人材不足が深刻な介護業界。昨年度の有効求人倍率は全職業平均が1.46倍なのに対して、介護関係職種は3.95倍に上った。今後も人口の高齢化に伴い要介護者が増えていき、さらに多くの介護人材が必要になる。厚生労働省の推計では、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、245万人の介護職員が必要だが、約34万人が不足するとされる。

 こうした状況を前に、厚労省は目下、介護人材対策に余念がない。表1の通り、「ターゲットごと横串の戦略的アプローチ」として、様々な取り組みを複合的に進めている。

表1●福祉人材確保に向けた厚生労働省の取り組み
    ~ターゲットごと横串の戦略的アプローチ~
    (1)介護職員の処遇改善(他産業と遜色ない水準へ)
    (2)多様な人材の確保・育成(潜在的人材の掘り起こし)
      ・将来の中核人材となる中高生へのアピール
      ・離職した介護人材の復職支援
      ・定年後の元気高齢者(アクティブシニア)へのアプローチ
    (3)生産性の向上(新技術への対応)
    (4)メディアによる積極的情報発信(魅力の向上)
    (5)外国人材の受け入れ

 今後一層の増加が見込まれる介護需要を満たすためには、多様な人材に働いてもらう必要がある。そのための手段の一つとして厚労省が力を入れているのが、「介護職のイメージアップ」。一般に、介護職には「きつい・汚い・給料が安い」といった3Kのイメージが付きまとう。少し前には、教科書にまで「介護は重労働で低賃金」と記載されたほどだ。そんなネガティブなイメージを同省は何とか払しょくしようと躍起になっている。

 実際、2018年度からは予算を確保して介護職のイメージアップ事業を展開。これは、セミナーやイベントを通じて、あるいはSNSなどの情報発信手段を用いて、介護の仕事の魅力を広く伝え、介護は実は高齢者の「夢」をかなえる、やりがいのある仕事といったイメージへの刷新を図るというもの。実施主体としては民間事業者を想定しており、公募で選定する。

「東京ガールズコレクション2019」でも介護の魅力発信

 この事業予算は2018年度が2.3億円。それが今年度は6.8億円にまで増えた。ほぼ3倍増になったのは、介護の魅力発信を、(1)若年層(2)子育てを終えた層(3)アクティブシニア層──の3つのターゲット別に行い、かつ介護事業者に対しても人材育成などに関する意識改革を促すこととしたためだ(図1)。

図1●2019年度「介護のしごと魅力発信等事業」の概要(出所:厚生労働省資料)

 今年度、この事業を受託したのは5つの企業、団体。例えば、体験型・参加型イベント実施事業(公募額約1.6億円)については、フジサンケイグループの株式会社サンケイビルテクノが受託した。介護の仕事は「大変そう」というイメージがあるが、介護の仕事の内容や介護を必要とする高齢者への援助の方法は多種多様で、一般の人からすると意外と知らないことだらけ。そこで介護や福祉について学べるプロジェクトを立ち上げ、イベント体験などを通して介護・福祉の“いま”を正しく知り、“これから”をみんなで「明るく・前向きに・自分ごと」として考えるためのプランを打ち出した。

 具体的には、そうした明るく前向きな介護の仕事の魅力を、若い世代から幅広い年齢層に伝えるため、BSフジでこの秋から新番組「にっぽんの要 ~わかる・かわる介護・福祉」をスタート。俳優の要潤さんと、介護福祉士の資格を持つモデルの上条百里奈さんが登場し、介護福祉の世界に飛び込んだ学生たちを通して最新の介護福祉事情を伝えるという内容だ。11月10日に第1回が放映され、以後月1ペースで全5回の放送が予定される。初回と第2回には、ものまね界の新星・りんごちゃんがゲスト出演している。

BSフジ『にっぽんの要 ~わかる・かわる介護・福祉~』(提供:株式会社サンケイビルテクノ)

 この番組開始に先立ち、9月の「東京ガールズコレクション2019 AUTUMN/WINTER」にも要さんや上条さんがステージに上がり、介護・福祉の魅力を若い観客に向けて発信した。今後も様々なイベントを実施するほか、介護の仕事の魅力を周知するための特設サイトも開設して情報の拡散を狙う。

介護職の離職要因のトップを占めるのは?

 厚労省はこの「介護のしごと魅力発信等事業」を来年度も継続する方向で、2020年度の概算要求では今年度予算からさらに3億円ほど上積みして、8.9億円を計上した。相当な力の入れようであることがうかがえる。

 ここまで予算をつぎ込むなら、当然、効果の検証も必要だろう。厚労省は「事業をやりっ放しで終わらせることは決してない」(社会・援護局福祉基盤課福祉人材確保対策室)と明言するが、その言葉通りとなるかは、注意深く見ておくことが欠かせない。

 介護の魅力を強力発信して、イメージを刷新する。そのコンセプト自体を筆者は否定しないし、そもそも介護現場へのネガティブなレッテル貼りは早急になくなればいいと心の底から思っている。

 ただ、「介護はいいとこ、一度はおいで」とも呼ぶべきキャンペーンを熱心に進めるのはいいが、肝心の介護現場自体が本気になって働きやすい職場づくりに取り組んでいなければ、全ては無駄に終わってしまう可能性が十分ある。どんなに美辞麗句を並べても、職場を見られた瞬間に見抜かれてしまうものだからだ。

 よく誤解されがちだが、介護職の離職要因のトップを占めるのは「賃金」(収入の少なさ)ではない。公益財団法人介護労働安定センターの『平成29年度 介護労働実態調査』によれば、介護関係の仕事を辞めた理由で最も多かったものは「職場の人間関係に問題があったため」で20.0%、次いで「結婚・出産・妊娠・育児のため」が18.3%、「職場の理念や運営のあり方に不満があったため」が17.8%の順。「収入が少なかったため」は15.0%で6番目だった。多くの人は人間関係と職場の運営体制に不満や悩みを抱えている。

 どうしてそんな事態になってしまっているのか。理由は様々だ。例えば人間関係で言えば、介護現場には老若男女を問わず、いろいろな背景を持った人が集まっている。年下の上司もいれば、年上の部下もいる。また、持っている資格により、待遇などが違うほか、キャリアによって担当する仕事に違いが出てくる。そんなことから不公平感が生まれたり、ねたみやそねみを引き起こしやすい。

 とはいえ、そうした問題点を改善することは決して不可能ではない。派閥があれば解体する。各部署に職員の悩みや相談に応じられれるリーダーを置く。各人の業務の割り出しを行って、役割に応じて負荷を均等化する。実際、そんな取り組み行って、長く働きたいと感じられる職場にして、人材不足とは無縁の介護事業者も少なからず存在する。

 厚労省の介護の魅力発信事業が奏功して介護業界に人が集まっても、定着しなければ人手不足の解消はなし。その意味で、介護現場が果たすべき役割はあまりに大きい。

(タイトル部のImage:kichigin19-stock.adobe.com)