75歳以上の医療費、2割負担へ──。ここ数日来、多くのメディアがそんな見出しの記事を掲載している。政府は、2022年度からの制度見直しを視野に入れているという。

 この報道に対し、筆者は少々うんざりした思いでいる。新制度スタートまでにどうせまたすったもんだのドタバタ劇が繰り広げられることが想定されるからだ。

政府の「全世代型社会保障検討会議」も支持

 公的医療保険制度では現役世代の自己負担割合は3割。高齢者については、現役並みの所得者を除いて70~74歳は原則2割、75 歳以上は原則1割となっている(現役並みの所得者は3割)。75歳以上の窓口負担を原則2割へと引き上げるプランは、政府が11月26日に開催した「全世代型社会保障検討会議」(議長:安倍晋三首相、以下、検討会議)で、麻生太郎財務相をはじめ、経済界が中心の民間議員の大半が支持。それ故、政府は負担増の方向で既に調整に入ったとみられ、報道につながったわけだ

 そして、今後の見どころとして、検討会議が12月中にまとめる中間報告に、この75歳以上の医療費の負担増の話が明記されるかどうかが取り沙汰されている。そもそも、検討会議は全世代型社会保障への改革を看板政策に掲げる安倍政権が、官邸主導で制度改革論議を進めるための組織体として今年9月に立ち上げたもの。論点のテーマとしては大きく(1)年金(2)労働(3)医療(4)予防・介護──の四つが挙がっている。年内に中間報告を公表後、来年6月までに最終報告を取りまとめ、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2020」に重点施策を反映させた上で、関連法案を来年以降の通常国会に提出する段取りを描く。

 検討会議では当初、年金や労働などの課題に先に取り組み、医療は来年から本格的に議論する予定だった。医療費の負担増につながる議論は、将来不安を抱える高齢者の反発が必至で、かつ日本医師会をはじめとした医療関係団体や公明党内に反対意見が根強く、コンセンサスの構築に時間を要するからだ。

 だが、2022年以降、団塊の世代が75歳になり始め、医療費の急増が見込まれる中、負担増の議論は待ったなしとの意見が大勢を占めるようになり、改革の道筋をつけるためにも、中間報告に今後の方向性を盛り込むべきとなった。

 ただ、実際にその書きっぷりがどうなるかは不透明だ。

受診時定額負担制度の導入の行方は?

 検討会議では医療制度を巡り、75歳以上の窓口負担引き上げ以外にも、患者が医療機関を外来で受診した際に窓口負担に一定額を上乗せする受診時定額負担制度の導入や、市販薬で代替できる処方薬を保険の対象に含めるかどうかなどの論点が出されている。

 このうち、受診時定額負担の導入は財務省や経済界が主導するも、日本医師会は断固反対の立場。改正健保法の附則に明記された、自己負担は最大3割という原則に反するからだ。日医の横倉義武会長は11月27日の定例記者会見で「妥協の余地がない」と明言。一方で、75歳以上の自己負担を原則1割から2割への引き上げる案については、「低所得者の方に十分配慮しながら、国民が納得できるよう十分な議論を尽くしていくべき」と、柔軟姿勢を見せた。

政府が11月26日に開催した「全世代型社会保障検討会議」を受けて記者会見する日医の横倉義武会長(写真:Beyond Health)

 となれば、年末の検討会議の中間報告には、少なくとも75歳以上の自己負担引き上げは書き込まれそうだが、話はそう簡単ではない。医師会の主張は「原則2割負担」を全面的に容認したわけではなく、一定の所得層に限っての負担増を認める方向だからだ。また、「決して結論を急ぐべきではない」との釘も刺している。

 それでも筆者の見立てとしては中間報告に、「75歳以上高齢者の自己負担引き上げ増は検討に値する」ぐらいの書き込みはなされる可能性はあるだろうととらえている。その引き換えとして年末に政府が決定する来年度の診療報酬改定の改定率は、医療機関の人件費や設備投資費に相当する「本体部分」がプラスになる公算が極めて高いと予測する。

衆議院の解散総選挙の可能性も

 その見立てはさておき、中間報告に医療費の負担増に関する記載がなかったとしても、国の財政事情を踏まえれば最終報告に入らないことは考えにくく、75歳以上の医療費2割負担は、そのうち間違いなく実行に移されるだろう。ただ、実現するのはあくまで「そのうち」であって、時期はとんと読めない。

 なぜそんなことを言うのか。それは取りも直さず、70~74歳の窓口負担2割引き上げ時の経緯があるからだ。

 歴史を振り返って恐縮だが、70~74歳の医療費の窓口負担割合は、小泉純一郎政権下の2006年度の医療制度改革で2008年度から1割から2割に引き上げることが決定した。だが、2007年度の参議院員選挙で惨敗した当時の自公政権は高齢者の反発を恐れて施行直前に引き上げを凍結。以来、毎年約2000億円の公費を投じて1割に抑え、その後の民主党政権もそれを踏襲してきた。

 2012年末には再び自公政権が政権与党の座を奪取するも、トップの座に就いた安倍晋三首相は2013年度も70~74歳の医療費の窓口負担を1割に据え置いた。2012年秋には、厚生労働省が2割負担の実現に向け、新たに70歳以上となる人から順次2割に引き上げる案を提示して、関係団体の利害が衝突しがちな社会保障審議会医療保険部会の合意を取り付けていた。にもかかわらず、安倍政権は2割引き上げを見送り。翌年夏の参院選をにらんでの措置だった。

 結局、70~74歳の2割負担は2014年度からスタート。当初の予定から6年遅れた。

 今は「安倍一強」とも言われる政治情勢で、11月20日には安倍晋三首相の通算在職日数が憲政史上最長となったところ。これだけ長期政権が続く要因の一つに「野党の多弱」を挙げる指摘は多い。だが、ここへ来て、「桜を見る会」問題などによって、首相には逆風が吹き始めたのも事実だ。すると、自民党内の政治力学が崩れ、首相がどんどん窮地に追い詰められ、たまらず衆議院の解散総選挙に打って出る可能性も十分ある。また解散せずとも、2021年9月には首相の自民党総裁任期が満了となり、その1カ月後には衆院任期も満了を迎える。

 何を言いたいかといえば、この先、政治情勢はともすれば不安定になりがちで、そうなれば、国民に痛みを強いる改革は、“お約束”の「先送り」パターンに陥りかねない。そして結局ずるずるといく。そんな未来図が容易に想像されるが故に、筆者はうんざりしてしまうのだ。お決まりパターンはできればもう見たくない。

(タイトル部のImage:kichigin19-stock.adobe.com)