一(東洋大学名誉教授、【労働政策審議会】)
    櫻田謙悟(SOMPOホールディングス[株]グループCEO代表取締役社長 社長執行役員、【未来投資会議】)
    清家篤(日本私立学校振興・共済事業団理事長、【社会保障制度改革推進会議】)
    中西宏明([株]日立製作所 取締役会長 兼 執行役、【経済財政諮問会議、未来投資会議】)
    新浪剛史(サントリーホールディングス[株]代表取締役社長、【経済財政諮問会議】)
    増田寛也(東京大学公共政策大学院客員教授、【社会保障制度改革推進会議、社会保障審議会】)
    柳川範之(東京大学大学院経済学研究科教授、【経済財政諮問会議】)
    ※【 】内は有識者が所属する会議

 初会合は本日9月20日に開き、年内に中間報告、来年夏までに最終報告を取りまとめる方針。会議では、年金、医療、介護をはじめ、高齢者雇用や働き方改革など、幅広いテーマが議論される見通しとなっている。

 この検討会議メンバーを見て、経産省色がなぜ強いのか。まず9人の有識者のうち、政府の未来投資会議の所属議員が3人と3分の1を占める点が挙げられる。経済財政諮問会議の所属議員も3人で同数だが、両会議を比べた場合、今やすっかり未来投資会議の方が各種政策の取りまとめで重みを増している。


人選にうかがえる安倍政権の厚労省冷遇ぶり

 実際、昨年末に政府がまとめた消費税増税対策や社会保障政策などの重要政策の骨格づくりは未来投資会議が主導。それまで司令塔だった経済財政諮問会議に代わって首相官邸の意向を反映する場となった。その舞台回しを務めるのは経産省だ。

 また、検討会議の仕切り役を担う西村康稔経済再生担当相兼全世代型社会保障改革担当相は元通産官僚。そのせいか、「社会保障の充実には経済成長が第一」という成長戦略論者で、経済成長すれば社会保障にも余裕が出る、だからこそ社会保障の充実のためには成長が必要で、潜在成長率を引き上げていくことの重要性を説く。

 現在、安倍首相の意向もあって、ヘルスケア分野は政府の成長戦略の重要な柱の一つとして市場や雇用の創出が見込まれる分野と位置づけられている。予防・健康管理が重点化されており、その産業振興を担うのも経産省。予防・健康管理を徹底すれば医療費の抑制につながり、公的保険制度も維持できる。そのためヘルスケア産業の振興が欠かせないというのが同省のロジックだ。

 そんな経産省の発想を、厚生労働省内では「株式会社の医療参入や混合診療の解禁につながり公的保険制度を壊しかねない」と苦々しく受け止め、否定的にとらえる向きが多い。ところが、昨年6月に驚きの人事が起きて以降、経産省の主張に表立って意を唱える幹部はいなくなった。その人事とは、安倍政権が「医療の産業化」にまい進することになった仕掛け人ともされる、経産省の江崎禎英・政策統括調整官が厚労省医政局の幹部ポストを兼任したこと。当時の加藤勝信厚労相に「厚労省に化学反応を起こすことができる人物」と見込まれての任命だった。その後、加藤氏は自民党の政調会長の座に就くが、今回の内閣改造で厚労相として再登板を果たしたところ。加藤厚労相も経産省寄りの発想の持ち主なのだから、経産カラーはおのずと強くなる。

 今回の検討会議の民間議員で、医療保険制度や医療提供体制を熟知して、それらの見直しにより医療現場にどれだけの影響が出ることになるかを詳しく語れるのは、恐らく遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所長のみ。厚労相の諮問機関である社会保障審議会のメンバーだが、社保審から選出されたのは遠藤氏だけで、安倍政権の厚労省冷遇ぶりがうかがえる。


負担増を伴う抜本的な改革は行われるか

 では実際に全世代型社会保障検討会議の行方はどうなるのか。医療・介護分野に関しては基本的に予防・健康管理重視で行くのは間違いないが、気になるのは少子高齢化で社会保障費が膨らむ中、負担増を伴う抜本的な改革が行われるか否かだろう。検討会議では75歳以上の人が医療を利用したときの窓口負担や介護の利用者負担を、原則1割から2割にする案が議論の俎上に載る見込み。ただ、特に医療費の窓口負担1割から2割への変更は患者の減少に伴う医業収益の悪化で、日本医師会が強く反発するのは必至だ。それでも改革に踏み切るのかどうか。

 筆者は恐らく、何らかの形での窓口負担増はあり得るのではと踏んでいる。というのも、検討会議の議論は当面は年金・介護を中心に進み、医療を取り上げるのは来春以降で、その結論が出るのは夏の最終報告を取りまとめるぎりぎりのタイミングになるとみられるからだ。

 負担増に反発必至の日本医師会の会長選挙は来年6月下旬に行われる。今のところ既に4期目に入っている現職の横倉義武会長が再度立候補する可能性が高まっている。仮にその会長選の前に高齢者の窓口負担増が決まれば、それを許したということで横倉会長は糾弾され、再登板はままならない。そんな横倉会長と安倍首相は懇意の仲であり、横倉会長には社会保障改革の受け入れる部分は受け入れる懐の深さがあるのも事実。従って、引き続き会長職にとどまってほしいと首相が思うのも当然で、となれば少なくとも会長選の前には顔をつぶす負担増には踏み切れないが、選挙が終わってしまえば、また2年の日医・横倉体制が続くわけで、負担増カードを切りやすい。

 実際、そんな展開になるのか、しっかりウオッチしていきたい。

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