ハードルが高い保険給付

 とはいえ、日歯がいくら口腔健康管理の充実・徹底を望んでも、肝心の国民がその必要性を感じなかったり、必要性を感じていても費用負担面から実際に管理してもらうまでには至らなかったりするケースは少なくないだろう。

 口腔健康管理は基本的に「予防」の範疇に入る。健康な状態に行われる、病気への罹患を未然に防ぐ予防は、公的医療保険の適用外で自由診療となるため、費用が高額になりやすい。仮に、予防である口腔健康管理が医療保険の適用となれば、普及に弾みがつくのは間違いない。

 そうした事情に加え、欧州には予防歯科に保険を適用している国があることなどから、日本でも歯科の予防推進のために医療保険の適用を拡大すべきという声は以前から根強い。しかし今に至るまで歯科に限らず予防・健康づくりに関する項目は医療保険の適用外として整理されている。

 理由はいたってシンプルだ。日本の医療保険制度の特徴は、勤労者の業務外の疾病や負傷などの稼得能力の喪失に対して保険給付を行うことを基本とし、保険で給付される保険事故を具体的に列挙する形をとった点にあるからだ。このあたりは歯科ビジョンにも詳述されているが、「保険事故が起きた場合の保険給付ということになるため、すべての対象者に行われるサービスや、個人の責任によるもの、病気と言えないものは保険給付の対象には含まれない」とされる。

 ただし、厚生労働省によると、この考え方による給付だけでは保障が不十分になることから、例えば疾病とは言えない正常分娩には定額の出産育児一時金が、予防に係るサービスについては保健事業が、それぞれ制度的に位置づけられ、逐次充実が図られてきたという。

 健康な状態に行われる口腔内のチェックやメンテナンスへの保険給付を望むなら、今の制度上は、診療報酬上の評価が付く何らかの疾患の存在が不可欠ということになる。実は日歯では日本歯科医学会とともに、2015年時点で「生活習慣性歯周病」「口腔機能低下症」「口腔機能発達不全症」「口腔バイオフィルム感染症」の四つを新たに保険病名として採用することを厚労省に訴えてきた。すると、その後、2018年度診療報酬改定において、口腔機能低下症および口腔機能発達不全症に対する管理料が新設されるなどして、口腔健康管理に一部保険が認められるに至った。

 その成功体験を基に、今後は生活習慣性歯周病と口腔バイオフィルム感染症についても保険病名として採用されることを日歯は目指している。